72おすしたべたい
よくもまぁ細身の体にそれだけ食べれるなと思う。
美里の目の前にいる綾香は次から次へと注文を続けると、手当たり次第に寿司を口に放り込んでいく。
今時の女子高生であるのなら――
『私少食だからぁ~☆ 全然ご飯たべられないんですぅ☆』
なんて想像をしていた美里だったが、目の前のリアルJKといったらどうだろうか。
食べる。
噛べる。
飲べる。
喰べる。
もうすでに10皿など軽く通りこしてしまっている。
普通それくらい食べたらとうに満腹になっていると思えるのに、綾香はまだ足りぬといわんばかりにモニターを操作している。
何皿かの注文ボタンを押すと、綾香は美里に視線を送る。
「美里さんも食べなよ。なにがいい?」
「ぇ、ぁ、ぁにょ……」
目の前の玉子を箸でツンツンしながら目を伏せる。
綾香は奢ってくれるとはいったが、まだ美里にとって信じられる言葉ではなかった。
食べまくったあげくに『私お財布忘れちゃった☆ お勘定よろしく☆』なんて言われやしないかと冷や冷やしている。
お財布にはいくらあったかを頭の中で試算し、目の前の皿のおよその合計を測る。
なんとか足りそうではあるが、これを自分一人で払うとなったら――落ち着いて寿司など食べれる気がしない。
もじもじしかしない美里。
(美里さん……なんか小動物っぽくて可愛いな)
と思いながらマグロをぱくり。
「ぁ、ぁのね……ゎ、ゎたし……あんまり……お小遣いないから……」
なんとか口に出せた言葉。
そんなことを気にしていたのかと、綾香は美里の食べた皿を見る。
まだ美里は二皿しか手をつけていない。
そんな心配も相まって手を付けていなかったのかと、綾香は納得する。
「だから私出すからいいって。ママ結構多めにお小遣いくれたし。大丈夫だよ」
「で、でも……」
奢られるのは、それはそれで申し訳ないと思う。
「それとも少食なの?」
「そ、そぅじゃ……ない……けど……」
下向きながらいじいじする美里。
でも、そんな仕草が少しずつではあるが可愛く思えてくる綾香。
よくよく見れば大きな瞳はいかにも女の子らしいし、ウェーブのかかったパーマな髪は乙女チックだ。
もじもじするのも何だか小動物のように見えるし、小さなお口で玉子を食む姿もまた愛らしい。
「美里さんってさ」
「ぁぃ……」
「なんか小動物みたいで可愛いね」
「ゴホッ!!! ゲホッ!!!」
いきなりそんなことを言うものだからむせてしまう。
イヴにも言われたが、まさか綾香にも言われるなんて思わずに、玉子のかけらとシャリが喉につっかかってしまう。
「大丈夫!?」
「エホッ! エホッ……ら、らいじょうぶ……」
「どしたの」
「ぃ、ぃきなり……へ、変なこというから……」
「え、変なこといった私?」
「ヵ、ヵゎ……ぃいとか……」
「そうかなぁ?」
「そう、だよ……」
(やっぱこの人小動物っぽいな。ハムスターだ、ハムスター美里だな)
(私が可愛いとか……このおかっぱもイカレてる……)
もちゃもちゃ。
ごくり。
「まー、とりあえずさせっかくだし食べようよ。お金のことは気にしなくていいからさ」
「れ、れも……」
「いいからいいから。じゃないと私が美里さん食っちゃうよ」
「ゎ、ゎかった……!」
綾香ならば本当に頭からかじりついてくるかもしれない。
そんなマジさが綾香にはある。
さすがにそんな風に言われては、美里も食べないわけにはいかない。
流れてくる皿を次から次へと取ると、一生懸命口へと運び出す。
「あははは、いっぺんにそんな食べれるの?」
「ら、らって……ぁ、ぁゃかしゃん……食べろって」
上目遣い。
可愛い。
(イヴみたいにトキめきはないけど――これはこれで可愛いな。あれだな、ペットだな。愛玩動物的可愛さだな)
なんて思いながら綾香も寿司を口に運ぶ。
「あ、そうだ」
「?」
急に何か思いついたように綾香はスマホを取り出すと、重なった寿司皿の写真を撮り始めた。
パシャリ。
またパシャリ。パシャリ。
「ゎ、ゎたしのことは……写さないでね!」
「分かってる分かってるー♪」
といいながら恥ずかしそうに箸を咥える美里の顔が映る。
「へっへっへー、どう?」
「ゎ、ゎたしの顔映ってるジャン!……け、消してね!」
「美里さんライン教えてよ。この写真送ったげる」
(人の話聞けよおかっぱ!!!!!)
