第六十二話 「政争事情」
こんにちは、こんばんは、狐山犬太です。
ここまで拙作にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
既にお気づきかと思いますが、私は非常に遅筆です。
おまけに、近頃〜年始にかけてリアルが繁忙期となるため更に更新が遅くなってしまうのが現状です。
それでも構わず最新話に付いてきて下さる読者の皆様は、正に神様の様な読者様です。
非常にゆっくりとした更新ではございますが、どうか今後ともよろしくお願いします。
「勝手に接触するなと言ったはずだが?」
「いやぁ、たまたま通りかかったところにいたのでつい、な」
「よくも抜け抜けと……それで、どうだった?」
「獣の方はともかくとして、アレはダメだな」
「分かりやすく言え」
「全く勝てる気がせなんだ。学生として校内に居ていい者じゃないな」
「そうか」
「それだけか? もっと聞きたいことがあるのでは?」
「無い。そもそも、現時点で俺は奴らに微塵も興味が無い」
「なのに手は出すなと?」
「平泰祭を控えた目前、余計な揉め事を起こすなと言っているんだ。いちいち全部説明しないといけないのか?」
「では、祭りの後ならばいいと?」
「節度は弁えろ。俺の顔に泥を塗ることだけはな」
「成る程成る程、委細承知した。では」
「…………イダチでさえ勝てんと言い切るか。どう思う?」
「彼があそこまで言い切るのならばそうなのでしょう。今後、例の半魔が妹様に与したとしたら厄介ですね。早めに手を打つのが得策なのでは?
何より妹様にはセバスチャンがいます」
「必要無い。今はまだな。それにセバスチャンは脅威にはならん。理由もある」
「左様で御座いますか。承知しました」
「さて……レイノーサよ、お前は俺の障害足り得るのか?」
――――
試作会から数日、また折を見て次の試作会を実施しようかと考えてはいるのだが、次はレイノーサも来れる日にしなくては。
レイノーサは元より手伝う気満々で、料理をすることにも非常に強い興味を持っていた。
「次に会ったら空いてる日を聞いとかなきゃな……っと」
廊下を曲がった先で都合良くレイノーサとセバスチャンの二人を見つけた。
話しかけようかと思ったが、何やら誰かと喋っている様だ。
しかし、その雰囲気は決して穏やかでは無い。
空気が張り詰めている。
「お兄様、私の友人に何かなされましたか?」
「酷い言い草だな。何のことだ?」
「先日、私が懇意にしている友人達の元へとある生徒が決闘の申し込みに参ったそうで。
どうやら、その御方はお兄様のご友人でもあるとか」
「まさか、この俺が仕向けたとでも?」
思わず角に隠れてしまった。
ピリピリと空気が走るのを感じる。
赤髪の『お兄様』と呼ばれている男、あれがレイノーサの兄か?
成る程、王子としての圧と言うのか、威厳にも近いオーラを感じる。
戦闘が強いとか魔力が大きいとか、そういった話では無い。
『人間』として『強い』のだ。
「……いえ、失礼しました。私も少し気が立っておりましたもので、とんだ御無礼を」
「いい、周りの者を御し切れん俺にも非はある。
また何かあれば教えてくれ。
セバスチャン、引き続きレイサを頼むぞ。ではな」
「承知致しました」
「えぇ、ご機嫌よう」
赤髪の男はレイノーサに背を向けて廊下の先へと去っていく。
男が曲がり、完全に姿が見えなくなってからレイノーサはようやく肩の力を抜く。
そしてセバスチャンが何事か耳打ちしたかと思うと
「ライルさん、いらっしゃるんでしょう?」
げっ!? バレてるかもとは思ってたが、誰かまで分かってるのか。
「すみません、盗み聞く様な真似をしてしまって」
「お気になさらずとも結構ですよ。こちらこそ、兄妹でのお見苦しいところをお見せしてしまいました」
「兄妹って言うと、さっきの人が?」
「えぇ、スタリオル・アトラ。
私の異母兄であり、王位継承者です。側室の子である私にも兄として接してくれる、偉大な方です」
「ですがその、さっきは喧嘩と言うか……随分とピリピリしてたような?」
ピクリと、レイノーサの眉が動く。
まずったか? 家族の事情、ましてや王族となれば政争である。
他人が安易に足を踏み入れて良い領分では無い。
「そうですわね……少し場所を変えましょうか」
