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密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!  作者: 奏白いずも


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18/21

18、本気を出し過ぎて目立った結果

 国王陛下に目をつけられた。その密偵には監視すると宣言をされてしまった。

 これらを除けば私の料理人修行は順調といえるでしょう。厨房で問題が起きたのはそんな時でした。

 難しい顔をした料理長を筆頭に、城の厨房では料理人たちが顔を突き合わせている。これからメニューについての会議があるらしく、招集をかけられた私も話し合いに参加することになった。


「国王陛下からのお達しだ。明日の晩餐には誰もが驚くようなメニューを用意するようにってな」


「随分と急な話ですね」


 料理長からの議題を聞くなり副料理長は不満そうに言う。確かに副料理長の不満もわかりますけどね。

 現在は各国から王族たちを招いているため、食事のメニューは事前に国王陛下に確認を取り、了承を得ていたはずだ。それを急に、メニューを変更しろというのは横暴だろう。しかも誰もが驚くという難題付きで。


「変更が難しければ陛下はそのままのメニューでも構わないとおっしゃられている。だがここで引き下がったんじゃあ俺らの信頼に関わるって話だな。期待されたのに出来ませんで終わらせるわけにはいかない」


 反論が出ないということは、副料理長の意見も同じようですね。


「でも急に新しい料理を作れなんて、陛下も無茶言いますよね。こんなこと初めてですし」


 カトラ先輩が正直に言った。先輩の正直なところ、とても良いと思いますよ。その調子でもっともっとあの人に文句を言ってやって下さいね。


「さっそくいくつか案を出してはみたが、陛下の反応はいまひとつでな」


 料理長たちは果敢に挑んだが、陛下を満足させるには至らなかったらしい。美味しい料理を並べるだけでは満足してはもらえないのだろう。

 これは料理長に当てられた挑戦だ。けど私は、なんだか自分が挑発されているような気分になっていた。

 いくら悩んでも意見はまとまらず、会議はいったん解散となり、休憩が言い渡される。各々で再度プランを考えるよう言い渡された。

 じっとしていても何も閃かず、私は身体を動かすために城の裏手へと向かう。


「誰もが驚くような料理か……」


「へえ、ちゃんと考えてるんだ」


 いるだろうとは思いましたけど、本当にいましたね!

 私を監視すると宣言した女性が何食わぬ顔で独り言に乱入してきました。困るんですけど!

 思わず「暇なんですか?」と言いそうになりましたが、これが仕事と答えられて終わりでしょうね。余計な会話はしたくありません。


「何か用ですか?」


 そっけなく言い放てば、女性はやけに嬉しそうな顔をする。これ、私が困っていることを知って楽しんでいますね。まだあの夜のことを根に持っているのでしょう。


「陛下の無茶ぶりには困ったものよね」


「何か知ってるんですか?」


「別に。あの人の考えることなんてあたしにはわかんないわよ。でもこれって、あんたへの挑戦なんじゃない?」


「は?」


「あたしと陛下って気が合うみたいでね。あたしは、あたしに痛い目みせてくれたあんたが困ればいいと思ってるわけだけど。急に厨房に無理難題を吹っ掛けるなんて、陛下もあんたを困らせたいのかしら?」


「まさか……」


 でも本当だとしたら? な、なんて性格の悪い!

 もちろん目の前にいる人のことも言っていますけど。


「ところでそれ、私に話していいんですか?」


「これでも守秘義務はちゃんと守るわ。これは私の勝手な推理」


 それにしても気安いと思う。仮にも私は監視対象らしいのだが。


「監視すると言ったわりには気安いんですね」


「これがあたしの監視スタイルよ。喧嘩しに来てるわけじゃないしね。仲良くなって取り込もうってわけ。陛下からもこっち側に懐柔出来そうならするように言われてるの」


 思わず眉間に皺が寄る。

 私を、懐柔? 冗談じゃない! 誰があんな人のために動くものか。私は生涯、主様のためだけに働くんですよ!


「あははっ! その顔、絶対無理って顔ね!」


 女性は腹を抱えて笑う。そんなに面白いことを言ったつもりはありませんと、さらに険しさが増していた。


「まっ、頑張りなさーい」


 ひとしきり笑い転げた女性は、ひらひらと手を振りながら来た道を戻って行く。言いたいことだけ言って……すっかりいつも勝手な人という印象だ。


「けど、ああ言われて引き下がるのは、負けたみたいです嫌ですよね」


 厨房に戻るなり、私は料理長に意見する。


「料理長、私に提案があります」


 陛下の真意がどこにあるにしろ、そんなことは関係ない。私はただ、厨房で働く人間として職務を全うするだけです。

 私にしか出来ないことがある。これでも私は転生者だ。この世界の人達が見たことのない、趣向を凝らした料理を提供すればいいんですよね?

 お任せ下さい。陛下が見たこともない晩餐を用意してさしあげます。あの人の無茶ぶりに屈するのも嫌ですからね!


