第26話 VS金髪のキーン その1
アックスとシルバのデュエルはたったの数秒で決着がつき、アックスの勝利に終わった。
「おい……シルバがPKに一発でやられちまったぞ……」
「あの斧使いは何者だ? ギミック武器なんて初めて見た……」
「さっきのスキルは何だ?」
デュエルを見ていた野次馬たちの予想では新規プレイヤーの少女二人に付きまとう斧使いを聖天騎士団のシルバが叩きのめすはずだったのだが、デュエルが終わってみれば勝者はプレイヤーキラーの斧使い。
予想外の結果に野次馬たちはざわめき、今起こったことが信じられないといった様子だ。
シルバを一撃で沈めてしまったアックスの異常な攻撃力に驚き、初めて見た武器とスキルについて興奮しながら話をしている。
別に何も驚くようなことじゃないんだけどな……
驚いている野次馬を見てアックスは不思議に思った。
アックスはスキルのシステムアシストに自分の力を乗せて全力で振り下ろしただけである。
ダメージ=攻撃力×スピード×部位というのがアックスの持論であった。
DTOにおいて旧時代のMMOによくあったAGI:素早さというものは存在しない。
存在するステータスはSTR:筋力 DEX:技量 VIT:体力 INT:魔力 MND:精神 PIE:信仰の6種類。
攻撃力が武器だとするとスピード――素早さとは筋力のことだ。
アックスの断罪者の斧はオウカに特注で製作してもらったギミック武器である。
オウカの製作した飛び抜けた攻撃力を誇る斧の攻撃力とSTR極振りのアックスの攻撃速度が合わさった結果――
とてつもない破壊力を生み出したのであった。
本人にその自覚はあまりなかったが。
「あ、しまった……」
アックスは苦虫を噛み潰したような表情になった。
カエデとリリーにナックルの戦闘を見せるはずがついうっかり条件反射で倒してしまった。
まさか一発で倒してしまうとは思わなかったので全力で攻撃してしまったのだが失敗だっただろうか?
いや、しかし手を抜くのは相手に失礼である。
「うーむ……」
唸りながらアックスが断罪者の斧を両手斧から片手斧の形態に戻して担ぎ直したその時だ――
「お兄ちゃんかっこいい!」
「アックス先輩! すごかったです!」
カエデとリリーの二人はアックスの勝利に歓声を上げた。
アックスは二人に手を振って応え――
「ま、いいか。二人とも嬉しそうだし」
一発で倒してしまったことについて、アックスは深く考えないことにした。
野次馬たちはそれを見て頭に疑問符を浮かべた。
あの新規プレイヤーらしき少女二人のうち一人は斧使いをお兄ちゃんと呼んで勝利に歓喜している。
もしかしてあのアックスという斧使いはプレイヤーキラーではなく、少女たちの知り合いなのでは?
野次馬たちは今頃になって自分たちの勘違いに気づいた。
『勝者アックス。デュエルを終了します』
システムメッセージが勝者を告げると展開されていたバトルゾーンが消え去った。
そして真っ二つにされて地面に転がっていたシルバの死体が光に包まれたかと思うとシルバは蘇生されて元通りの姿に戻った。
生き返ったシルバはデュエルの結果に納得していないのかアックスを睨みつけている。
難癖をつけられそうな予感がしたのでアックスは次のデュエルをさっさと始めたいと思った。
「シルバ、下がれ。次は俺の番だ」
「くっ」
ギリギリと歯を噛み締めながらシルバは下り、交代で前に進み出たのは金髪ナイトのキーンだ。
平原で対峙するウォーリアのアックスとナイトのキーン。
そしてそれを見守るのは妹と妹の友達とどうでもいい野次馬ども。
張り詰めた緊張の中、両者は睨み合っていたかと思うと突然キーンが「ところで」と口を開いた。
アックスは何を言うのだろうと身構えながら「何だ?」と返した。
「あそこにいるカエデっていう子はお前の妹なのか?」
「は?」
戦いの前に何を言うのだろうと身構えていたアックスはキーンの言葉にズッコケそうになった。
しかし、なんとか踏みとどまり返事を返す。
「そうだ。俺の妹だ」
「くっ……うらやま……じゃなくて……リアルの知り合いでレベル上げをしているなら最初からそう言え。俺たちはてっきりお前がPKだと思っていた」
「勝手に勘違いして絡んできたのはそっちだろう」
「それは……すまなかった」
キーンは頭を下げてアックスに謝罪した。
先程までの失礼な態度と打って変わり、アックスは眉を寄せた。
「どういうつもりだ?」
「最近、初心者のレベル上げの手伝いをすると見せかけて森の方に誘い込んでPKする事件が多発していてな。怪しい奴が初心者と一緒にいたから尻尾を出さないかと思って色々と探りを入れさせてもらった」
「怪しい奴って俺のことか?」
「ああ」
「…………」
初心者の手伝いをするように見せかけて誘い出すならもっと女性受けしそうなアバターにするだろう。
この世界は仮想世界であり、見た目を自由に変えられるので、見た目で人を判断することは出来ない。
アックスは馬鹿な二人につっこみを入れたかったがぐっと堪えた。
「なるほど……誤解が解けたならデュエルもやめにするか?」
キーンとシルバの二人はレベル上げやゲームの楽しみ方についての考えはアックスと異なるがそこまで悪い奴らではなさそうである。
失礼な言動の9割くらいは本音だったのだろうが1割は探りを入れるためのものだったのだろう。
誤解が解けたなら別に戦う必要はない。
アックスは妹たちとのレベル上げに戻ろうと考えたのだが――
『キーンからデュエルを申請されました。受諾しますか? YES/NO』
アックスの視界にポップアップメッセージが浮かび、キーンは盾と剣を構えて楽しそうに笑いながら言う。
「斧に負けたまま引くわけにはいかない。メイン盾の力を見せてやるよ」
そうだよな。
ここでやめるわけにはいかないよな。
アックスは心のどこかで彼らとデュエルをするのが面倒だと考えていた――
しかし、キーンの表情を見てその考えは変わった。
今は純粋に戦いを楽しみたいという気持ちになっていた。
アックスはキーンの挑戦を受けてニヤリと笑ってYESを選択する。
「面白い。こっちも全力で叩き潰してやる」
こうしてSTR極振りウォーリアVS正統派純ナイトという一風変わったタンク職同士の戦いの火蓋は切られた。




