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23学習する綾香メイビー

 嫌な胸騒ぎを覚える。

トイレに二人で抜け出してからの凛の様子。

あれは――静寂しずかすぎた。


 何故。


 綾香はおバカであるが、さすがにバカなままでもない。

 自身が動いたとき、凛も何かしらのリアクションを起こしていた。

あれほどに対抗心を燃やしていた凛である。

素直に引き下がるなんてとても思えない。


 きっと――……


 きっと――……


 珍しく綾香が冴えた反応をする。普段おバカで最近イカれはじめた綾香が真剣に物事を捕える。


(凛ならば、どうするだろうか?)


 自身がどう動くかではなく、“凛だったら”どう動くか考える。

きっと策士な凛のことである。何も収穫なく引き下がることはないだろう。

どのタイミングで、どうやって、いかに綾香じぶんを排除して行動に移すか。


 ふと、気が付く。


 今、綾香は何をしている。

 今、凛は何をしている。

 今、イヴは――


 一人である。


(!!!! まさかッッッ!!!)


 解散した今、全員が一人で家へと向かっている。

つまりイヴは誰にも拘束されていない。

凛から考えた邪魔者を完全に排除している状態である。


 凛だったら。


 まさかという考えは、ほぼ確信に近い。

ならばあとは答え合わせをするだけ。


 綾香は並んでいたバスの列から抜け出すと駆け出す。


(凛だったなら……もし凛だったなら、このタイミングを逃すわけがない!!!)


 階段を二段飛ばしで駆ける。

スカートを豪快に揺らし、両手を振りながら全力で駆ける。


 イヴがいるであろうバス停はここからそう離れてはいない。

綾香は死神のような形相になるとバッグを鎌でも持つように振り回した。


(凛なら絶対に抜け駆けをたくらむはず!!!! このタイミングでイヴに逢いにいくはずだ!!!)



 並んでいた列から外れ、イヴは凛に腕を抱かれていた。

ゆっくり出来るところに行こうと言った凛は、スマホを取り出すと完全個室で休める場所を探している。


「ゆっくり出来るとこってどこいくんだ?」


「えぇっとねぇ♡ 完全個室でぇ♡ 防音でぇ♡ 何してても誰にもバレない場所♡」


 むにゅ。

抱いた腕に胸を押し付ける。

イヴほどではないが、そこそこに大きな膨らみが腕を包む。

あまりに押し付けるそれは、まるでおっぱいがイヴの腕を食らおうとしているがごとくである。


「あ、あった♡ 場所分かったから行こ♡ 空席もあるみたいだし♡」


「ネカフェかなんかか?」


「うん♡ ちょっと離れるけど、完全防音個室なネカフェあるみたいだから、そこイこぉ♡」



 ドダダダダダダダ――……


 近づいてくる大きな足音。

 

 バスターミナルへと降りる階段のほうを見れば、おかっぱ頭が全速力でバッグを振り回しながら近づいている。


「あれは……」


 多分綾香。


 イヴはそのことを凛に伝えようとするが、凛は地図アプリを開くと目的地を入力している。


 バスターミナルへ続く――今二人がいる場所に向かって――綾香の姿がはっきりと映る。


「まえぞのああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 蹴ッッッ!


 十数段ある階段をものともせず、綾香は豪快に飛び上がると両手を広げている。

まるでフクロウのような。夜道をあるくネズミを捕える猛禽類のような動き。


「えっ!?」


「綾香だ」


 ズシンッ!!!


 まるでアイ〇ンマンが上空から着地したときのように、片膝をついて着地する綾香。

生身の足が無事なはずもなく、膝小僧からは血が流れている。


「まああああああああああああええええええええええええええええええぞおおおおおおおおおおおおおおおおおぬああああああああああああああああああああ!!!!!1」


「綾香ちゃん!? なんでここに!?」


 てっきり帰ったと思った綾香の再登場に、凛も慌てふためく。

すでにぶち切れ状態の綾香は目を真っ赤に染めると、今にも殴りかからん勢いだ。


「まあああああああああえええええええええぞおおおおおおおおおおおおおおおのおおおおおおおおおおおお!!!!」


「おいおい、何やってんだよ、血でてんじゃん」


 ブチ切れているのも気にせず、イヴはバッグからハンカチとバッグを取り出すと、綾香の膝小僧の血を拭う。


「い、イヴ」


「いきなり何騒いでんだよ。ほら、絆創膏。痛くないか?」


「全然大丈夫です!」


 イヴに構われたことで、一瞬で綾香の機嫌が良くなる。

 しかし、頭が平常心に戻ったせいか、今になってジワジワと膝に痛みを覚える。


(これは……チャンスかもしれない!!!!)