そう言って連れて来られたのは、いつかのお茶会の際に利用したテラスであった。
以前と同様、セバスチャンによりどこから取り出したのか不明なお茶がカップに注がれる。
「先程兄について、王位継承者と言いましたが正しくはその一人です」
「と、言いますと?」
「もう一人の王位継承者が私です」
それもそうか。
でなければ今のうちから将来の支持者集めに奔走する必要が無い。
つまり、王位継承者であるスタリオルとレイノーサは互いに将来に向けての支持者集め、ひいては根回しをしていると。
だが、そんな事はこれまでの情報を分析すれば分かることだ。
「父であるセイルバン王が王位継承者を私達二人に指名したのは、二年前のことです」
「二年前って言うと、ロデナスからの半魔共生を受諾した年ですか?」
「えぇ。それまでは父も、正室の子である兄に王位を継がせるお考えだったのでしょうけど、半魔共生を受け入れてから考えを改められたようです。
元より父も、そして兄も純血主義です。
人族と魔族、互いを差別することは無けれど交わることは許さない。ましてや半魔は以ての外と。
人魔大戦という歴史を振り返ればこそ、仕方の無いことなのかもしれません。
ですが、父は変わり、そんな父に対して兄は変われなかった。
二人の間には確執が生まれ、表立っては出しませんが、私にも少なからず思う部分は有る様です」
ゆっくりとカップを口へ近づけ、音も無く紅茶を飲むレイノーサ。
絵になる光景を目に納めつつ、話の続きに耳を傾ける。
「私は元より半魔共生には賛成です。
人族も、魔族も、半魔も、皆同じ人間。思考し心を持つ者同士、種族の垣根など些細な事です。
父は変わる時代と世界に適しているのはどちらなのかと決めかね、正反対の考えを持つ私達二人を王位継承者とし、来る後継者として互いを競わせる事にしたのです」
「競わせるって……どうやって決めるんですか?」
「何でもです。
人脈、知恵、武力、民衆からの支持など、より王に適した方を父が選定するのです」
随分と主観的な決め方になりそうではあるな。
選挙みたいなものは行われないのだろうか?
いや、そもそもアトラは民主主義か? わからない、国の王位継承なんて尚更だ。
「ともかく、現在私と兄は学校生活を通してお互いに様々な形で将来への根回しを進めています。
兄は己が信じる世界の形の為。私も、私が信じる、全ての人がより良く暮らせる世界の為」
真っ直ぐにこちらを見つめて言うレイノーサの顔は、これまでになく真剣で、柔らかな物腰とは裏腹の熱を秘めていた。
「全て分かったとは言い切れませんが、概ね理解はしました。レイサさんの考えはロデナスのダルド王に似ていますし、半魔である以上はレイサさんの考えに賛同します。
何より、アトラも半魔共生を受け入れた以上は今更純血主義に戻れるとは思えません」
「それはそうなのでしょうが……」
なんだ? 歯切れが悪いな。
仮にだ。一度受け入れた種族をまた追放するなんて、下手したら国が崩壊するのではないか?
まさか、スタリオルはそこまでの凶行を?
「ともかくです。ライルさんや皆さんを私達の争いに巻き込むつもりはございませんので、どうかご安心下さい。
先日のイダチさんの件については、兄にもキチンと言っておきましたので」
どこでそれを……? いや、それよりもイダチはスタリオルの差し金だったのか。
レオが勘繰っていたのはそれでか。
しかし用件は? 敵情視察? 飄々として掴みどころのない奴だったからか、イマイチ奴の目的が分からない。
「お嬢様、そろそろ」
「もうそんな時間でしたか。ではライルさん、またお会いしましょう」
「あ、待ってください! 今度また試作会をするので、レイサさんの都合のいい日を教えて下さい。
皆で一緒に作りましょう」
「まあ! セバスチャン!」
「明後日でしたら、午後は空いております」
「じゃあ明後日、皆で試作会を!」
「えぇ! 楽しみにしておりますね!」
こうして、レイノーサから思いがけずアトラの王位継承事情を伺いつつも、次回の試作会の予定が立てられた。
皆のためを思って尽力してくれる彼女が、少しでも楽しんでくれるといいのだが。
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