第46話 悪役貴族、黒幕疑惑浮上 ②
「一昨日、お偉方から告発があった。『マルス・ヴィルが、アルカナ・ストリームにおいて異端魔術を用いた配信をしている』とな」
台所でお茶の準備をしていたエリシアの手が止まる。
「それだけではない。そなたが聖都を追放された直後から、犯罪組織の動きがにわかに活発化した。闇アーティファクトが裏社会に出回り、各地の神殿が襲撃を受け、高位貴族までもが犠牲になっている。どれも常道では説明がつかぬ手口で、だ」
噛みしめるように続けるブリジット。
「奴らは間違いなく異端魔術に手を染めている。そして『黒幕はマルス・ヴィル』との情報がマナ・ネットで広まっている」
「そんな――」
エリシアは思わず振り返るが、マルスが手で制す。
「で、騎士団長殿はそれを真に受けたって?」
「まさか」
ブリジットは首を横に振った。
「わたしは情報を鵜呑みにしない。だが、放置できないほど噂が大きくなっているのもまた事実。故に我々はエドワード殿下から命を受け、このアルシュ・デア・ヴェルドまで足を運んだのだ」
「なるほどねぇ」
マルスは額を押さえて天井を仰ぐ。
「王太子殿下ともあろうお方が、ネットの噂に振り回された? 信じられないな。そんなタマじゃないだろ?」
彼は『聖愛のレガリア』のメインヒーローとして、強さと見識を兼ね備えた王太子だったはずだ。すくなくとも匿名発言の噂を理由に騎士団を派遣するほど愚かではない。
「……殿下はそなたを目の敵にしている節がある。聖女様は殿下の早計をお諫めしておられたが……如何せん、殿下は異端には容赦なさらぬからな」
「はは、笑える」
乾いた笑い。
(ティアナに止められたのに強行したのか? うーん、あんまり考えられないけど……俺が目立ち過ぎたせいってことだろうか? バズるのも良いことばかりじゃないな)
それとも原作では描写されていなかっただけで、マルスの元に騎士団が来た裏設定があったのかもしれない。
「俺が黒幕かぁ。びっくりだ」
他人事のように言うマルスの前に、エリシアがティーカップを置く。
「噂が事実じゃないってことは、うちのエリシアが証言してくれると思うけど……それじゃダメ?」
「従者は証人と認められない」
「だよなぁ」
それどころか、部下もしくは共犯者の容疑を向けられているに違いない。
(エリシアは関係ないって言っても、信じてもらえないだろうし)
カップに茶を注ぐ彼女は、いつも以上に固い表情だ。緊張、不安、焦燥。そんな胸の内がありありと見て取れる。
「困ったな。どうすれば身の潔白を証明できる?」
紅茶で満たされたカップを前に、ブリジットは長い睫毛を伏せた。
「エドワード殿下は、そなたの処断を命じられた」
「……ん?」
「そなたはすでに聖国民としての権利を失っている。裁判を経ずとも、この場で即座に執行可能だ」
「ええ? それマジ?」
半笑いのマルスに、騎士達の鋭い視線が突き刺さる。
どうやら冗談ではないらしい。マルスは口をへの字に曲げた。
「そのためにわざわざ騎士団を? 刺客でも送ってくりゃ済む話じゃね」
「暗殺は大儀に欠ける。我々グロワール騎士団が派遣されたのは、王太子殿下の命による異端の粛清という名分があるからだ。つまり……そなたに潔白の証明など、最初から求めていない」
静寂。外から聞こえる騎馬の嘶きが、妙に遠く感じられた。




