32アヤカ・ゾルディック
何故、綾香がぶち切れていたのか――。
何故綾香はここまでの邪悪な殺気を醸し出していたのか――。
ここからは綾香の視点でお送りしよう。
綾香はご機嫌であった。
凛という邪魔ものはいたが、それでもイヴのおうちにお泊りが出来たからだ。
一緒にお風呂に入る、という夢はまたしても叶わなかったが、それでも綾香の機嫌は最高潮である。
バスに乗りながら、イヴの写真を見る。
三人で一緒に寝た。そして朝一番に起きた綾香は、イヴの寝顔に見とれていた。
パジャマ姿。第三ボタンまで開けられたパジャマのシャツからは、大きな谷間。
寝ているその姿は、天使といわず何という。
尊い。
昨今流行る言葉。
そんな気持ちが綾香の胸を温かくする。
貴重なイヴの寝顔。
撮影する綾香。
持っていたそのスマホの連射をフルに活用すること、数分。
ギャラリーに追加されたイヴの顔の枚数。
およそ数百枚。
角度、パーツ、加工。
あらゆることをし、イヴの寝姿を収めている。
あまりに撮りすぎてしまったために、マイクロSDはそれだけで保存容量がマックスになるほど。
「てぇてぇな、てぇてぇてぇてぇ、てぇてぇなぁ」
綾香、心の俳句。字余り。
バスに揺られながら、写真を見ては尊い気持ちにあふれる。
少しだけ開かれた口が、閉じられた目が、煌めく金髪が、柔らかそうな谷間が。
綾香をハイにする。
何回見ても見飽きない。
何回見ても新鮮な気持ち。
何回見ても、愛が溢れる。
「イヴの寝顔。イヴの寝顔」
大量の獲物獲得に、綾香は自分が漁師になった気がしていた。
今の自分は愛の海に出航する漁師。
網を救えば、大量のイヴの写真と想い出。
(今日も大漁だぁ――!!!)
船長綾香は歓喜の声をあげる。
『次はー○○三丁目、○○三丁目』
「はっ!?」
バスのアナウンスに目が覚める。
○○三丁目……降りるべきバス停はすでに通り過ぎてしまっている。
写真に集中しすぎてしまっていた綾香は、あわてて停車ボタンを押す。
「やだ☆ 綾香ったらいっけなーい☆」
自分で自分を小突く。
きっと凛がいたらドン引きされるような昭和感溢れるセルフツッコミである。
やっと停車すると、綾香はダッシュで学校へと向かう。
学校に遅刻すること、それはつまりイヴと過ごせる時間が少なくなるということ。
赦されることではない。
写真を見続けて没頭してしまっていた自分を悔いた。
写真のイヴは勿論尊い。
しかし、生のイヴはもっと尊い。
だって、写真のイヴはあくまで電子な存在。
触れることもない。匂いが漂うこともない、その体温を感じることもない。
生って最高!!!!!
少し勘違いされそうなワードを、綾香は脳内でつぶやく。
まだチャイムは聞こえてこないので、遅刻にはならないだろう。
それでもイヴに逢うため、その時間は一秒でも早くしなければならない。
全力で駆ける。
足にチャクラを溜め、NAR〇TO走りで駆けていく綾香。
(畜生……ク〇マ……お前のチャクラを分けてくれ!)
(いいだろう……俺のチャクラ、存分に発揮しやがれ)
脳内妄想です。
しかし、脳内妄想によるドーピングは功をなす。
さらに綾香の足が加速すると、もう校門が見えてくる。
(あれは……凛さん!)
校門から少し離れた場所に凛がいる。
どうしてか凛はその場に突っ立ったまま動こうとしない。
その視線の先にはなにがあるのか。
近づくと、校門のほうからは何やら騒がしい声も響く。
(これは……愛妻の声! もう一人は……誰だ?)
