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130 趣味と諸事情

※犯罪や娼婦についての描写を含みます。これらを擁護し助長するものではありません。

 すねに傷があるような、日の当たらない暗い所で人を食い物にしてしか生きていられないような。

 人間のクズをさらにゆがめて形にしたみたいな男が、何人もの兵に取り押さえられ、それでも負けおしみのように怒鳴った。

「こんな事、何の得がある? 使い捨ての娼婦なんざいくらでもいるぞ! 俺達を捕まえたって、別の奴が似た様な事をするだけさ! テメェらには何も救えねぇんだよ!」

「うるせえ! こっちは趣味と諸事情で慈善事業やってんだよ! 気が付いちゃったら助けるに決まってるだろバーカ! 似たようなことがあったってなあ、潰されないぶん結局マトモな商売のほうが利益率がいいってなるまで何回だってジャマしてやらあ!」

 負けイヌは! おとなしく! 牢屋にでも入ってろ!

 私が憤りとパッションのおもむくままに怒鳴り返すと、兵士や娼婦たちの間から変な拍手がぱらぱらと起こった。

 舞台は違法娼館摘発現場だ。

 いや、やっぱ手の届く範囲だけでもなんとかできるならしたほうがいいのかなと思って。

 最初は普通に、娼館に売られたり身売りした元孤児たちを買い戻す方向で行くつもりでいた。

 そのためクレブリの街の一角に何軒か固まって建つ娼館を訪ねてみたのだが、そうして堂々と営業しているお店は主人も営業形態もかなりしっかりしたとこだった。

 こう言う所で働けるのは娼婦としては運のいいほうだし、拾ってもらったオーナーにも恩がある。引退はもう少し稼いでからにしたいのと、地方都市のレディたちは思いのほか冷静に自分の立場を職業として見ていた。

 一応ほかにもむりやり売られてきたとかでお困りのレディはいませんかと探したが、いなくもないけどそちらはそちらで自分の稼ぎを送金しないと田舎の家族が食っていけないなどでやはり離職は難しいらしい。

 簡単に割り切れるものでもないのだろうが、彼女たちはしなやかに、少なくとも口ではそう言った。

 そのことに、我々は少し戸惑った。と言うか、持て余した自分のやる気がはずかしい。

 めちゃくちゃ感謝して頼られたいとか思ってた訳ではなかったが、こうも必要とされないと逆にすごくいたたまれない。やめて。気持ちはありがたいとか大人の対応を見せるのはやめて。はずかしい。

 我々は、知っていたはずじゃないか。親切の押し売りは迷惑でしかない場合があると、全然仲よくない人から押し付けられると困るしかない手作りのおはぎとかの話で。いや、でもちゃんとしたおはぎはおいしいから……。

