5-1:夜遊び再び
夜。ロウエンが、アーユイの部屋にひょっこり現れた。
「じーじょさん。あっそびっましょ」
その手には、シーラの市民が着る服があった。もちろん男物だ。
「大丈夫、今回は隊長も一緒。堂々と正面から出てきてくれていいよ」
着替えて表で待ってるね、と言い、ロウエンは金色の尻尾を振りながらすぐに出ていった。
教会が閉まった後も、祭りはまだ続いていた。
シーラの民にとって聖女の誕生というのは、それだけ喜ばしい出来事なのだ。
「それにしても、よく似合うなあ」
男装したアーユイとリーレイを、ロウエンはしげしげと眺める。
「本当に。俺たちに混ざっていても全然違和感がないし」
妹がいるのんびりとした騎士が頷く。
市民に聞き込みして目を付けたという店には、他にも既に顔が赤い隊員達がいた。
先日の夜遊びに参加できなかった者たちが、自分たちも侍女さんと話したいと声を上げたらしい。
「変装のコツって、何かあるの?」
「男が女に化けるなら、まずは喉仏と肩幅をごまかすためにショールやマフラー。骨が出やすい手と膝も隠したほうがいい。コルセットで腰にくびれを作って、胸だけじゃなく尻も丸くなるように詰め物をして、あとは歩き方と仕草だ」
男装なら逆だ。喉仏がないことがバレないよう首元を隠し、できれば上着などで肩幅を嵩増しする。
胸を潰すのはもちろん、腰のくびれや尻の丸みが直線的になるよう詰め物をし、やや外股で歩く。
身長を靴で底上げすることもあるが、アーユイには必要ない。
「化ける相手の身分や職業によっても変わるから、あくまでも例だけどね」
「なるほどなあ」
何かする予定でもあるのだろうか。ロウエンは嫌に真剣に聞いていた。
「ロウエン様は……。顔だけならまだしも、女装するには身長に少々無理があるかと」
一応、嗜めておいた。隊員たちが吹き出した。
「それはそうと、隊長。外出許可を頂き、ありがとうございます」
ロウエンと共にアーユイとリーレイを挟んで座る大男に、アーユイは微笑む。
「……この前の夜遊びを見たら、まあバレるまいと思ってな。こそこそされるより、警護もしやすい」
シーラは治安が良く、聖騎士団も巡回しているので、少し羽目を外しても良かろうということになったようだ。
「プロにもバレないのがプロだと、父から常々言われておりますので」
「レンの教育は行き届いているな」
フンと鼻を鳴らす隊長。
「やはり、父と知り合いなのですか」
「平隊員だった頃の、同期だ」
「なるほど……」
国王と、王弟である隊長は二歳差だ。そしてアーユイと同年代のロウエンが国王の息子なら、彼とレンが同年代であってもおかしくはなかった。
「侍女さんのお父上というと、文官の?」
「ああ。レン・アインビルド。娘がこの調子なら、同じ条件でやったらお前なんか十秒と持たないだろう」
「ええ!? あんなに人の良さそうな方なのに?」
ロウエンが驚く。
「父は私よりもずっと強いよ。まだ勝ったことがない」
アーユイも頷いた。レンはアーユイの持つ技術に加え、剣術も一流だ。父の過去は知らなかったが、騎士隊仕込みだったのだなと今更納得した。
「まあ、今回の件でしばらくアインビルドも仕事がしづらくなるだろうし……。奴にも後続の育成に加わってもらうか」
ひげをじゃりじゃりと触りながら、隊長は悪い顔をした。
レンのことを思い出しているその雰囲気から、気の置けない間柄だったのだろうとアーユイは察する。
「なんなら、家の者も貸し出しますよ。私のせいで暇しているでしょうし。騎士隊は『何でもアリ』の戦い方に慣れていないでしょう?」
「それは良い。最近緩んでるからな。ボコボコにしてもらおう」
「ええーっ」
部下たちからの不満の声に、隊長はがっはっはと笑った。




