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第23話 不人気斧使いの戦闘指導

 依頼を失敗した後、アックスは北の平原でカエデとリリーの二人に戦闘の指導を行うことにした。


「いいか、二人とも。今から俺が戦闘の手本を見せるからよく見ておくように」

「はーい」

「よろしくお願いします」


 カエデとリリーの二人は返事をしてアックスに注目する。

 二人が依頼を失敗した大きな原因の一つがモンスターへの攻撃の躊躇である。

 VRMMOを始めたばかりの初心者の多くは仮想世界のモンスターがまるで本当に生きているかのように見えるために、生き物を殺す行為に対して抵抗を覚える。

 二人がウサットに攻撃をしてもなかなか当たらなかったのはそのためだ。

 まず二人にはモンスターへの攻撃に対しての抵抗を取り除いてやる必要がある。

 あと、リアルで戦闘をした経験がないため、へっぴり腰の攻撃でまったく力が入っていなかった。

 あれではモンスターにダメージが通らない。

 それで戦闘の手本を見せてやろうとアックスは考えた。


「じゃあ、まずはカエデのクラス、グラップラーの戦闘の手本を見せる」


 アックスが周囲を見回すと、ハムスターの姿をしたモンスターのハムがタイミング良く近くにポップした。


「おっ、ちょうどいいところにハムが」

「かわいい」

「可愛くてもモンスターだからな。油断したらやられるぞ」


 ハムは倒してもたいした経験値が得られないのだが、ノンアクティブモンスターで近くに近寄るまでまで攻撃を仕掛けてこないため攻撃しやすく、初心者でも倒しやすいモンスターである。

 アックスは背中のフリントストーンアクスを抜くと地面に突き立てて、素手のままスタスタとハムの方へ歩いてゆく。


「お兄ちゃん、武器は?」

「いらん」


 そう言ってアックスがハムに近づくと、ハムの頭の上のカーソルが緑から赤に変わって襲いかかってきた。

 アックスは間合いに入ってきたハムにパンチを打ち込んだ。

 踏み込みの力を腰の回転に乗せて、さらにその回転の力を拳に乗せる。

 空手で言うところの正拳突き、ボクシングで言うところの右ストレートというやつだ。


 ドガァッ


 ハムはアックスの正拳突きを受けて吹っ飛び、ポリゴンの粒子となって爆散した。


「とまあ、こんな感じだ」

「す、素手でモンスターを……しかも一撃で……」


 アックスが素手でモンスターを倒す光景を見て、カエデは目を大きく見開いて驚いている。


「拳にも隠しパラメータで攻撃力が設定されているからな。レベル差があれば素手でもこの通りだ」

「へえ、そうなんだー。お兄ちゃんすごいねー」

「アックス先輩流石ですっ」


 二人は素手でモンスターを倒したアックスを賞賛した。

 DTOプレイヤーならば誰でも出来て当たり前なのだが悪い気はしない。


「さて、次はリリーに手本を見せる番だな」

「はいっ」


 しかし、リリーの扱う武器は剣である。

 手刀を剣に見立てて攻撃しても良いが……それではあんまりだろう。

 アックスは地面に突き立てたフリントストーンアクスを拾い、背中に担ぎ直してからインベントリを開いた。


「これでいいか……」


 装備武器をセットし直すと背中に担いだ戦斧がフリントストーンアクスから選んだ斧へと変更された。

 アックスが選んだ斧の名前は断罪者の斧。

 断罪者の斧のフレーバーテキストを見ると「別名ギロチンアクス。数百人の罪人の首を落とした断頭台のギロチンの刃を材料に作られた斧。時折、斧からは罪人の断末魔の悲鳴が聞こえてくる……」となんとも恐ろしげな説明が書かれている。

 目を引くのはそのアンバランスな形状で、短い柄とそれに対して平行に取りつけられた長い斧刃。

 斬れ味の鋭い幅広の斧刃が特徴の片刃の片手斧である。

 柄が短く、見ようによっては剣に見えなくもない。

 断罪者の斧を片手で持って二人に見せる。


「二人ともこの武器は何に見える?」

「斧に見える」

「斧ですね」


 ……やはり剣には見えないか。

 別の物に見えたとしてもでかい中華包丁。もしくはでかい鉈である。


「俺はウォーリアだから剣を装備出来ない。だからこの斧が剣だと思ってくれ」

「分かりました」


 先程アックスが素手でモンスターを倒したように、DTOではあらゆるものに攻撃力が設定されている。

 しかし、いくら攻撃力があってもスピードのない攻撃や武器がかすった程度ではたいしたダメージにはならない。

 旧時代のRPGでは「プレイヤーの攻撃。モンスターに○○のダメージを与えた」「プレイヤーの攻撃。モンスターは攻撃をかわした」というような確率による攻撃ダメージか回避の判定しかないが、このゲームはVRMMOである。

 現実世界に似た物理法則によってモンスターへのダメージが計算されているため、運動神経が要求される。


「いいか、DTOではダメージ=攻撃力×スピード×部位だ。いくら攻撃力のある武器でも力の入っていない攻撃ではモンスターにダメージを与えられない。そのことを念頭に置いて俺の攻撃をよく見るように」

「はいっ」


 実際はもっと複雑な計算式によってダメージが算出されているのだろうがまあいいだろう……

 アックスは簡単にDTOでのダメージの説明をして、攻撃の手本を見せるために再びポップしたハムに近づいた。


「こうやってグッと力を込めて、一気にこう、ズバッっと斬りかかる!」


 ハムはアックスの斬撃によってスパンと真っ二つにされ、ポリゴンの粒子になって爆散した。


「おおーなるほど! ズバッですね!」


 アックスが何回か攻撃の手本を見せたあと、カエデとリリーもモンスター相手に攻撃の練習を始めた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 数十分後――


 ゲームの中なのにこういう言い方は少しおかしいが二人とも運動神経がいいのだろう。

 少しだけ指導しただけですぐにコツを掴んでモンスターを倒せるようになった。


「えい」「やあ」「はっ」「にゃっ」「ふぁっ」


 掛け声とともに攻撃を繰り出し、だいぶ戦闘に慣れてきた様子だ。

 最初は二人がかりでモンスター一匹を相手にしていたのだが今は一人でも倒せるようになっている。

 たまにへんな掛け声が混じっていたりするのだが、本人たちは至って真面目に練習をしているので気にしないようにする。


「二人ともどうだ? なんとなく分かってきたか?」

「うん。慣れてくるとスポーツみたいで面白いね」

「そうですね。楽しくなってきました」

「それじゃあ――」


 次はスキルの使い方を教えるか。そう思ったその時だ――


「ねえ、君たち二人は初心者?」

「俺たちがレベル上げを手伝ってあげようか?」


 高レベルのプレイヤー二人がカエデとリリーの二人に話しかけてきた。

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