「才能」
次は七章で、と言いましたね。
あれは嘘です。
これは、ある女の話。
旧暦九百八十年、魔土南西に位置するボッセルという村にて彼女は生を受けた。
人族である両親は行商を生業とし、魔土にもその足を伸ばしていた。
百に満たない人口のボッセルだが、そこに住む人々の穏やかさと魔族と人族とを区別しない寛容な在り方に感銘を受け、両親は永住を決めた。
母親譲りの薄紫の髪に、父親譲りの聡明さを持って育ち、彼女は健やかに成長を重ねた。
「カトル君達が遊ぼうって言ってるわよ?」
「行かない。本を読んでる方が為になるわ」
「もう……いい加減外で皆と遊んだらどうなの?」
「それ、意味ある?」
「こら、友達を作ることには意味があるし心を豊かにしてくれるんだよ。父さんに騙されたと思ってみないか?」
「考えとくわ」
ボッセルには、否、そもそも魔土には学校等は無く、教育は両親や周囲の環境、書による学習が主であった。
だが、彼女は五歳になる頃には文字の読み書きは完璧となり両親を驚かせた。ものの、周囲の子供たちと打ち解けない姿勢には困り果てたものであった。
「ねえ! なにしてるの?」
「……本読んでるのよ」
七歳になる頃には渋々ながら外に出ていたが、結局は本を読んでいた。
だが、そんな彼女にも例外は有ったようで。
「おままごとしよう! おかあさんやくをおねがいね!」
「はぁ……しょうがないわね」
「あいつ、フィリィの言うことなら聞くんだよな〜。俺達が誘っても動かないくせに」
同年代の子どもに誘われても一切なびかない彼女も、年下の子の誘いだけは断らなかった。
それは遊びに付き合っているというよりも、姉や母親に近い感情で接していたのかもしれない。
そして、転機は訪れる。
彼女が八歳になる頃、一人の男がボッセルへと足を踏み入れる。
年は二十半ば、くたびれたマントにヨレヨレの旅装束を纏い、薄い茶髪は無造作に左右に分けられていた。
目立つものと言えば、手にしていた不釣り合いな程に立派な杖だろうか。
シンプルな直杖作りながら先端には大きな赤い魔石が埋め込まれている一級品。
そんな男は世界を歩いて回っていると言い、ボッセルにはしばしの休養と物資の補給で訪れたと言った。
「お嬢ちゃんは一緒に遊ばないのかい?」
「本を読んでる方が良いわ。あんなことしても無駄」
「ドライだねぇ。なら、こんなのに興味は? 水球」
木陰で一人離れて読書をする彼女に、男は近づき声をかけた。
彼女は男の存在を数日前から認知していたが、自分から関わることは無かった。
意味が無いと、時間の無駄だと考えていたからだ。
「そんなの私にだって出来るわ。もっと凄いのもね。水球。火球」
彼女はそう言うと本を閉じ、左右の手にそれぞれ違う魔術を発動してみせる。
魔術の存在は本で学び、原理は自身で確かめていた。
今さら魔術士が来たところで、やはり何も意味など無いと、彼女の心は凪いだままであった。
「驚いた……! お嬢ちゃん、才能有るぞ! 名前は?」
「ハァ……ゼール。ゼール・アウスロッド」
「ゼールか! 俺はアルバー・モーゼンだ。どうだ? 魔術に興味はないか?」
この出会いこそ、彼女の退屈な人生に魔道という道を敷くこととなる。
これは、彼女が『全一』と呼ばれ、ある少年と出会う物語。
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