と思いつつもスマホを取り出すと、連絡先を交換する。
さっそく撮った写真が送られてくる。
恥ずかしそうな顔で箸を咥える自身の写真に、美里は恥ずかしさでいっぱいになる。
「そうだ。美里さんもグループ誘っていい?」
「ぐ、ぐるーっぷ?」
「私とイヴと千鶴さんと凛さんのグルチャあるんだ。美里さんも入りなよー」
「ぇ、ぇぇ……ゎ、ゎたしは……ぃぃ……よ……」
ネトゲのグルチャならまだしも、リア充のグルチャでなど話せる気がしなかった。
それにはいったところで今現在のようにいじられっぱなしの未来が簡単に予想できる。
ましてや学校でさえ居心地が悪いのに、プライベートな時間まで居心地の悪さを覚えるなど――。
でも、ちょっとだけ、興味は沸いてしまう。
「……ど、どんなやりとり……してるの?」
「んーとね、こんな感じ」
グルチャ画面を美里に見せる綾香。
なされているやりとりのほぼ大半は綾香と凛の罵り合いである。
よくもまぁここまで続くなぁと思えるほどには、二人は毎日罵り合っているようだ。
たまに千鶴が喧嘩を止めようとしたり、イヴが空気も読まずに筋トレの写真をあげたり。
ちょっとしたカオス空間が広がっている。
千鶴以外の個性が強すぎて、空気などあった空間ではない。
これなら――もしかしたら美里もいてもおかしくはないかもと思えてしまう。
「そ、そういう……やりとり、してるんだ……」
「そそ。美里さんも誘っとくね」
(まだ入るっていってねーよ……本当に話きかねーなこいつ……)
通知音がなってグルチャへの参加が促される。
目の前で参加を促されているし、ここで不参加なのはさすがに空気が読めない奴なことくらい、美里にもすぐ分かる。
仕方なく、参加ボタンをぽちる。
「ほ、ほんとうに……私コミュ障だから……じ、じぇんじぇん……話せないよ……?」
「いいのいいの! 友達は多いほうがいいし。改めてよろしくね美里さん」
「ぁ、ぁぃ……あやか……しゃん」
よく分からない握手を交わす。
柔らかすぎる美里の手に対し、綾香の手はうちに筋肉があることがよく分かる手をしている。
さっそくグルチャに一枚の写真が投下される。
『美里さんと寿司(魚の絵文字)』
送り主は綾香である。
そこには美里の顔が映った現在の写真が送られている。
「あ、あやかしゃん! か、顔! 私の!」
「美里ちんの可愛い写真投下したった」
「や、やめてよ! もうぅぅぅぅ!!!」
学校もすでにお昼休みの時間だったのか、返事はすぐに帰ってくる。
『綾香さんと美里さんでご飯? 私もお寿司食べたいな』
と千鶴。
『サボってんじゃねーよおかっぱ』
『みーちゃんかわゆ♡♡♡』
『おかっぱは気持ち悪いからその不細工な面絶対載せないでね』
と凛。
『寿司いいなー。俺も今じーちゃんと飯食ってたわ』
写真付き。
写真の中では何故かサングラス姿のハゲた爺様が焼肉をつつきながら最高のガッツポーズを決めている。
(な、なんだか……これはこれで……いい、かも)
していることがいかにも女子高生っぽいなぁとニヤける。
美里も改めて自分が女子高生であると認識すると、ちょっとだけこういったやりとりもいいと思えてしまう。
(リア充どもなんて……陰キャをいじる諸悪の根源だと思っていたけど……こ、こういうやりとりをするのは……)
「楽しいでしょ?」
「ぅ、ぅん……ちょっと……」
へへへ、なんて笑う。
「ぁ、ぁのさ……私も……写真……撮っていいかな……」
「いいよ、とろとろ!」
お寿司の写真をパシャリ。
ふざけた顔をする綾香をパシャリ。
そして。
「二人で写真とろーよ」
「ぇ、ぇぇ……」
二人でパシャリ。
グルチャに投下。
『美里さんと綾香さん楽しそうでいいなぁ』
『みーちゃんかわゆす♡ おかっぱは死ね』
『俺も寿司にすればよかったな』
「ぇ、ぇへへへへ……」
注文した皿が小さな新幹線に乗ってやってくる。
一つは綾香が注文したお皿。もう一つは美里が注文したお皿。
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