 ――と、そんな気持ちで張り切りすぎてしまいました。


 私が提案したのはこの世界では珍しいビュッフェ形式。たくさんの料理の中から自分の好きな物を好きなだけ食べられるというものだ。

 厨房の料理人たち総出で調理をすれば、圧巻の品数がお客様を出迎える。

 かといって尊い身分の方たちだ。ご自分で料理を取ることに躊躇いもあるだろう。そのためにテーブルごとに料理を取り分ける係をつけた。

 扉が開けば無数の料理が客人たちを待ち構えている。色鮮やかに、それはキラキラと光り輝いてさえいた。たくさんの品が並ぶ会場は、それだけで人を楽しませる華やかさがある。

 おまけに主様が暮らすリエタナ産の野菜をたっぷりと使うことで宣伝もしておきました。


 結果としてビュッフェ作成は大成功。これが私のしでかしてしまった罪である。

 その功績を称えられ、私は現在陛下から呼び出しを受けていた。

 料理長!? 私のことは言わなくてよかったんですよ!?

 そう詰めよれば、手柄を横取り出来るかよと言われてしまった。真面目なことは良いことですが、ここは黙っていてほしかったです、本当に。


「そう嫌そうな顔をするな」


「申し訳ありません。これが通常の顔です」


「警戒せずとも、私は褒美を取らせようと呼んだだけだ」


 どうやら想像以上に料理は好評だったらしい。陛下の望みを叶えたことは癪だけれど、お客様たちが喜んで下さったことは素直に嬉しかった。


「今日はお前を呼び出そうと意図していたわけではない。あの料理を提案した者に褒美を取らせようとしたのだが、やってきたのがお前だったというわけだ。ルイスの手駒だと思っていたが、本当に優れた料理人でもあるらしいな」


「お褒めにあずかり光栄ですが、手駒などと、少々身に覚えのない事柄も含まれていることが気がかりです」


「あくまでも認めないつもりか。まあいい。ここでお前をどうにかするつもりはないからな。とはいえ私からの褒美は受け取りたくないか」


「そのようなことは……」


 あるに決まってますよ!

 しかし陛下は私の言い分を無視して話を続ける。


「褒美を与えると料理長にも話してしまったからな。何か言え」


 横暴な!


「お言葉ながら、私は私の仕事をしただけです。褒められるようなことでは何も。褒美をいただくようなことではありません」


「褒美は不要と。そうまで言うお前に興味があるな。お前の欲しいものはなんだ?」


 私は何か、答え方を間違えたのでしょうか。謙虚に遠慮したつもりが、どうしてそういう話になったのでしょう。もう、私のことなんて放っておいてくださいよぉ……

 そもそもご自身ならば叶えられると、うぬぼれていらっしゃるのですか?

 そう言ってやりたかった。

 私はまるで挑むように陛下と対峙し、こんな態度だから眼差しがどうといって正体を見破られてしまうのでしょうね。


「陛下、私にも望むものはあります。ですがそれは他の誰にも叶えられないことなのです」


 私の望みはただ一つ。主様のために在ること。

 それはこの手で掴み取るものだ。誰かを頼って叶えられるほど安くない。貴方には無理ですよ、自惚れないで下さい!


「それは残念だ。では明日の食事も楽しみにしている」


 褒美は辞退して仕事に戻ったけれど、私が陛下から直々に呼び出された事件は、またしても厨房を始め城内の至るところで話題となっていた。厨房がこれほどの脚光を浴びたことはないと、料理長は大喜びだ。

 これは副料理長の言うように陛下に認められたと思っていいのでしょうか。

 主様の宿敵に認められるなど遺憾ではありますが……

 料理長に褒められた時。リーチェに褒められた時。陛下相手ではそのいずれとも違う感情が呼び起されている。波風が立てられるような、ざわざわと木々が揺らされるような。非常に心がもやもやします。


 けど、ああして対面したことでわかったこともある。実際に話してみた陛下は、思ったよりも普通の人だった。

 これまで私はあの人を血も涙もない冷徹な人間だと思っていた。陛下について調べれば調べるほど、敵対する者には容赦のない制裁を加えていることを見せつけられてきた。

 それなのに、ただの料理人を褒めるとはどういうことだろう。あの人は興味すらないと思っていた。


「さーちゃん!」


 はっ!

 頭上から聞こえたモモの声で目が覚める。そう、まるで目を覚ませと言われているようだった。

 いけない。何を好意的に捕らえているの? ちょっと褒められたからって、あの人が主様に何をしたか忘れるな!

 簡単には騙されない。あの人は非道な人。少しくらい優しくされたからといって絆されてやるものですか!

 それなのに主様は許せとおっしゃる。考えるほど、私は陛下という人のことがわからなくなっていた。


「さーちゃん! さーちゃんてば!」


 モモの声で我に返る。陛下のことを考えたり、迷いが生まれた時、いつも現実へと引き戻してくれるのはモモの存在だ。肩に止まると、さっそく報告をしてくれた。


「さーちゃん、ちょっと面倒なことになりそうよ」


 モモからの知らせに耳を傾ける。彼女は非常に優秀な密偵だった。

応援いただきありがとうございます!

励みに頑張ります!

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