34過剰性可愛依存症
いつもより長い時間、千鶴は鏡を見ていた。
顔を洗って、歯磨きをして、髪の毛を整えて、ほんのりとメイクをして。
鏡に映った自分を見てる。
『喋らないほうが……』
(そう、かな……)
頭に過る言葉。
でも、鏡を見れば見るほど可愛いなんて自信は持てない。
頬を赤く染めながら、しょんぼり。
(可愛くなんて……ないよ)
鏡に映る千鶴は自信がなくて、可愛くなくて、ぶさいく。
だって、可愛いねなんて言われたことがないから。
普通の女子高生たちはなんのためらいもなく『かわいい』という。
だが、その言葉は本当に可愛いと思っていっているのだろうか。
条件反射的に交わされる言葉に思える。
『可愛い』
だから、きっとイヴの言葉だってそうだろう。
可愛いなんて、女子高生なら誰だって使う言葉。条件反射的に出される言葉。
本心じゃない。本当の意味で可愛いだなんて。
(……可愛くなりたい)
何故そうなりたいのか?
と問われたら、答えられない。
「千鶴ー、そろそろ学校でしょ?」
「あ、もうそんな時間!? 行ってくる!」
母に言われスマホで時刻を見て見ればもう出なければならない時間。
千鶴はさっさと靴を履くと玄関を飛び出していく。
遅れるわけにはいかない。
だって、もしも遅れてしまったら。
(すれ違っちゃうかもしれないし)
今日こそは絶対にちゃんと制服を直してもらう。
だから、早めに学校にいって、いつ来てもいいように待つ。
別に逢いたいからとか、顔を見たいからという理由ではない。
大事なことなので二度。
別に逢いたいからだとか、顔を見たいからじゃない!
(制服を直してもらうため、これは私の面子にかかわる問題だから)
『お前運動神経いいな』
あのときの笑顔が焼き付いている。
追いかけていたはずの相手はいつの間にか背後に立っていた。
あんなに眩い笑顔で、自分のために飲み物まで用意して。
あの時――。
頬が赤くなって――。
頭を振って否定する。否定しなければならない。
だって。
でも。
あんな笑顔で
『お前可愛いな』
なんて言われたら。
顔から湯気があがる。
リアルすぎる想像が、脳内麻薬を分泌すると顔が燃え始める。
千鶴が学校についたとき、校内にはまだ誰の姿もなかった。
何故だかほっとした。まだ誰もいない。
だから、イヴもまだ来ていない。
もしすれ違ったらどうしようと考えていた。でも、これならば大丈夫そうだ。
腕章をつけて、校門の前に立つ。
イヴはまだ、来ない。
生活指導の先生も現れ、同じく他の風紀委員も顔を揃える。
「お、鈴木、お前なんだか今日はおめかししてんな。可愛く見えるぞ」
「そうですか? 別におめかしなんか……」
先生の言葉は響かない。
ガハハハハ笑う声は汚くて、接触したくない。
『黙っていれば……』
あの時みたいな胸の高鳴りがない。
そればかりを考えていると、やってきた生徒のことなんか目に入らなかった。
「おはよう、鈴木さん」
「……おはようございます」
「鈴木さん、この間ノートありがとね」
「いえ、気にしないで」
現れた同級生が声をかけてくる。
笑って挨拶はしてくれるけど、どの言葉も『さん』がついている。
距離感というか、同級生ではあるけど、友達ではないみたいな。
友達、というか知り合いなだけ。顔を知っているだけ。
『じゃぁ、ちーちゃんだな』
イヴだけが、ちーちゃんと呼んだ。
目が、耳が、イヴを探してしまう。
それ以外の生徒なんか、道端の石ころのように思える。
右に倣えで揃えられた有象無象。
きっとこの黒い髪たちの中で、イヴならば目立って一撃で見つけられることだろう。
「そろそろ、全員きたかな。じゃぁ俺は授業の準備あるから、鈴木よろしくな」
「あ、はい。分かりました」
先生が引き上げると、他の委員たちも引き上げていく。
本来ならば残らなくてもいいはず。
だが、まだ目的の人は現れていない。だから、千鶴はその場から動こうとはしなかった。
「あ、昨日の人だ」
かけられた声に反応する。
イヴではない。昨日殺気全開で殺そうとしてきた綾香である。
「あ、おはようございます」
「昨日はごめんね。私おバカだからさ、すぐ勘違いしちゃって……」
「気にしないで。私も気が立っていたから」
「あはははは……風紀委員お疲れ様ね」
申し訳なさそうに笑い、綾香は去っていく。
「はぁ……」
違った。
なんだか、露骨にがっかりしてしまう。
声をかけられて一瞬期待してしまった。
(今日は来ないのかな)
もしかしたらバスが事故で遅延しているとか、体調不良で休む場合だってあるだろう。
そういった可能性を考えれば、このまま待つのは時間の無駄。
校舎の時計を見れば、時刻はもうそろそろ限界まで迫っている。
(戻ろう……)
逢えると思っていたのに。
ため息。
ぽんぽん。
いきなり肩を叩かれる。
(もしかして――)
金色の髪。
第二ボタンまで開いたシャツ。
短すぎるスカート。
「おっす、ちーちゃん」
「六道さ――」
「今日も風紀委員か?」
逢えた。
「あ、あ、あ、あ、あ貴女!」
「ん、なぁに?」
笑顔。
「き、今日こそはちゃんと制服を正してもらいますからね!」
「おー、今日も元気元気。でも、やっぱりちーちゃんは黙ってたほうが」
その言葉を。
「可愛いよ」
待っていたんだよ。
トゥンク。
先生に言われたときは何も反応しなかった胸が。
まだ知り合って二日目の人に。
自分の面子を潰した相手なのに。
「そろそろ授業はじまるぞ。ほら、早くいこーぜ」
グイ。
手を――引く。
何躊躇いもなく。イヴは千鶴の手を握ると校舎のほうへと導く。
制服のことを正そうと思ったのに。
乱れた制服のことを注意してやろうと思ってたのに
(どうして――)
「ちーちゃん、昨日は早かったのにな。今日は寝坊助か?」
笑っていうイヴ。
千鶴を引っ張ていくその顔は、どうしてか分からないけれど光輝いて見える。
「ぼさっとしてんなよ、ちーちゃん」
(どうして――言葉が出てこないの――)
トゥンク。
鈴木千鶴はこのとき、産まれて初めて――16年生きてきた中ではじめての感情を抱いてしまう。
後に分かった答えではあるが、
人はそれを恋と呼ぶそうである。
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