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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第七章 ―邪智画策―編
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第百話 「一悶着」

皆様の日頃の応援により、こうして百話まで書くことが出来ました。

特別何かが有るわけではありませんが、これからも面白いお話をご提供出来るよう精進します。

それでは、どうぞ。

 応接室にいたのはテオール家当主でありリメリアの父親のカルヴィス・テオールと、『邪智魔王』コルニクス。

 そして、もう一人。

 そこにいると思いもしなかった、いや、いてはならない人物。

全一(オールワン)』ゼール・アウスロッド。

 俺とルコン、そしてリメリアの師であった。


「――先、生……? な、なんで、ここに……?」

「…………」


 憧れの師の姿に、リメリアの口からは驚きの声が漏れる。

 しかし、ゼールはそれに対する返答を口にしない。

 その顔は普段通り、何を考えているか分からない彫像の様な表情を浮かべている。

 そんなゼールを振り返り、コルニクスは嬉しそうに口を開ける。


「おや……ゼール。こちらは貴方の教え子でしたか?

 それはそれは……何という奇縁! あぁ! 世の出会いとは素晴らしき因果の織り合い!!」


 わざとらしいオーバーリアクション。

 感動の再会を祝っている? いや、違う。

 こいつは……心底から馬鹿にしたように、面白い玩具を見つけたかのように笑っている。


「ッ! 邪智魔王ッ!! アンタのした事は知ってるのよ!! 先生の孤児院を焼いたのはアンタでしょッ!」

「「!!」」


 リメリアは反発するようにコルニクスの過去の所業を責め立てる。

 それに驚いたのは当の本人とゼールであった。

 何故知っているのかといった顔で、先程とは別人のように鋭い眼光をリメリアへ向けている。


「やめなさいリア! 申し訳無い、コルニクス殿。

 この子がゼール殿に師事していたのは五歳の頃。

 その後、ゼール殿と別れてからも彼女を慕い続ける熱意に押され……」

「我輩と彼女との因縁を喋ったと」

「左様です。申し訳無い」

「いえいえ、何も責めるつもりなど最初からありませぬ。我輩とカルヴィス殿に縁が出来たのもここ一年のこと。

 それに……彼女との因縁も事実。大戦中であったとは言え、非道な手法をとったことに違いはありませぬ」


 気にして無いと言わんばかりに、コルニクスは優雅な所作でティーカップを口へ運ぶ。

 その様子にカルヴィスはホッと胸を撫で下ろし、リメリアへと向き直る。


「リア、帰ってきてくれたことは嬉しいが今は大事な話の途中なんだ。今は外してくれ」

「私には関係無いわ! それよりも――先生ッ!!

