40冷戦
青龍の方角、千鶴。
白虎の方角、綾香。
朱雀の方角、凛。
玄武の方角、イヴ(欠席)。
カフェに集まった三人による質疑応答。
「あの……いいかしら?」
正統派美少女である千鶴が口を開く。
綾香にもない、凛にもない、同じ女性を相手にしているはずなのに、その顔は、
恥ずかしさに染まる薄いピンクの頬。
手のひらを太ももに挟むともじもじ。
伏し目がちだけど、潤んだ大きな目。
乙女である。
「さっき言っていた、イーちゃんをどう思っているかってこと?♡」
「うん……」
「そ、そんなこと聞いてどうなるっていうの」
と、綾香。
「ちょっと、その気になって……あれほどイヴのことを付け回すっていうことは、何か特別な感情でもあるのかなって」
千鶴がイヴというたびに、綾香は今にもキレそうな表情になる。
どうどうと治める凛。
「もちろんあるよ♡ あたしイーちゃんのこと好き♡ 隣の綾香ちゃんもそうだよ♡」
「それは、友達として?」
何を聞いているのだろうと千鶴はモヤモヤする。
決まっていること。友達として好きに決まっている。
「もちろん♡」
だよな、と千鶴は安心してしまう。
「恋愛対象としてだよ♡」
安心が崩れる。
「恋愛対象として? それはあの、そのイヴとお付き合いしたいっていう意味?」
「勿論♡ ね?♡」
同意を求める凛に、綾香も頷く。
「そうなんだ……そうなんだ……」
「でも、どうしてそんなことを聞くの?」
「え、あ、どうして、だろう……」
「そんなの決まってるじゃん♡ えっと(こいつ名前なんだっけ?)」
「あ、私は鈴木千鶴です」
「そういえばちーちゃんって呼ばれてたね♡ ちーちゃんもイーちゃんのこと好きだから聞いたんでしょ?♡」
「ち、違う! そんなこと! 好きなんかじゃ!」
ない、と言い切れない。
額に汗を浮かべながら千鶴は声を荒くしてしまう。
でも、無いと言い切れない自分にも混乱してしまう。
二人を呼び寄せてこんなことを聞くなど、どうかしている。
流れる汗を、拭う。
何か思いついたような凛は椅子を千鶴の隣にくっつけると、その顔を間近で見つめる。
「な、なに?」
凛の見透かすような瞳が怖い。
見ているのは顔であって顔ではない。
皮膚の向こうに隠された本心を見透かすような目つきをしている。
レロォ――……
「!?」
いきなり千鶴の頬を舐める凛。
「いけないちーちゃん♡ この汗はウソをついてる味だよぉ♡」
「そんな汗で嘘かどうか分かるわけないでしょ!」
「うぅんわかる♡」
「分かるわけないじゃない!」
「じゃぁ、どうして……」
ガラス細工でもはめ込まれた、澄んだ凛の瞳が見据える。
「特別な感情、なんて聞いたの?♡」
「そ、それは……」
「ちーちゃん、あなたはイーちゃんのことが好きなんだよ♡」
「す、好きなんかじゃ!」
「ほぉら♡ 無いって言いきれていない♡ それはねちーちゃん、あなたが」
ドン!
綾香がテーブルを叩きつける。
「凛、そして千鶴さん、いい加減にして」
ゴゴゴゴゴゴ――。
「私には夢がある」
「あ、綾香さん?」
「それはイヴの花嫁になることだ!!!!」
ドギャアアアアン!!!
(最高にダサい決めポーズ付き)
凛は目をにゃんこっぽく微笑み、千鶴は何か衝撃を受けたような顔をしている。
「花嫁が、綾香さんの夢?」
「そうよ――私の夢は彼女になることでは無いッッッ!!!