 急に痛みだしたようにうずくまる綾香。


「大丈夫か? 立てるか?」


「イタた……うん、大丈夫、だいじょ……」


 立とうとしてよろける。もちろんわざとである。


「ほら、言わんこっちゃねぇ。ほら、肩貸すから帰るぞ」


「えっ!?」


 そこで声をあげたのは凛だ。

せっかく良いところまで行っていたのに、後は個室という名のエデンに行くだけだったのに。


 綾香がニタリ悪魔顔で笑う。


(こ、このおかっぱあああああああああああああああ!!!)


 いくら恨んでも目の前にいるのは怪我人とそれを看病する心優しきイヴ。

今は周りの目もある。綾香が盛大に騒いだせいで周囲の目が集まっている。

下手に動くことも出来ない。

ここは引くしかない――。


 ぐっと拳を握り、凛はあと一歩という悔しさをにじませる。


「ほら、いくぞ綾香」


「うん、ありがとうイヴ!」


「待って!」


 凛が止める。

 もう肩を抱いて歩き出していた二人が振り返る。


 凛は――肩を震わせながら、うつむいたまま、こう言った。


「ちゃんと――ちゃんと送り届けてあげてね」


 意外な一言であった。

嫌味か何かを言われると思っていた綾香は目を丸くし、イヴは笑って返す。


「おう、まかせとけ」


 寂しげな顔をした凛が、離れていく。


 勝ったはずなのに、綾香もまた勝利の喜びを味わえなかった。

何故なら。


 凛は今にも泣きだしそうだったから。



◇ ◇ ◇



 綾香を家まで送り届けたあと、イヴは自宅へと戻った。

ずいぶんと遠回りをしてしまったので、帰宅には20時を過ぎてしまっている。


 久しぶりに母に『いつまで遊んでいるの!』と雷を落とされ、イヴも少しだけ気が滅入る。

でも、こういった経験もまた女子高生らしいな、なんて考えると笑えてしまう。


 ベッドに横になりながらカレンダーを見る。

次の休日まではもう少しだ。


 ピロン。


 綾香からのラインだ。


『今日はごめんね。そしてありがとう。ちょっとやりすぎちゃいました(土下座してる絵文字)』


『気にしないで』


『次の休み楽しみにしてるね。おやすみなさい』


『おやすみ』


 ピロン。


 今度は凛からのラインだ。


『今日も楽しかった。また三人で一緒にあそぼーね』

『イーちゃん大好きだよ(泣き顔の絵文字)』


『おう、また遊ぼう』

『俺も凛のこと大好きだよ』


『ありがとう。大好き』


 キス顔の写真付き。


 スマホを閉じる。

 二人の友人からの連絡。イヴはなんていい友人たちに恵まれているのだろうと嬉しさがこみ上げる。

二人とも好いてくれている。勿論友人としての感情(とイヴは思っている)が。


 遊び疲れた気がする。

カラオケにいって騒いで、カフェで騒いで。

もう一度スマホを見返せば、また写真が何枚も増えている。

いずも友人たちの写真、友人と一緒に映っているイヴの写真だ。


「よし、筋トレするか!」


 制服を脱ぎ、ダンベルを持つ。


 次のお泊りは何をしようか。

 考えながら、ダンベルをあげる。



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― 新着の感想 ―
[良い点] おバカな綾香が冴えてる!?成長しているということか!? イヴちゃんの貞操のピンチはなんとか回避!セフセフ!(エッチな展開も見たいのが本音ですが!) 凛ちゃんの泣きそうな顔に勝利を喜べず複…
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