 どういうことなんですか!? そいつは……邪智魔王は先生にとって仇なんでしょう!?」


 感情的になって叫ぶリメリアに、ゼールはやっと言葉を紡ぐ。


「彼との間に、もう確執は無いわ。今の私は彼に雇われている一人の魔術士よ。

 貴方達にはもう関係の無い事よ」


 嘘か真か、かつての仇との間に既に溝は無いとゼールは言った。

 その顔は依然として変わらず、まっすぐに俺達を射抜いていた。


「〜〜ッ、何よ……それっ……!」

「あ、おい! リメリア!」

「リメリアさん!? ど、どうしますお兄ちゃん?」


 納得など出来るはずも無い。

 しかしリメリアはそれ以上何かを言う事も無く、そっぽを向いて部屋から足早に出ていってしまった。

 とりあえず付いて行くしかないか……


「お話の最中にすみませんでした。失礼します」

「待ちたまえ。君達は見たところ冒険者の様だが……リアとは?」

「パーティ……いえ、友人です。大事な」

「ですっ!」

「――そうか。また話そう。行きたまえ」


 やっぱり良い親父さんなんじゃないか? なんて疑問は後回しにして今はリメリアを追いかけよう。

 部屋を出る前に、一瞬だけゼールへと視線を向ける。

 彼女はこちらを向いていたが、その表情は暗く、罪悪感に苛まれる様であった。


 リメリアは屋敷の玄関、先程マーサと呼ばれるメイドが出迎えてくれた場所に立っていた。

 下を向いて微かに震える彼女になんと声をかけようかと悩んでいると


「何よアレッ!! ムッっっっかつくわッ!!」

「――へ?」


 怒声。あらんかぎりの。

 もしかして泣いてる? なんて思ったが杞憂だった様だ。

 リメリアは地団太を踏みながらぶつくさと父親と師の文句を言っている。


「何が関係無いですって!? 私は先生の弟子なのに! だいたいパパもよ! 邪智魔王となんか話していったい何をする気なのよ! あの頭でっかちの石頭!!」

「あわわわ……すっごい怒ってます……」

「リメリア、リメリア? おーい?」

「うるさいわねっ!!」

「「ひッ!?」」


 無理だ。俺達ではどうしようもない。

 マーサさんも困り顔で見るばかりで、この状態のリメリアは手がつけられそうにない。

 すると、門の方からこちらへ向かってくる一団が、正確にはその一団の発する笑い声が聞こえてくる。

 二十人はいるだろうか。およそ十歳以下の子供達と、それを率いているのは長い茶毛を(なび)かせる令嬢。

 その令嬢はリメリアの姿を捉えるなりピタリと動きを止めると、すぐに走り出して向かってくる。

 スカートの端をつまみながら走るその所作でさえ気品を漂わせながら。


「お姉様! リメリアお姉様!」

「セシー……」


 セシーと呼ばれた令嬢はリメリアへ飛び込むように抱きつくと、リメリアもそれを受け止める。

 力強く腕を巻く彼女とは正反対に、リメリアの腕は所在無さげに背中をうろちょろとしている。


「おかえりなさいませ、お姉様……お待ちしていました……」

「ごめんね、セシー……迷惑かけちゃって」

「迷惑だなんてそんな! 私は……」

「ううん、良いの。それと、帰ってきた訳じゃないの。また少ししたら出ていくから」

「そう、ですか……」


 様子を見るに彼女こそリメリアの妹、ドガードが口にしていたセシリアだろう。

 茶毛であることも含め、リメリアや父親とはあまり似てない様にも見える。

 それは彼女の品、貴族令嬢としての品格のためでもあるのだろう。


「ねぇ、ところで後ろの子供達はなに? 街の子?」

「あぁ、いえ。この子達はコルニクス様が魔土からお連れになったんです」

「コルニクスが……?」

「えぇ。コルニクス様は魔土で種族を問わず孤児や奴隷の子供を保護してらっしゃるようで。

 今回はせっかく凡人土に来るのだからと、無理をしてでも連れてこられたんです」


 コルニクスが孤児や奴隷の子を……?

 過去の話ではゼールの孤児院すら焼いた奴だぞ?

 改心した? こっちが本性?

 分からない、分からないが何か裏が有る。

 そう勘ぐらずにはいられない。 

 だが実際に、子供達は皆笑顔で、人族も魔族も関係無く健やかに遊んでいる。

 この光景を見て一概に嘘と断ずる事など出来るはずも無い。


「ですからこうして、私やアデルが一緒になって遊んでるんですよ」

「セシー、アンタ! コルニクスに何か裏があったらどうするの!?」

「お、お姉様……?」


 荒ぶるリメリアを驚いた表情でセシリアは見つめる。

 察するに、セシリアはコルニクスの所業を聞いていないのだろう。

 でなければどれ程純真無垢とは言え、コルニクスを疑ってしまうのが自然というものだ。


「おいおい、父上の事を悪く言う奴は誰だぁ?」

「聞き捨てなりませんね」


 子供達の後ろから声が挙がる。

 子供達をかき分けるように進み出て来たのは、コルニクス同様の白髪と、それぞれ片翼しかない翼を持つ魔族の二人組。

 一人は白髪を左に、もう一人は右に流し、それぞれ対応するようにその向きの翼を生やしている。


「アンタ達は?」

「サロウです」

「ウロウ。で、失礼なテメェは何モンだ?」

「お、お二人共申し訳ありません。

 こちらは姉のリメリアです。姉は久しく家を空けていたものですから事情に疎く……」

「セシリアの嬢ちゃんには聞いてねぇんだよ。テメェは何だって聞いてんだ。あ?」


 事を荒立てまいと仲介したセシリアの頑張りも虚しく、ウロウと名乗った魔族はリメリアの目の前にまで迫る。

 正に一触即発。止めに入った方がいいか……?


「……アンタ達、その白髪と翼、それに魔力の質がコルニクスとそっくりね。

 アイツの息子ってとこ? だとしたらアイツもかわいそうね。

 せっかく『邪智』なんて大層な通り名が付いてるのに、息子はこんなに短絡的なんだから」

「んだとぉ……!?」


 なんで煽るんだぁぁぁぁぁっ!!??

 どう考えても悪手だろ! いや、そういやリメリアはサ◯ヤ人並に好戦的だった。

 もはや争いは避けられないかと思われたところで、パンパンと手を叩く音が響く。


「そこまでです。リアお嬢様、そちらのお二人は旦那様の客人であり外に出られるセシリアお嬢様と子供達の護衛も務められています。

 お嬢様といえど、ご無礼は見過ごせませんよ。

 それに、お連れ様方はよろしいのですか?」


 冷静に場を収めたのは先程まで困り顔をしていたメイドのマーサであった。

 今の彼女は一転して表情鋭く、顔に刻まれたシワは迫力を演出する一助となっている。


「……それもそうね。ウロウとサロウ、だったわね。

 悪かったわ。非礼を詫びます」

「ケッ、興醒めだ。行くぞサロウ。ガキ共を連れてこい」

「勝手だな……それでは」


 二人は子供達を連れて、本邸とは少し離れた別館へと向かっていく。

 どうやらあの別館は客人用の迎賓館とみて間違い無さそうだ。

 コルニクス、邪智魔王の子供か……レオドロンと同様、魔王の子というわけだ。

 だがしかし、態度の割には『圧』が無いな……

 俺が強くなったから、もあるかも知れない。

 が、それ以前に魔王の子という前提を考えればもう少し強さを感じてもいい気はするのだが……


「お姉様、ご無礼が過ぎますわ。

 本当に、昔から変わってませんわね。むしろ冒険者になられて磨きがかかったのでは?」

「ふふっ、そうかもね。

 ごめん、二人とも。マーサ、空き部屋あるでしょう?

 二人に用意してあげて」

「かしこまりました。ですが、現在空き部屋は一部屋しかないものでして……」

「あ、大丈夫ですよ。兄妹なので相部屋で構いません」

「大丈夫ですっ!」

「はて……? ご兄妹……?」


 無理も無い。

 見た目だけなら角付きの魔族とモフモフ尻尾耳の美少女だ。

 兄妹に見えるはずもない。

 まあ面倒臭いので説明は省くが。


「本当よ。気にせず通してあげて」

「左様でございますか、失礼しました。では、こちらへ」


 さて、ようやく一息つけるな。

 父親との再会に魔王との対峙、師との思わぬ再会に妹との再会、魔王の息子達との一触即発……

 会う人会う人とのトラブル多くない……?

 ルコンも疲れ気味だし、とりあえず部屋で落ち着いて情報を整理するとしよう。





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