いずれは花嫁になり、イヴと二人でウェディングドレスを着る事ッッッ!!!」
その目に、一切の迷いはない。
「あー、いいねぇ♡ 二人でウェディングドレス♡ 凛も着たい♡」
何故、何故ここまで吹っ切れて言うことが出来るのだろうかと、千鶴は目をパチクリさせている。
「千鶴さんが何をしたいのか、私は分からなかった。でも、気付いたの、千鶴さん貴女は」
「私は……?」
「イヴが特別ではない――自分はイヴに対して特別な感情を抱いてはいないと肯定してほしいんでしょう?」
「……?」
「綾香ちゃん♡ ちょっと黙ってて♡ おばかさんがお利口さんの真似しないで♡」
「あ、はい。すんません」
ちょこんと座る綾香。
ちょっと自分でも何言っているかわかんなくなってきたので、座ってジュースを飲む。
みっくすじゅーちゅおいちい。
「でもさ、綾香ちゃんの言っていることも分かるな」
「え?」
「千鶴さんは今自分の感情がなんなのか分からないんじゃない?」
「確かに、そう」
「千鶴さん可愛いね♡」
「そ、そう?」
「今何か感じた?♡」
はっとする。
イヴに可愛いと言われるとドキドキして緊張がとまらなくて顔が赤くなってシドロモドロになっていた。
しかし、凛に言われても何も感じない。
はい、そうですか。くらいの感情くらいしか湧き上がってこないのだ。
「……」
「何も感じなかったんだね♡ それが答えだよ♡」
「これが、答え」
「さて、綾香ちゃん、帰ろう」
「え、もういいの?」
「うん♡ 私たちの役目はここで終わり♡」
ぐいと綾香を引っ張って出ていく凛。
一人残された千鶴は、手で胸を押さえながら窓の向こうを見ている。
「出てきちゃっていいの?」
「いいのいいの♡ それより綾香ちゃん」
「何?」
「ライバルが出現したんだよ。元々私たちだけだった戦争に、大きな相手が出来たと思わない?」
「た、確かに」
「私たちの戦争は刀で斬り合うような戦争だった。そこに千鶴ちゃんという核兵器がやってきたんだよ」
「大げさすぎない?」
「……分かってないなぁ。いい? 私たちは結構暴れん坊キャラなのに、ちーちゃんは正統派。
どんなドラマだってアニメだって映画だって、最期にもっていくのは正統派なんだよ?」
「う……」
「あたしたちも負けてらんないんだから♡」
「そう、だね……」
残されていた千鶴はラインを開く。
新しい友達が一件追加されている。
後ろ姿のアイコン、名前はりく。
六道からとって『りく』と名乗っているらしい。誰もそんな名で呼ばないのに、りくなんてつけているイヴがちょっとおかしい。
『イヴ、今日はありがとう』
『今日は思いがけなく会えて楽しかったよ』
『また行こ』
返事はすぐにでも来る。
『うん、絶対誘う』
『楽しみにしてる』
◇ ◇ ◇
部屋でラインをしていたイヴの元に妙に神妙な顔をした父が訪ねてきた。
「イヴちゃん、ちょっとお話があるから下にきて」
「え、なに?」
「大事な話なんだ。ちょっときて」
別にテストで悪い点をとった覚えはないし、学校で悪さをした覚えもない。
タバコも酒もやってないし、ウリもやっていない。
思い当たるものがないが故に、変に緊張してしまう。
父がこんな顔をするなんて――初めて見ることだ。
一階に降りると、母も揃っていて二人して悩まし気な顔をしている。
「イヴ、そこ座って」
母がうながす。
「なんだよ、お袋に親父。二人してそんな顔して」
「……実はね、お母さん実家に帰ることにしたの」
「は!? それって」
「実は少し前から話していたんだ。父さんも母さんと何回も話したんだけど、こういう結果になってしまった。すまない」
「おいおいおいおいそれって」
その面持ち、重たい空気。
つまりは別居、つまりは離婚。
今まで仲が良かった両親なのに、何故こんなことにと、イヴは慌てふためいた。
両親が離婚してしまえば、イヴもどうなるのか分かったものではない。
「あぁ、実は……」
父が封筒を差し出す。
中には紙切れが入っていることだろう……きっと、離婚届。
「そんな……なんで、どうしてだよ親父、お袋……」
もう泣きそうだった。泣いていた。
「すまない……イヴ」
「ごめんね、イヴ」
あんなに仲が良かったのに。
イヴは涙を流しながら、封筒の中身を取り出した。
「離婚届……じゃない?」
えっと涙が引っ込む。
出てきたのは一枚の白黒の写真。
だが、見たことがあるもの。
「実は……イヴちゃんに妹が出来ましたー!!!!!」
「イエーイ!!!!!!!!」
あんなに暗い表情をしていた二人の顔がぱっと明るくなると、二人してクラッカーを鳴らす。
「……は?」
「イヴちゃん離婚するかと思った??? ちがいまーす!!!」
「離婚なんてしませーん!!! ママ、おなかに命授かりましたー! ひゃっほう!」
ハイテンション両親に、イヴは開いた口が閉じないし、ジト目が止まらない。
「ということで、ママはしばらく実家で安静にします」
「パパも仕事しつつ、お義母さんのところ行くから、イヴちゃんお留守番しててね」
「ふ、ふっざけんなああああああああああああああ!!!! どんなドッキリだ!」
「泣きそうなイヴちゃんかわいー!」
「イヴお姉ちゃんになるのよー! ふぅー!」
もう付き合うのがばからしくなる。
しかし、まさかこの年で妹が出来るとは思ってもいなかった。
「あのさ、親父とお袋いくつだっけ?」
「パパは永遠の14ちゃい」
「ママは永遠の17ちゃい」
「もういいや。部屋いく」
ダメだこいつら。バカだ。とまらないバカだ。
イヴはあきれ果てて自室へと戻っていく。でも、お姉ちゃんになるっていうのは――ちょっとばかり嬉しい。
「あ、イヴちゃん! さっそく明後日にはパパもママもいないから、おうちのこと頼むね!」
「うぃー」
「ママ産むのも向こうでする予定だから。しばらくおうちに一人になるかもだけど」
「あー、いいよ。全部やっとくから。それよりお袋はしっかり産んでこいよ」
階段をあがっていくイヴ。
そっけないふりをしていたが、両親にはイヴの口元が笑っているのがしっかりと見えた。
(妹かぁ……名前候補考えようかな……)
これから、イヴはしばらく一人。
そう、この実家に一人きりになるのだ。
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