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第20話 悪役貴族、追放2日目 ③

「……いい加減、あなたの冗談は聞き飽きました」

「いやマジだから。なにせ、レッド・ガーゴイルを倒した伝説の一振りだし?」


 マルスは得意げに笑いながら鉄の棒を手に取り、振ってみせる。ぶぅん、と鈍い音が空を切った。


「まさか、気に入ったんですか? それ」

「気に入ってるっていうか、運命感じちゃってさ。ほらこれ、エリシアが最初に見つけて、メカ・スパイダーぶっ倒しただろ?」

「あの時はとっさの判断でした。武器が必要で、目についたものを使っただけです。もともと使い捨てのつもりで……実際、途中で放り捨てましたし」


 エリシアは視線を逸らすように少しだけ顔を背けた。その横顔にはほんの一瞬だけ、過去の失態を思い出すような影が差す。


「でも、そのあと俺が拾った。レッド・ガーゴイルにとどめ刺した由緒ある一品なわけで」

「だからと言って、武器として採用するには、あまりにも……」


 エリシアは言葉を探しながら眉をひそめた。

 マルスは鉄の棒を肩に担ぎ、にやりと笑う。


「いいかいエリシア。これはただの棒じゃない。二人で紡いだ、戦いの証なんだよ」

「たまたま同じ武器に触れただけで、おかしな運命を感じないでください」


 きっぱりと切り捨てながらも、エリシアの視線が一瞬、鉄の棒に向かっていた。

 マルスはそのわずかな目線を見逃さない。


「ほらね? なんだかんだ言って、エリシアもちょっとアリかもって考えてるでしょ」

「私が考えているのは、あなたが廃材一本でダンジョンに潜る気でいるという狂気の沙汰についてです」

「なんでさ、昨日それで勝ったじゃん。実績ある武器ですよ、これ」


 ぽんぽんと手のひらを打ち、満足そうに掲げる。


「エリシアが拾って、俺がボスを倒した。そうだな……二人の名にちなんで、エリマルくんと名付けよう」

「虫唾が走りますね」

「おっと。そいつぁちょっと酷すぎやしませんか?」


 苦笑したマルスは、すぐに表情を引き締めて、握り締めた鉄の棒をじっと見上げた。


「冗談抜きで、これがいいんだ。どんな形であれ、エリシアが最初に選んだってとこがポイント高い」


 その目つきは真剣そのものだった。錆びた鉄の棒に、特別な意味を感じていることが伝わるほどに。

 エリシアの溜息。呆れとも諦めともつかない響き。


「ならもう好きにしてください。ただし――それで命を落としても、責任は取りませんから」


 そう言いながらも、エリシアの声にはわずかに柔らかな揺らぎがあった。

 彼女はマルスの背を見つめる。昨日の配信で魅せた異常な立ち回り、無茶苦茶な戦法、予測不能の言動。そして何の変哲もない鉄の棒に、意味を見出してしまうような感性。


(本当に……なんなの、この人)


 口には出さない。その表情の奥に、言葉にならない何かが微かに宿っていた。

 エリシアは立ち上がり、鞄を持って家を出ていく。


「どこ行くの?」

「食糧を調達しに。これでも山菜採りの心得がありますので」

「すごい」

「どうも」


 そう言って、エリシアは家を出ていった。


「行っちゃった……」


 一人取り残されたマルスは、一抹の寂しさを覚えながら、棒を立てかける。


「帰ってくるよな?」


 呟きは誰に届くでもなく、静かに朽ちた小屋に溶けていった。

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