51AはアメイジングのA
ドドドドドドドドドド――
打ち付ける大量の冷水。
深き谷底の先で、綾香は滝に打たれていた。
その姿は何故かスクール水着である。
常人ならば耐えられるはずもない重たき水。
時折、綾香の身体の何倍もの大きさの流木が落ちてくるが、綾香は微動だにしなかった。
ドドドドドドドドドド――
耳を劈く水の音。
打ち付ける冷水。
そのどれもが綾香をいくども失神させ、そして綾香は何度もの復活を遂げていた。
結果。
その耳に聞こえるのは水の音ではない。
あの優しき声。耳にすれば心浮かれる声。
イヴ。
身体に打ち付けるのは冷水ではない。
触れ合った記憶たち。いくども触れ合ったあの人の感触。
イヴ。
「そろそろ目覚めの時間だ――……」
綾香の様子を見ていた母の姿――それもまた常軌を逸したものである。
組まれたその腕はまるで金属。黒く、太く、女性の――否、人では考えられぬほどの極密度の筋肉。
逆立った髪は滝つぼから流れる風に吹かれてもピクリともしない。
その背には鬼の形相が宿っている。
母――真由美。
またの名を『地上最強の母』
母は武人であった。
かつては最強と名を知らしめた最強のホモサピエンス。
これは罰。
禁を破った娘への罰であり、肉体を極限まで鍛えるための修行でもある。
ゴパァ!!!
滝つぼの遥か上。川幅5メートルを覆いつくすほどの巨大な丸太が姿を現す。
真っ逆さまに落ちていくその丸太の先には――綾香。
目を閉じた綾香の上に迫る丸太。
「さぁ、起きろ綾香」
落ちる瞬間――
丸太が今まさに綾香の頭上に落ちようとした刹那。
ピシャアアアアァァァ――……。
丸太ではない。
その一撃は丸太を、滝を、空を、遥か上空、宇宙空間にある衛星まで届く。
振り上げられていたのは拳。
星を穿つ究極といえる最強の矛。
拳という名の矛を手にした娘を前に、母は笑う。
「クク……綾香、“会得”だな」
「うん、ママ……」
踏み出した一歩。
その足は以前の綾香とはまるで違うものである。
貧弱体形、つるぺた体系。
その運動不足と不摂生な食事からもやしのようだった体形が――
麗しき筋肉というドレスを身にまとっている。
瞬間。
綾香の体型は元に戻る。
「これでスマホは返してくれるよね?」
「クク……受け取れ」
パシッ。
あの日。母に叱られたあの日。
スマホは没収されていたはずだった。
なのに、あろうことか綾香はそのイヴ依存症の禁断症状に陥り、スマホを見つけ出すと勝手に拝借していたのだ。
そうして、また罰を受ける。
その罰も、今こうして終わる。
「ママ……私、まだまだ強くなりたい」
「強くなる……か。なんのため?」
「愛する人を――私の愛する人を誰にも取られないため!!!!!」
娘の気迫に、母は笑う。
「人のため、国のため、文化のため、ルールのため。人は理由をつけて、大義を掲げて強さを得たいと願う」
語りだす母。
「……」
「しかし、それらは言い訳にすぎない……詰まるところ……」
拳を握る。
シュンッ――
――ズシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
目視出来ぬ手刀が、山を両断する。
「エゴ。強くありたいと願う気持ち――その根にあるものはただの欲望」
「……」
「綾香よ……もっと欲しがれ、欲しがって欲しがって――己の無力さを感じろ」
「……」
「そうして人は――無力さから、愚かさから」
「……」
「強さを手に入れるッッッ!!!!!!!!」
若干何を言っているのかわからないが、綾香はとりあえず頷く。
「分かったよ、ママ」
「いいだろう。綾香、お前はこれから三日三晩、この山に籠れ。そうして三日たった時、お前が生きていたなら――」
(私まだ帰っちゃダメなのか……)
ゴクリと唾を呑む。
てっきりこのまま帰れると思っていたのに、さらに三日三晩この山の中など、綾香に耐えられるものではない。
強くなりたいなんて言わなきゃよかったと思うが、今更遅い。
「その時は、お前はさらに強さを手に入れているだろう」
母は背を向け、歩き出す。
「じゃぁな、綾香。三日間、己の力だけで生き抜いてみろッッッ!!!」
なんかバトル漫画っぽくなっている展開だし、頷かないわけにもいかないから頷く。
(ママ、スイッチ入ると何言ってるか分かんないんだよな……でも、このまま帰ったら殺されかねないし……)
そこにはもう、母の姿はない。
母が消えた瞬間、あたりには獣の気配が立ち込める。
獲物を見つけた視線が綾香を射る。
だが、綾香は恐ろしいとは思わなかった。
相手がいる。この鍛えられた肉体を試せる相手がいる。
喧嘩を出来る奴らがいるッッッ!!!
振り返れば、そこには無数の獣たちの姿。
クマ、虎、象、ワシ。いずれも警戒心マックスの眼光で綾香を睨みつけている。
「いいよ、かかってきなさ――」
バクり。
警戒心の群れが、一口に消える。
「な――!!!」
無数の獣たちを食らうその口――
獣ではない、大型の哺乳類ではない、巨人ではない。
そこにいたのは――
「ティラノサウルス!!!!!!!!!!!」
『グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
現代にはいるはずもない相手。
現代にはありえないはずの凶悪。
現代にはありえない巨体。
綾香は思う。
(こいつは――……)
ティラノサウルスの牙が、綾香を向く。
(最高の喧嘩相手だッッッ!!!)
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