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密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!  作者: 奏白いずも


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17/21

17、元同業者

「陛下、何をおっしゃるのですか?」


 口調はしおらしく取り繕ってはいるけれど、内心では「この人何言ってんの!?」状態ですよ!


「街でお前を見かけてから、どこで会ったのか、ずっと考えていた」


 いや、そこは忘れましょうよ! もっと他に頭を使うことありますよね?


「初めはお前の言うように城内で姿を目にしただけかとも思ったが、昨夜の動きで確信した。お前、以前ルイスが連れていた女だろう。確かあの時は、仮面で顔を隠していたな」


 確かに覚えている。でもあの時は陛下の言うように仮面をつけていた。素顔はばれていないはずだ。

 私は必死に焦りを隠しながら答える。決して顔や態度に出すわけにはいかない。


「陛下、私にはお話の意味がわかりません」


「どうせルイスが内情を探るために残したのだろう。嗅ぎ回られて困ることはないが、奴の手駒というのは目障りだな」


 私は無関係を主張するが陛下は聞く耳を持たない。

 沸き上がる苛立ちは容易く正体を見破られてしまった自分へのものか。あるいは陛下に対する敵対意識がそうさせるのか。


「ああ、その目だ。お前の眼差しはいつも鋭い。あの時も、今も、私が憎くて仕方がないという目をしているな。すぐに気づいたさ」


 確かに私がこの方に視線を向ける時、眼差しには敵意が混じるに決まっています。それを陛下は正確に言い当てて見せた。たったそれだけのことで気付いたと言うのですか!?

 私は最後まで認めずにいたけれど、きっと陛下は確信している。思わず二度目の転職を覚悟した私だけれど、解雇されることはなかった。

 下がれと命じられた私はひとまず部屋へ戻る。ここで不審な行動をとっては敵の思うつぼだ。

 でも、どうして私は解雇されなかったの?

 考えたところで陛下の真意は掴めない。

 もっと確実な証拠を掴むため泳がせている? いいえ、陛下は確信している。敵であると判断したのなら問答無用で私を追い出す。それがセオドアという男だ。かつて私の主がその犠牲となったように。

 私を城に残すメリット……私から主様の情報を引き出そうとしている?

 生憎ですが、それは無理な話ですよ。私はあの女性の人のように主を裏切ることはありません。

 そもそも私が知る主様の現在についての情報はないに等しく……物理的に無理なのが悔しい!


「なんだか疲れた……」


 激しい疲労を覚え部屋に着くなりベッドへ倒れ込む。口を開くことも億劫で、疲弊しきったた表情で外を眺めていると、疲れをかき消す知らせが舞い降りる。


「さーちゃん!」


「モモ!?」


 窓辺に現れたモモの姿に飛び起きる。


「あたしよ、あたし! 帰って来たわ」


「モモ、お帰りなさい!」


 懐かしい姿に私は窓を開けて歓迎する。モモが無事に戻ったということは主様も無事ということだ。


「遠くまで無理をさせてごめんね」


 リエタナまでの道のりを考えれば気軽に行き来することは難しい。けれどモモは軽く言い放つ。


「いいのいいの。さーちゃんの頼みならお安いご用よ! でも人間て不便ね。あたしならこの翼でひとっ飛びなのに、人間はのんびり山を迂回して何日もかけなきゃいけないなんて。鳥を選んで正解よ」


「そうだよね。遠い、よね……」


 主様に危険が迫ったとしても、すぐに駆けつられない距離がもどかしい。

 不安が顔に出ていたのかモモは私を慰めてくれた。


「さーちゃんてば暗い顔! 安心なさい。王子様たちは無事よ」


「モモ、本当にありがとう」


「さーちゃんに喜んでもらえたなら転生したかいがあるってものね。それにしても今日は随分と疲れた顔よ。あたしが留守の間に何かあったの?」


 私は泣き出しそうな心境で事情を話した。モモは留守の間に私の身に起こったことを知るなり羽を広げて怒りを露わにする。本人曰く、怒りのポーズらしい。


「きぃー! あたしのさーちゃんを困らせるなんて! あんの王子、毎晩寝室窓をつついて寝不足にしてやろうかしら!」


「お、落ち着いて。それにセオドア殿下、今はもう国王陛下だからね。国王陛下が寝不足になったらみんな困るから」


 モモの憤りはすさまじい。不謹慎ではあるけれど、自分のためにそこまで怒ってくれることは嬉しくもあった。


「はあ……あたし、さーちゃんが心配。あの人、不遜で嫌みったらしくて、傍若無人な人間でしょう」


 うんうんと私は同意する。私の陛下に対する評価もたいがい一致していた。


「モモの言う通り、あの人がこのまま私を放っておくとは思えない」


 陛下は主様のことを嫌っていた。否定はしたけれど、陛下にとって私はかつて主様の隣にいた人間だ。目障りな私を放っておくとは思えない。


「油断しない方がいいよね」


「さーちゃんの言うとおりね。だ、け、ど! そんなに心配しなくても大丈夫よ」


「どういうこと?」


「あの人は、さーちゃんに心強い味方がいるって知らないでしょ?」


 バチッとウインクをしたモモは、これからは陛下のことを見張ると言ってくれた。確かにいくら陛下でも鳥が自分を見張っているとは思わないだろう。

 モモのおかげで私は翌日からも取り乱すことなく仕事に集中することが出来た。主様のためにも頑張らないといけませんからね!


