4-4:お勤め
翌日には、街を挙げての盛大な祭りが行われた。
準備期間がほとんどなかったのによくぞここまでとアーユイは感心したが、聞けばエンネストでの聖女誕生の一報が届くと同時に、準備を始めていたらしい。
さすがに吹きさらしの広場に一日中座っているのは身体に障るだろうと、式典が終わると場所は本部教会の大聖堂に移された。
しかし、ひっきりなしに訪れる信者たちの相手をアーユイがすることに変わりはない。
拝むだけで泣き出す者、握手を求めてくる者、持病を治して欲しい者。
そして、たまたまシーラに滞在しており、噂を聞きつけて来たよそ者の冷やかし。
最後については、騎士隊ではなく教会の聖騎士団によって、即座に外へ放り出された。
午後五時。
「つ、つかれた……」
敵に追われて逃げ回った時でもこんなに疲れはしなかったと、アーユイは聖堂の扉が閉まると同時にため息をつく。
「大丈夫ですか、聖女様……」
司祭が心配そうに寄ってくる。
「ああ、はい。こんなにたくさんの人と話すのは、さすがに初めてだったもので」
「体調が優れないのでしたら、早めにエンネストへ帰れるよう掛け合います」
気疲れしただけだが、病弱気弱な聖女という設定もそろそろ更新しておかないと、この司祭に余計な心配をかけてしまうだろう。
「大丈夫ですよ、司祭様。実はピュクシス様の加護で、私の身体は健康そのものになったのです」
「なんと! それは何よりでございます。安心いたしました」
実はも何も、以前から風邪の一つも引いたことがないが、そう言っておくのが一番無難だ。
真実を知る護衛の騎士たちは苦笑いしている。
「でも、エンネストには一度戻りたいですね。シーラの街も気に入りましたが、聖女に選ばれてから実家にも帰れていませんし、父のことも心配です。騎士様たちも、いつまでもシーラにいるわけにはいかないでしょうし」
今は騎士隊所属と言えど、彼らもまた貴族だ。ここに定住することはできない。
「その件についてなんですが」
と、大司教と隊長、そしてロウエンが揃って奥の部屋から出てきた。
式典の後、ほとんど籠もりきりで話し合いが行われていたのだ。
心なしか、ロウエンの髪の艶が薄れている気がした。
「暫定的な処置として、聖女様の身元は形式上教会預かりとし、その上で教会が聖女様の出身国であるエンネア王国に警護を頼むという形で、エンネストでの暮らしを保証させていただければと」
なにしろ、ピュクシスから直々にアーユイを支えるよう頼まれてしまったのだ。
丁重に扱わねば神の怒りを買うのではと、怯えている様子が見受けられた。
「申し訳ございません、聖女様。度々ご不便を強いてしまい」
「構いません。それが一番差し支えない方法でしょう」
「まあ、エンネア貴族としてではなくピュクシス教の聖女としてなら、教会がある国にならどこでも簡単に入国許可が出るそうですから。いっそ世界一周旅行なんてどうです? いてっ」
ロウエンが軽口を叩き、無言で隊長にど突かれた。
「なるほど。教会預かりということは国家に所属しないわけですから、通行証の種類が変わると……」
落ち着いたらそれも良いかもしれないと、アーユイが半ば真剣に考え始めていると、
「聖女様。これの言うことを鵜呑みにしないでください」
隊長が大きなため息をついた。




