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111 栄光

 たもっちゃんはさくさくと、レベルの高い変態たちから囚われのエルフを助けて行った。

 救出するべきエルフの数がとりあえず最後の一人になったのは、二ノ月も大半がすぎて下旬に差し掛かった頃だ。

 私は私でこれでもかと作って詰めて配ったり届けたりの保湿クリームに関する作業を全て終え、妙に気忙しい業者のような生活から抜け出してほっと息をついていた。

 保湿クリーム業者って、よく解らないけど。

 たもっちゃんが私に向かって聞いてきたのは、そんな頃のことだ。

「リコ、ひま?」

 レイニーと私と金ちゃんは、宿泊している公爵家の客室にいた。朝だった。たもっちゃんはノックはしたが返事を待たず、扉を開けてひょいっと顔を覗かせた。

 腰のカバンががちゃがちゃと重そうな音を立て、シャツに重ねた上着のボタンは閉めてある。二ノ月はすでに冬だった。たもっちゃんはその上に、私が適当に買ってきた、少しサイズが大きめのコートをだぼっと着ていた。

 お出掛けする時の格好だ。

 そんな格好でたずねられたことが、なんだか私は気に入らなかった。

「そう言うさあ、用件を言わずに予定だけ聞いてヒマならいいよねっつって勝手に用事とか押し付けるやりかたは嫌いだなー。ヒマだけど」

「えぇ……? そんなキレる? いや、ひまなんだったらちょっと一緒にきてくんない?」

「どこへ?」

「今からエルフ助けに行くんだけどさ、そこ」

「待って」

 すごい普通に言ったけど、それって今からエルフの軍団と公務員の兵を引き連れて変態の村を焼きに行くってことでしょ。村かどうかは知らんけど。

「私連れてくとジャマだからやめとけっつってたじゃん。テオが」

「あぁ、うん。そっちはね。こないで欲しい。ただね、これから行くとこおっきい漁港があるらしいのね。俺らエルフ助けとくからさ、その間に適当に買い物しといてくんない? 食べれる魚介類なら何でもいいから」

「なんだ、荷物持ちか。じゃあ行くわ」

 料理と食事に関わることは、たもっちゃんの言うことに逆らわないと決めているので。


 英雄かよと言う勢いで、たもっちゃんは多くのエルフたちを取り返していた。

 その始まりは私が大森林でエルフと出会ったことだったかも知れないし、そこで入手したエルフの子供のお守りを変態メガネがはあはあとガン見したことだったかも知れない。

 とにかく二ノ月が始まる直前に、たもっちゃんはまず一人目のエルフを助け出してきた。

 ちなみに、エルフのお守りは親から子へと贈られる。だから大森林で出会った少年のエルフと、最初に助けたエルフの女性は親子だったとのことだ。

 いや、だからって言うか、必然って言うか。

 そもそもお守りを贈った母親のエルフが王都で囚われていると解った経緯が、お守りをガン見したうちのメガネがエルフへの情熱をやたらと発揮し、無料サービスの利用規約みたいにつらつら出てくる情報をなめるように読み込んだからだ。

 変態も役に立つことがあるんだなと思った。

 助けてから少しして、母エルフは私にまでお礼を言って、息子はどんな様子だったかと聞いた。それがなんだか苦しげで、なぜなのかと思ったらもう何十年も会えてないそうだ。

 子供のそばにいられらない、親の罪悪感みたいなものがあるのかも知れない。

 ではどうしてそばにいないかと言うと、さらわれたエルフを取り戻すためだ。そしてさらわれたエルフの中には、彼女の娘も含まれていた。里に残された少年に取っては、姉になる。

「助けられた事には感謝しているわ。でも、子供が一人で大森林を出歩くなんて」

 私とエルフの少年がどうやって出会ったか聞き、母親は美しい顔を苦そうにしかめた。

 この時は、里からさらわれたエルフたちはまだ誰も取り戻せていなかった。母親の気持ちにすると、すでに娘を奪われた上に息子にまでなにかあったらと不安でたまらなかったのだろう。

 しかも少年は私と会って、お守りまで手放した。これはもう、一生外出禁止くらいのことらしい。

 でもなあ、あの子も必死だったと思うんだよな。おじいちゃんの具合が悪くて、でもお金はなくて。万能薬の対価に、自分が持ってる大事な物を投げ出すように渡してくれたのではないか。と、メガネからは聞いている。

