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母の日

作者: 夕凪

「お母さん!」

 一人の青年が嬉しそうに笑いながら手を差し出した。手には一輪の花が握られている。その花の名前はカーネーション。母の日に送られる花だ。

「まぁ!」

 お母さんは嬉しそうに、そして驚いた顔で青年を見つめている。

「これ、どうしたの?」

「プレゼント!母の日の!」

「ありがとう」

 青年の言葉にお母さんは嬉しそうに笑みを深めた。


「ふぅ……」

 青年は大きな荷物を置き息を吐き出した。彼の名前は椎名、どこにでもいる普通の高校生だ。

「椎名君今日はありがとうね!」

 歳のいったおじさんがにこにこと笑いながら声をかける。おじさんは母親の弟になり、この青年の血のつながったおじさんになる。

「はい!お疲れ様です!」

 椎名は元気よく答えた。おじさんは椎名の反応に嬉しそうに頷いている。

「これ、本日の分!」

 おじさんはそう言うと封筒を手渡しで渡した。

「うんうん!じゃあ!またなんかあったらよろしく!」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 椎名はそう言うとその場を離れた。

 向かう先は花屋だ。すでに買う花は決めてある。かなり前から通い迷い、自分で考えた花束を置いてもらっているからだ。

 カーネーションを中心に色とりどりになる花束は、椎名が母の喜ぶように考えた花束だ。

「すいません!」

 椎名が花屋にたどり着く。

「いらっしゃーい」

 花屋の店員さんはにこにこと笑顔で椎名を迎え入れてくれた。

「お取り置きしてある花束の受け取りをお願いしたいのですが」

「はいはい、ちゃんと置いてありますよ」

 店員さんはそう答えるとバックヤードへと向かっていった。少しして戻ってくる。腕にはきれいに飾り付けのされた花束を抱えてだ。

 椎名は花束の存在を確認するとにっこりと笑顔になった。

「ありがとうございます!」

 椎名が嬉しそうにお礼を言いながら花束を受け取ろうとする。

店員さんは椎名の手の届かぬように花束を動かした。

 椎名は不貞腐れた表情を作る。

「お代は?」

「あぁ、わかりました」

 どうしてそういうことをするのかわからなかった椎名は、店員さんの言葉で納得した表情を作る。

「すいませんでした」

 椎名は申し訳ない顔を作りお代を渡した。店員さんはお代を受け取り確認をすると嬉しそうに頷いた。

「うん!毎度ありがとうございました!」

「こちらこそ、また何かあればよろしくお願いします」

「はい!ではまた!」

 店員から花束を受け取った椎名は家へと帰宅した。

「ただいまー!」

「おかえりなさい。もうすぐご飯だから用意を手伝ってね。今日はお父さんが作ってくれるからね」

「わかった!少し待ってね」

 椎名は帰宅してすぐに親の顔を見ないで自室へと向かった。そこで花束を隠すようにしまったのだった。

「これはサプライズだから」

 そう、この花束は椎名が一生懸命考えた母の日のサプライズだ。父との共同作業でもある。父は料理を、椎名は花束をという具合にだ。

 花束がばれなくてよかったと椎名は息を吐き出した。

「うわっ!やばいやばい!」

「もうお父さんったら!」

「待て!今日は母の日だから!純―!」

 早速父がやらかしたな。椎名は行き着く暇もないと苦笑いを浮かべた。

「今行く!」

 そしてすぐに部屋を飛び出していったのだった。


 少し焦げていたり不格好だった晩御飯だが、無事に父が作り上げ、減算は食べ終えたところだ。

椎名はお風呂に入ると言い部屋を出ると、自室にある花束を取ってくる。

「お母さん!」

「まぁ純、お風呂は……」

 椎名に声をかけられたお母さんは少し怒った声色で椎名に話しかけるが、椎名の持つ花束を見て言葉を失った。

「お母さん!いつもありがとう!」

「まぁ……」

 お母さんはその一言を発すると、口元に両手を当てたまま動かなくなる。椎名はすかさず花束をお母さんに手渡した。

「これは感謝の気持ちです」

 照れくさそうに微笑みながらだ。

「まぁまぁ……」

 お母さんは反応が遅れたがしっかりと花束を受け取った。

「ふふ、どうだ?料理は父さんが、花束は純のサプライズだ」

 お父さんは得意げに言う。お父さんの顔は得意げだった。

「まぁまぁ、ありがとうね」

 お母さんはにこにこと笑いながら花束を撫でている。

「お母さんどう?」

 嬉しそうなお母さんを見て成功したと心の中で微笑んでいる椎名はお母さんに感想をせかした。

「そうねぇ……」

 きっといい反応が返ってくるはずだ。椎名はそう考えた。

「とりあえずお風呂入っちゃいなさい」

 お母さんはいたずらっ子の様に微笑みながら言った。少しきょとんとした椎名だがお母さんが追い打ちをかけてくる。

「ほら、早く!」

「わ、わかったよ……」

 椎名はお母さんから欲しかった反応が返ってこなくてしょんぼりしながらお風呂へと向かう。しかしお風呂に向かっていく足は次第に軽やかになって負った。

 後ろからお父さんとお母さんの話声が聞こえるからだ。

 花束の為に花瓶はどこからと聞いてる声。そして、驚かし返すと決めたお母さんがお礼のデザートを用意し始めたこと。

 サプライズは成功だ。

 にこにこと笑いながら椎名はお風呂に入ったのだった。

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