 私は反省した。

 孤児院のテーブルに頬杖を突いて、子供たちや金ちゃんにおやつを出せとぐらんぐらん揺すられたりしながらぼーっとして二日くらいすごした。

 私的には反省の期間が長いほうだが、しかしそれも続かなかった。人はそう簡単には変わらないのだ。この深い反省を忘れずに、なにかの次回に活かしたい。

 この私の反省が二日ほどで終了したのは、たもっちゃんが探してきたからでもあった。

 得意のガン見で、さらったりむりやり売られたりしてきた娼婦たちで構成される、劣悪な環境の違法娼館の存在を。

 我々は張り切った。

 それなら思いっ切りやってもよさそうじゃないかと、せっかくしぼり出したのに使いどころのなかったやる気をここぞとばかりに全力でそそいだ。

 思い切りやるに当たって少々厄介だったのは、裏道で営業する違法娼館の後ろには違法な集団の存在があるっぽいことだった。

 娼館を潰すだけでなくそちらも一緒になんとかしないとほとぼりが冷めたらきっとまた同じことをするんだろうし、報復を受ける可能性がある。

 この街にはうちの孤児院があり、冒険者の我々はこれからきっと留守がちになる。ような気がする。

 我々が趣味の慈善事業で好き勝手した結果、子供たちに危険が及ぶのは絶対に避けたい。

 ただ幸いと言うべきか、我々が戦うべきなのは違法娼館の裏にいる十人程度のグループだった。しかも素人に毛が生えた程度のもので、ものすごく色々とずさんだったらしい。

 これなら潰すのも簡単簡単とか言って、たもっちゃんはさくさくと別件の犯罪の証拠をこれでもかと集めて新しいクレブリの城主に訴えた。

 そうして訴えるとどうなるかと言うと、街の衛兵がざくざくと使い放題になるのだ。もちろん城主が認めればの話だが、今回はすんなり訴えが通った。

 元奴隷であるエルフの恋人とうまいこと合法的に逃げ切った前城主の青年に代わり、現在クレブリの街を仕切っているのは領主が急遽指名した中年官吏の男性だ。

 地方貴族の次男に生まれ、兄にはすでに成人した跡継ぎがいる。家督が回ってくる可能性もなく領主の城で地道に文官として働いていたが、降ってわいたようにクレブリの城主に指名されたらしい。返事も聞かず強引に馬車に押し込まれ急いで輸送されたのち、今度は城に軟禁されてなんかよく解らないままにクレブリの街の管理と前城主やさらにその前の城主のあと始末に奔走している。

 と言うところまでは、たもっちゃんがガン見した。

 完全に余計な苦労が押しよせてきているが、元々優秀な人らしいのでどうかほどほどにがんばって欲しい。

 そんなこれからの険しい道のりが約束された新城主から大量の衛兵が貸し出されたお陰で、違法娼館と犯罪グループのアジト的な酒場を同時に急襲して摘発することができた。

 ほとんどの構成員はその時に捕らえたが、何事にも絶対と言うことはない。

 だから合計三人くらいにちょろちょろと逃げられてしまったが、ほら。うちのメガネ、ガン見があるから。

 小さい船で海に出ようとしていたところを捕まえ、逃げられないよう船ごと空に高く浮かべて持って帰ってきたりした。

 なんかやたらと容赦ねえなと思ったら、犯罪グループを徹底的に叩き、撲滅に追い込んだメガネはのちに語った。

「あぁ言うのはさ、ちょっとでも残すとあっと言う間に増えて戻ってくるからさ。やるならいっぺんに息の根止めないと」

「殺虫剤の注意書きなのかな」

 カビ取り剤の説明書でもいい。


 こうして違法に働かされていた女子たちは、一部が家に帰されて一部はまともな娼館へ移った。

 そしてどこにも行くあてがなく、しかし娼婦をするつもりも理由もない少女が二人ほど、我が孤児院を手伝いながら読み書きを学ぶことになった。

 正直、大丈夫かなあと言う気持ちはあった。

 うちの孤児院の職員たちから娼婦と子供を一緒に置くとは何事かみたいな意見が出るかと思ったからだ。

 しかし、実際はそんなことはなかった。

 私が勝手に先回りして、無用な心配をしたらしい。

 確かに娼婦は地位も低いし、進んで自分の子供を就かせたい職業では決してない。しかし身を売るのが下賤なら、買うほうも下賤であるはずだ。

「買い手は責められることがないのに、買われる側だけ唾棄される道理はないでしょう」

 腐っても貴族のユーディットからは、そんなマジレスをいただいた。

 加えて、うちで預かる二人の少女たちもまた、守られなかった子供なのだから、とも言った。うちの院長先生は、本当に人間ができている。

 そのことに安心したのもあっただろうか。

 これはもう、いいんじゃないか。

 たもっちゃんが妙に真剣な顔をして、話を切り出したのは違法娼館をすり潰す勢いで壊滅させた数日後のことだ。

「俺、充分待ったと思うんだ」

 たもっちゃんはテーブルの上に両肘を突いて、少し猫背に、指を組み合わせた自分の両手を顔の前に持ってきてとても深刻そうな顔で言う。

 やたらとしぶい声をした、特務機関の総司令がやってそうなポーズだ。

 我々はその時、孤児院の広間に集まっていた。いくつかくっ付けたテーブルに着いて、これからの方針を話し合っていたのだ。

 メンバーとしてはユーディットを始めとする孤児院の職員や、いまだ居残り手伝ってくれているアーダルベルト公爵家の騎士。それから、たもっちゃんのうるおいである二人のエルフたちだった。

 騎士やエルフがいてくれるのは助かるが、そろそろ帰してあげないと申し訳ないのではと言う話題が出てきたところでもあった。

 このタイミングに、私は気付いた。

「たもっちゃん、もしかしてエルフの里に行こうとしてない?」

 二人のエルフが帰るとなれば、この街にメガネをとどめるものはなにもない。

 いや、孤児院はある。けど、教師と料理人は確保した。強そうな用務員さんもいて、しっかりした院長に補佐役の侍女だっている。

 確かに、これはもういいような気もする。

 大森林にあるらしいエルフの里へ、変態の心が一直線に向かうのもムリはない。

 また後日のことではあるが、巡り巡ってこのことがのちに事件を呼ぶことになる。

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