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【書籍化進行中】暗殺姫、聖女に転職する【ネトコン13入賞】  作者: 毒島リコリス


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12-8:プロポーズ

 国内外が大騒ぎになっている中、ロウエンはがちがちに緊張していた。


 ここは城の中庭で、隣にはアーユイがいる。

 出入り口には第二騎士隊の隊員たちが、邪魔が入らないよう立ち入りと部外者の見物を制限するという名目で野次馬をしている。リーレイはその最前列を陣取っていた。


「せ、聖女様……」

「はい」


 いつの間にか春の花の季節は過ぎ、花壇には鮮やかな夏の花々が咲き乱れていた。


「……改めて、先日のお返事を、お聞かせ願えますでしょうか」


 ロウエンはまたしても、耳まで赤くなっているのが自分でもわかった。するとアーユイはまっすぐに向き直り、ヴェールを外した。


 そして、


「交際の申し入れ、謹んでお受けいたします」


 恭しく頭を垂れる。

 エンネア貴族女性の最敬礼を見て、オーディエンスが遠巻きに湧いた。ロウエンの顔が、ぱあっと明るくなった。


「ただし」


 続けられた言葉に、びくりと固まるロウエン。


「答えて欲しいことがいくつか」

「何でしょう」


 抱きしめようとした腕は行き場をなくし、一旦身体の横に戻った。


「一つ目。私は仕事を続けられますか?」


 王子との交際を公にするということは、婚約したも同然だ。自身の気持ちに素直になったところで、現実は避けられない。

 ロウエンは頷いた。


「できれば危険なことはやめて欲しいけど、貴女が望むなら」


 それを聞いて、アーユイは微笑んだ。


「二つ目。王子が婿入りすることはできないでしょう? 私が跡を継がないアインビルドは、どうなりますか?」


「それについては、提案があります」

「聞きましょう」

「王位は、いずれ兄が継ぐでしょう。そうなると僕は、爵位を授かって家を出ることになります」


 オリバーもそうだ。彼は王弟だが公爵位を持ち、貴族街に家がある。


「しばらくは騒がしいでしょうし、まずは新しい身分で僕が隠れ蓑になって、アーユイに今まで通りの仕事をしてもらえればと」

「……つまり、実質的に、暗部の家系が増えると?」


 ロウエンは小さく頷いた後、少し照れながら続けた。


「それで、僕らの子どもか、孫か……。ほとぼりが冷めた頃に、アインビルドの養子にしましょう。いかがですか」


 どうせ新しい家だ。名前が途絶えたって、ロウエンは気にしない。


「なるほど。目立ちすぎて仕事が減ったおかげで、まだしばらくは父も元気なはずですし……。悪くない提案です」


 納得のいく答えだったようで、アーユイはふんふんと満足げに頷いた。


「それじゃあ」

「最後に一つ」

「はい……」


 今度は何だろうかと、身構えるロウエン。


「いつから私のことが好きだったのですか?」


 正式に告白した時にも見た、困ったような顔。もしかしてこれがアーユイの照れ顔なのかと、ロウエンはようやく気付いた。


「自覚したきっかけは、温泉です」


 そう思うと急に微笑ましく思え、正直に答えた。と、困り顔からジトッとした目の呆れ顔になる。


「……意外とスケベですね」

「ち、違います! いや、違わないんですけど!」


 あたふたと手を振った。


「でも、きっともっと前から、好きだったんだと思います。――それこそ、貴女に手合わせで負けた時には、もう」


 今更考えたところで、当時の感情が今の感情に塗り替えられただけかもしれない。

 だがアーユイが侍女に化けてこの中庭で花を愛でているのを見た時、初めて自分から女性に話しかけたいと思ったことは事実だ。


「なんせ、憧れの暗殺姫でしたからね」


 お伽噺の姫が目の前に現れた。それも、想像よりもずっと美しい姿で。惚れないわけがなかった。


 すると、アーユイはぽかんと口を開けたあと、


「ふっ……」


 吹き出した。


「やっぱり、ロウエンは変な奴だな。憧れるようなものじゃないだろう、暗殺姫なんて」

「なん――」


 変な奴と言われたロウエンが抗議する間もなく、アーユイはロウエンの襟を掴み、自分の顔に引き寄せた。




 二人の影が重なり、変な形で固まっていたロウエンの腕が、やがて恐る恐るアーユイの腰に回った。

 背後の歓声が特大になり、第二上級騎士隊全員で修練をサボっていたのがバレて、オリバーの怒鳴り声が聞こえた。




 アーユイは驚いて中庭の出入り口を見た。




 オリバーの隣で肩を落とす父の姿を見つけて、困ったような顔で笑った。




 初夏の日差しが中庭に降り注ぐ、穏やかな午後のことだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

一旦ここで完結となります。

思いのほか反響をいただけたので、もしかすると番外編などが続いたりするかもしれません。

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