 そんな私がなんとか仕事を終え城内を歩いていると、前から歩いてくるメイドと目が合って離れない。向こうも私に視線を固定していることから、おそらく話があるのでしょう。あまりかかわりたくはない相手なんですけどね。


「こないだはどうも」


 こうして顔を合わせるのは夜の厨房以来だ。にこやかな表情で話しかけられているけれど、目の奥はちっとも笑っていない。


「お元気そうで何よりです」


 もちろん皮肉で、それは相手にもしっかりと伝わっていた。


「あんたのせいでたんこぶに青あざ尽くしよ……って、まあそれは私の力が足りないからで、他人を責めるのは違うこともわかっているわ。けど恨み言を聞くくらいはしてくれてもいいんじゃない?」


 丁寧だった口調は雑なものへと変わっている。厨房でも口は悪かったし、これがこの人の本性なのでしょう。


「それは私の業務内容には含まれておりません」


「可愛くないわねえ」


「余計なお世話です」


「まあいいわ。訊いたんでしょ? あたしの処遇」


 陛下の密偵に寝返ったんですよね? 

 堂々と城内を歩き回れるということは、本当なんですね。


「あたし、あんたの監視を任されたの」


「は?」


 仮に本当だとして、普通本人目の前にして言います?

 驚く私を前に、厭味たっぷりの笑みが向けられる。先ほどの皮肉の仕返しですか?


「今日はその挨拶にね」


 確かに主様の関係者を自由にしておくことに不安があるという気持ちもわかります。純粋に料理人を志している私としては潔白ですが、懸命な判断だと思います。けど、この人に頼みますか!?


「あら、不服って感じの顔ね」


「わけもわからず監視すると言われて喜ぶ人はいないと思います」


「驚いた?」


「いきなり監視すると言われて驚かない人はいないと思います。私に監視されて困ることはありませんが、監視対象に話していいんですか?」


「さあ? でもあんたのこと、驚かせてやりたくてね。話すなとも言われてないし」


「本当に、陛下の下で働いているんですね」


「あら、寝返りは嫌い? こっちの方が給金もいいのよ」


 別に寝返りを否定するわけじゃない。誰のために仕事をするか、選ぶのは個人の自由だと思う。もちろん裏切りも含めて。

 ただ私には理解が出来なかっただけ。主様は私にはもったいないほどの給金を下さった。けど私はお金で動いていたわけじゃない。いくら積まれたって誰かに寝返ることはあり得ないから。

 表立って反論すれば主様側の人間であることを認めることになる。だから私は何も言えないけれど、無言のまま反論を抱き続けていた。


「あんた、良い人に雇われていたのね」


「え?」


 私は何も口にしてはいない。なのにどうしてそんな話になったのか。


「雇い主を思い出してそんな風に優しい表情をするなんて、あたしには考えられないわ」


 思わず顔に手を当ててしまいそうになる。表情を変えたつもりはないのに、女性の口調は確信めいていた。


「これはあたしの勝手な妄想だけど、多分あんたもあたしと同じ、同業者よね」


 同じ職業柄、通じるものがあったのでしょうか。実は私も感じていたところです。


「あの人からだいたいの話は聞いたけど、ルイス様ってのは随分とあんたのことを大切にしてたのね」


 まさか主様の名前が上がるとは思いませんでした。

 確かに主様は素晴らしいお方です。でも貴女なんかに教えてはあげません。主様の素晴らしさは、今は私の胸にだけ秘めておけばいいのです。


「おっしゃることの意味がわかりません。先を急ぎますので失礼させていただきます」


 丁寧にお辞儀をして会話を終わらせる。

 私の反応は女性にとっては意外なものだったらしい。主様の名前を出せば私が取り乱したり、慌てたりすると思ったのでしょう。残念でしたね!

 下手に反論しては相手のペースにのまれるだけということは、不本意ながらジオンにからかわれる日々で嫌というほど学習しています。

 そっけなく答え、私は足を進める。背後からは物言いたげな視線が刺さったままだ。


「ふうん……まあいいわ。またね、サリア」


 いえ、私を監視するような人とはもう会いたくないんですが……。

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