 あんまり怒らないであげて欲しい。

 そんな気持ちで話をしてると、母エルフは白藍の瞳を丸く見開く。

「万能薬?」

「そう、こう言うの」

 私の持ってる万能薬は丸薬だ。本来は水薬のはずなのに、なぜか知らんがこうなったとしか言いようのないこげた色をしている。

 それを見て、母エルフはスンッと顔面から表情を消した。

「何なの、これ」

「ダメなの?」

「良過ぎるのよ」

 よすぎとかあるのか。あれか。ドラゴンの血と魔力がこれでもかと入ってるからか。

「お守りを手放すなんてとんでもないと思ってたけど……これじゃ薬の対価になんてならないわ」

 母エルフは鑑定スキルを持っていたようだ。ドラゴンにより制作された万能薬の効能を見てしまい、真っ直ぐ長く透けるような白銀の髪をぐしゃぐしゃにして頭をかかえた。

 こののちに散らばっていたエルフたちがどんどんと集まり、母エルフから事情を聞いた身内の間で親族会議が開かれるなどした。

 その結果、親族代表みたいなエルフの紳士にこの借りは一族を上げて一生掛かっても必ず返すとなぜか私だけに誓われてメガネからひどい嫉妬を受けたりもしたが、まあ、なんにせよいいならよかった。

 とりあえず、この辺が二ノ月の始まり頃のできごとだ。

 私は参加してないが、それからメガネやテオやエルフの軍団や王から派遣された騎士や兵、それにアーダルベルト公爵の私兵がなんかうまいことやって、囚われたエルフをどんどん救出して現在にいたる。

 これは、期間としてはかなり短い。

 なにしろ仲間を探すエルフたちは国中にちらばっていたし、囚われたエルフもそれぞれ離れた場所にいた。

 不幸中の幸いなのは、国外にはいなかったと言うことだろう。これはエルフをさらって売買した業者が、どうやら国内にしか販売ルートを持っていなかったためらしい。

 しかしそれでもこの国は広い。のんびりしすぎの疑惑もあるが、謎馬の速度だと横断するのに二ヶ月くらい掛かる気がする。確かめたことはないので多分だが。

 それがこの一ヶ月に満たない時間で、国内のエルフと言うエルフを集めてあとはさらわれて囚われた一人を残すだけになったのだ。

 これには少し、秘密があった。

「王都ってさー、中で転移魔法使えない様になってるんだって」

 たもっちゃんは、がたがた馬車に揺られながらに私に言った。

 それは防衛上の理由だそうで、では転移魔法を使いたい時にはどうするかと言うと、防壁で守られた王都の外に専用の場所があるのだそうだ。

 私やレイニーや金ちゃんが、ドナドナと連れて行かれているのはそこだ。馬車なので、とてもあの歌に合っている気がする。

 王都を離れてしばらく行くと、木の柵や塀で守られた、だだっ広い場所に着く。簡単な門が設けられた入り口は、横に小さな小屋があり二、三人の兵士が詰めている。

 雑な作りの木の門をがたぴしさせて開けてもらって、馬車のままで入って行くと柵や木塀に囲まれた広い土地の真ん中に納屋のような倉庫のような、二階建ての建物があった。

 そこで馬車から下ろされて、はっとした。なるほどこう言う感じの場所かと。

「国の持ち物だから、使うには申請して許可もらわないといけないんだけどさ、主要な都市とは結構行ったりきたりできるみたい」

 周囲を見ながら、たもっちゃんが言う。

 そこにはなにもないように見えた。しかし違った。

 確かに倉庫のような建物のほかは、地面の上にはなにもない。しかしその地面には、転移の魔法陣が行き先の数だけ描かれていた。

 素早く、順調に、そして短い期間でエルフたちを助けられた秘密はこれだ。

 エルフの保護は人族の王たちが協定を結び、その名において約束したものだ。それを守らぬ罪人は死すべしとばかりに、王家からの全面バックアップがあったのだ。

 そのことで、普段は物資の運搬などに使われる王都と主要な都市とを結ぶ転移魔法陣がほいほい使用することができたのである。

 それはもう、東京大阪間もあっと言う間だ。異世界だから、東京も大阪もないけども。

 しかし転移魔法を使うには、多くの魔法使いが必要になる。それもまた、王家のほうから提供された。よく見ると、その辺にいる死んだような遠い目の、文系っぽい魔法使いに見覚えがあるような気がしなくもなかった。

 たもっちゃんの栄光は、転移魔法で魔力が尽きてばたばたと倒れ行く魔法使いたちの犠牲の上に成り立っていたのだ。

 大変ですね、公務員のお仕事。

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