駆けるのをやめ、校門のほうへ視線を向ける。
イヴが、見知らぬ雌豚に腕を掴まれている。
『いやぁ、離して! やめてください!』
とイヴ。
『ゲヘへへへへ。いいじゃねぇかよぉ。そんないい身体してんのが悪いんだよ』
『やめて! 助けて!』
泣き顔イヴがその場を走り去ろうとする。
『待てよお嬢ちゃん、逃がすわけねぇだろぉ。さぁ、いいとこへ行こうぜぇ』
雌豚オークがイヴを掴む。
涎を垂らしながら、そのふてぶてしくいやらしい腕がイヴの肌を穢している。
荒い吐息がイヴを穢している。
その視線がイヴを穢している。
その空気がイヴを穢している。
穢している。
穢している。
穢している。
穢している。
愛妻(イヴのことを――……)
ケガシテイル!!!!!!!!!!!!!!!!!
(無論綾香の妄想と幻聴である)
暗黒が――
綾香を染めるッッッ!!!!!!!!
ドス黒いオーラの塊となった綾香。
もちろん今のセリフのやりとりは綾香の勝手なる妄想である。
しかし、綾香の耳にはそれがリアルに――まるで至近距離で実際に話された会話のように聞こえていた。
知らぬ雌豚の肩を――掴んだ。
雌豚の欲に塗れた視線が、綾香を見る。
(この目が、イヴを)
(この口が、イヴを)
(この腕が、イヴを!!!!!!!!!!!!!!!)
憤怒。
「お前を……
殺すよ……
ここで……
今」
そして、現在。
「え!?」
(何いってんだ綾香!?)
ピンクポニテもイヴもきょとんとした顔をしている。
どういうわけだか知らぬ二人。とりあえず綾香がぶち切れているというのは分かるが――。
肩を掴む綾香の手が力む。
「い、痛い!」
「おい、やめろ綾香! どうしたんだよ」
「大丈夫……もう大丈夫だから……」
今一番大丈夫じゃないの綾香であることに間違いはない。
勝手な妄想によって鼓膜を支配された綾香は、目の前のピンクポニテで雌豚な千鶴を殺すことしか頭にはない。
「あ、あなた誰ですか!」
「おい、綾香! やめろって!」
「大丈夫……痛くないよ……」
大丈夫じゃないし、千鶴の方は痛みを増す。
「や、やめて!」
「おい綾香ッ!!!」
スパァン!
綾香の頭を、凛のスクールバッグが引っぱたく。
もちろん、その程度で綾香さんが妄想状態から戻れるはずもない。
そして凛もそれを分かっている。
「おバカ綾香ちゃん! ほら、これで目を覚まして!!!」
スクールバックから取り出したもの――
それは、真っ白な布。
真っ白な――イヴのブラジャー!!!!
ブラジャーを綾香の顔にぶち込むと、綾香の邪悪なるオーラが純白で浄化されていく。
「あ、あああ……ああ……」
「まったく綾香ちゃんはトラブルしか起こさないんだから♡ 持ってて良かったよ」
「なんで凛ブラなんか……って、あれ? それ俺の……」
「あ♡ ごめんね、昨日お泊りしたときに間違えて持って帰っちゃったの♡ だから返そうと思って持ってきたよ♡」
「そうなの?」
疑うが、それ以上のツッコミはしない。
下手に突っ込んで出てくるのは蛇か。もしくはそれ以上のモンスターだって出てくるかもしれない。
ブラジャーを帰してもらい、イヴは恥ずかしそうにさっさとバッグへとしまう。
「はい、一件落着♡ イーちゃんおはよ♡」
「お、おう。おはよ」
イヴの腕を抱き、凛は校舎へと入っていく。
「あああ――……」
浄化され、そのまま召されそうな綾香。
肩を抑えながら去り行く二人の背を見る千鶴。
「苦ッ……これじゃぁ風紀委員の面子が丸つぶれ……あの金髪……六道イヴに違いない……」
「あああ……」
「今に見てなさい! 絶対、絶対許しませんから!!!」
千鶴の目に、闘志が宿る。
絶対にイヴを正す。絶対にイヴを見返してやる。
千鶴のフォーカスは完全にイヴに狙いを定めると、怒りの闘志を燃やしている。
「六道イヴ……貴女は絶対に私が正しますから!!!!!!!」
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