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第42話 悪役貴族、は人気配信を視聴する

 エリシアが野営地へ向かっている間、マルスは暇つぶしにアカストを視聴していた。

 きしむ椅子にうつ伏せ気味で座り、プレートを覗き込む。


(たしか、リリィベル……だったっけ)


 検索したのは、聖国のトップ配信者リリィベル・シュネーグランツ。


「なになに? 十三歳の時にダンジョン探索者になる。活動開始一年で、二十四のダンジョンを踏破。その実力と実績を評価され、十六歳の時にアカストデビュー。その後、シュネーグランツ公爵家の養女として迎え入れられ貴族籍に入る。現在、十九歳。フォロワー数五百万を超えるアルカナ・ストリーム普及の立役者、とな」


 プロフィール欄を見て目を丸くするマルス。


「すっごい経歴だな。公爵家に養女とかアリなのか……?」


 彼女の最新アーカイブを確認すると、ちょうど今日の配信が始まるところだった。


「おっ、今から配信やんのか。【ギルド公式】古城トレミス五層完全攻略。なるほど、ダンジョン・ギルドと提携してんのね」


 タイトルを確認しているうちに、待機画面が切り替わる。

 開始早々、画面いっぱいに広がる白と蒼のエフェクト。ジングルが軽やかに鳴って、愛嬌のある美少女が映る。


『ハリハロー! 今日も可憐に開花宣言! あなたの心に咲き誇る、清純無垢の白百合娘! リリィベル・シュネーグランツでーす!』


 朽ちた要塞を背景に映った華奢な少女に、マルスは目を引かれた。

 髪色はアイスブルーから群青へゆるく溶けるグラデーション。前髪はまっすぐに切りそろえ、肩下でふわりと揺れるツインテールを白いリボンで高めに結っている。

 新雪のような肌、空色の大きな瞳。あどけない輪郭には、勝気な笑みがよく似合った。

 白と青を基調にしたオフショルダーの軽鎧。白いふとももを露わにしたミニスカートは、ダンジョン探索にそぐわない装備にも思える。


『本日は予告通り、魔人の古城トレミス第五層の攻略、やっていくよぉー』


 リリィベルがぱちりとウィンク。甘い声が軽やかに響く。


《リリィベルちゃん今日もかわいい!》

《女神が嫉妬する美しさ》

《リリィベルしか勝たん! 現場からは以上!》


『みんなありがとー! ボクが無事に帰ってこれるように、エルフレ灯して応援してね? 安全第一。みんなにただいまって言いたいから』


《傭兵で稼いだ金でバンバン灯すぞォ!》

《領民の血税、ぶち込みます》

《聖徒のお布施でエルフレ灯します。リリィベルちゃんのためなら、女神レガリアもお赦しになられるでしょう》


 マルスはプレートが映し出す画面に釘付けになる。リリィベルがとんでもない美少女であることはもちろん、その容姿の幼さに驚いていたのだ。


「これで公称十九歳? ぜったい逆サバ読んでるだろ……」


 どう見ても小学生しか見えない。外見年齢にして十歳そこそこだろうか。


「合法ロリのボクっ娘かぁ……そりゃ人気でるわな」


 どこか人間離れした容姿のリリィベルを見ながら、マルスは興味深く視聴を続ける。


『じゃあまず、事前ブリーフィングから! 古城トレミス五層は円環回廊の構造になっていて、出現モンスターはスケルトンナイトやダークガーゴイル、シャドーゴブリンなどなど。難度はA+のかなり危険なダンジョンなんだよ』


 画面が切り替わり、ダンジョン内部のマップや、モンスターのリスト。トラップがありそうな位置など、様々な情報がわかりやすく表示される。


『今回の相棒は、ブランシュ・リリィ!』


 再び画面が切り替わり、リリィベルが背負っていた武器を掲げる。

 彼女の身長ほどもある大戦槌。白百合の装飾がきらびやかに施された純白の凶器。


『かわいく見えても、重さはなんとのボクの三倍。具体的な重さは言えませーん』


 持ち上げる動作は軽そうなのに、軸のぶれが一切ない。それだけでインパクトのある映像になっていた。


『それじゃ、ブリーフィングもほどほどに、早速トレミス第五層にレッツゴー!』


 実際に攻略がはじまると、内容は驚くほど整っていた。

 通路を進む際の警戒の仕方や視線の置き方、足運びなど簡潔に解説している。

 トラップは事前に探知してから、丁寧に解除して進んでいた。その解除の方法も詳しく説明しており、リスナー達を唸らせる。


『罠ってホント危ないからね。何が出てくるかわからないし、一回のミスで女神様のところに行っちゃうかもしれないんだから』


《そうなったらマジで生きてけない》

《リリィベルちゃんがいなくなったら後を追うから安心して!》

『ええぇーっ! そんなの安心できないよぉ。でもだいじょーぶ! ボクが罠を見逃すことなんてないのだー』


 解説の間に挟む雑談が、リスナーとのコミュニケーションを生み、命がけの中に和やかな雰囲気を作っていた。

 いざ戦闘になれば、ブランシュ・リリィを豪快に振り回し、モンスターを血祭りにあげる。複数のスケルトンナイトを一薙ぎで消し飛ばし、ガーゴイルは壁面から引きはがして一撃で粉砕。彼女の攻撃は一見力押しだが、その実、確実に当てるタイミングを作り出す準備段階で勝負がついている。


『ぶい! リリィベルちゃんは今日もぜっこーちょー!』


 カメラに向かってピースサインを送ると、エルフレが爆発するように連続で灯った。

 サクサク攻略が進む爽快感と、決して失敗しないという安心感を両立する配信。カメラワークも飽きさせない工夫がされている。専属のカメラマンがついているのだろう。

 数人の探索者がサポート要員として随伴しているが、画面に映るのはほとんどリリィベルであり、彼女の華やかさを十分に伝えることに力を注いでいた。


(これが聖国ナンバーワン配信者。なるほど、納得のおもしろさだな。かわいいだけじゃないってことか)


 マルスは同業者として尊敬しつつ、彼女を超えるためにはどうすればいいか、と思考を巡らせていた。


(安心安全。でもテンポよく攻略してる。解説はちょっと物足りないけど、見せ場をきっちり作ってて飽きない。スコアを稼ぐってのはこういうことか)


 夢中になっていると、錆びた蝶番が鳴き、家の扉が開く。

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