54強敵
三日三晩。
時間にすれば72時間ほどの時間。
女子高生 VS 最強恐竜。
綾香はその72時間を
殴。
蹴。
投。
突。
過酷な状況を経験してきた軍人であろうと。
数多の強敵を相手にしてきたファイターであろうと。
寝ず、食わず、休まず、死なずして――
72時間を戦い続けるというのは不可能である。
綾香は――
72時間という時間を、
寝ることもなく、食べることもなく、休むことなく、死ぬことなどなく――
喧嘩続けた。
その牙がスクール水着を割き。
その爪が髪を散らし。
その巨体が打ち付ける。
数十も、数百も、何千も。
その喧嘩の果て。
勝利のは。
その最後の瞬間、相手を見下していたのは。
最後の一撃が相手を沈めたのは。
夜明けの日が差す、暗い滝つぼの先。
拳をその天向かって突き上げていたのは。
『グ……グオオ……』
「あなたは強かった……あなたとても……とても……強かった」
『グ…………』
「でも――」
その拳を突き上げていたのは――
女子高生綾香ッッッッッッ!!!!!
見上げた澄み渡る朝の空、一台のヘリコプターが姿を現した。
あれはこの森にきたときに乗ってきたもの、つまり、そこから降りてきたのは。
バババババババ――。
タンッ。
ヘリコプターからパラシュートもつけず、生身で降りてきたその姿は。
ズシャッ!!!
朝の支度を終えて娘を迎えにきた――
割烹着姿の――
小林真由美!!!!!!
「ほら綾香! ヘリに乗って! 学校遅刻するでしょう!」
「うん、ありがとう、ママ」
ティラノサウルスのことなど聞きはしなかった。
綾香がどのようにして過ごし、どのような戦いをして、どのように強くなったのかなど聞きはしない。
聞く必要もない。
ニヤリ笑いながら母は一度滝つぼの方へ視線を向ける。
飛び散った泥と血の痕。
砕け散った岩と壁の跡。
傷だらけなのに笑顔の娘の姿。
そして何よりも――
最強恐竜の倒れる姿。
(綾香は――私の娘は――どうやら私の血を受け継いでいるようだ……クク……)
ヘリの着陸を待つまでもなく、母は綾香を背負うと一蹴りでヘリコプターまで戻る。
豪快に揺れるヘリコプター、母と綾香に慌てることもない運転手。
「ミセス真由美、行先は?」
白人のナイスガイが真由美を見る。
ナイスガイは知っていた。真由美がどのような人物なのかを。
真由美がいくども戦いをその拳だけで潜り抜け、いくどもの勝利を収めていたことも。
そして、ナイスガイは思う。
その地上最強の母の遺伝子を。確実に伝承されている娘の強さを。
「決まってるでしょ! 学校よ! 遅刻しちゃうでしょ!」
「OK真由美、全速力で行くよ!!!」
「私の足よりも遅かったら承知しないんだからね! さぁ、行きましょう!!!」
親指を立てて返すナイスガイ。
最高に白い歯がキラリと輝く。
最高速度で空を駆けていくヘリコプター。
「あのさ」
「なに、綾香」
「ママって何をしていた人なの?」
現在専業主婦をする母のことを、真由美は知らない。
聞いたことがないわけではないが、母はその真実を語ろうとはしなかった。
「真由美、娘さんに武勇伝を聞かせていないのかい?」
ナイスガイが言う。
「娘に言う話でもないでしょう」
「そうか、娘さん、君のお母さんは――」
ピシンッッッ!!!
眼光が空気を震わせる。
「やぼなことは言わなくていいんだ、マイク……娘には関係のないこと……そうだろう、綾香?」
全力で頷く綾香。
全力でおくちチャックするナイスガイマイク。
(たぶん、たぶんだけど――)
綾香は母を想像する。
随分と昔、綾香はネットにあがっていたフェイク動画のことを思い返していた。
海外から流れてきたフェイク動画。
あからさまにフェイクだと分かる動画である。
コメントは誹謗中傷だらけ、下を向く親指の数、数千。
人は誰も、その動画を信じなかった。
人はそれを真実だとは思わなかった。
マジック、加工された動画、素人の遊びと思われた動画。
(あの動画は――)
動画を思い出す。
割烹着姿の女性が、まるでゴ〇ラのような化け物と戦う姿。
割烹着姿の女性が、その素手だけをもってして化物を圧倒していく姿。
あれはきっと――。
「綾香、今日は何時に帰る?」
「えっと、ちょっと寄り道してから帰りたいんだけど、いいかな?」
「もー、あんまり遅くなっちゃだめよ? 遅くなるならちゃんと連絡いれてね」
「うん。分かった」
「寄り道ってどこに寄ってくるの?」
その母の一言は、純粋に娘を心配した言葉である。
それ以上の意味も、それ以上の探りもない。
だが、その一言に綾香は目を細める。
ヘリコプターから見える景色。海は朝日を浴びて黄金色に輝いている。
そして、その海の先にはピンク色した船が一隻、水平線の彼方へと走っている。
「相手が……倒さなきゃならない相手がいるの……」
娘の言葉に、母は笑う。
「そう……綾香頑張ってね! お母さん応援してるから!」
「ありがとう、ママ」
倒さなきゃならない相手がいる。
倒さなきゃ得られない愛がある。
倒さなきゃ報われない自分がいる。
(今の私なら――)
映画館の時を思い出す。
目に見えぬ残像を思い出す。
(あの速さも――あの戦闘力にも勝てるッッッ!!!!)
娘の手が、硬すぎる矛になる様を、母は笑顔で見つめていた。
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