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第19話 悪役貴族、追放2日目 ②

「それってつまり、応援してますってことで……いいんじゃない?」

「違います」


 ぴしゃり。秒速の否定。

 だが、その口調はどこか反射的で、完璧な拒絶というわけでもなさそうだった。


「ちょっとくらい乗っかってくれてもいいのに~。この家、けっこう冷えるんだからさ。せめて心くらいあったかくしてくれよ」

「室温と感情を混同されるのは、論理的とは言えませんね」

「エリシアってさ、マジで冷めた紅茶が似合うタイプだよね。なんかこう、口当たりは静かだけど、芯が残るというか……」

「意味がわかりませんし、あまり褒められている気もしません」

「もうちょっとこう、ほら……人としての情ってもんをだね」

「情に訴えかけられても困ります。私達は、紙きれ一枚の契約で成り立っているだけの関係なのですから」

「婚姻届?」

「なぐりますよ」


 エリシアはそのまま立ち上がる。流れるような動作で椅子を引き、食器を手早く片付け始めた。その所作は慣れたもので、どこか家事に誇りすら感じさせる。

 マルスはわずかに肩を落としながらも、笑いを捨てなかった。


「うんうん、そうだったね。ドライにいこう、ドライに。エリシアはまるでこの紅茶みたいに、冷めていても香り高い」

 ティーカップをゆらゆらさせて遠い目をするマルスに対し、エリシアは一瞥すらくれなかった。


(うん。これでいい。このくらいが、いい)


 鬱ゲーである『聖愛のレガリア』の行く末を考えると、今以上に親しくなるのは愚策といえる。

 それはマルスの強がりであり、また偽りない本心でもあった。


「……今日も潜るのですか? アルヴェリス」


 エリシアが振り返りもせずに問いかけた。


「とーぜん。初配信があれだけバズったんだ。この勢いのまま、収益化まで一気に持っていく」

「そう上手くいくでしょうか」

「しばらくは昨日の感じでやればいいでしょ」


 ふと、マルスは昨日のことを思い出す。レッド・ガーゴイル戦と、予想外のエールフレアの嵐。


「階層主を倒したし、次は第二層かぁ。何が待ち受けているかドキドキだな」


 マルスは窓の外を見ながら、わざとらしく独り言をつぶやいた。今日はひとりで潜ることになるだろうと、なんとなく覚悟はしていた。


(エリシアは……もう配信には出ないって感じだな。力を合わせる気はないってあれだけはっきり言われたし。昨日はたまたま初回だったから、流れで付き合ってくれただけか)


 そんなことを考えていると、不意に台所から控えめな声がした。


「何時に出発する予定ですか?」


 食器を洗い終えたエリシアは、さして興味もなさそうな声でぽつりと訊ねる。


「え? ああ……まぁ日が落ちてからかな? だいたい昨日と同じくらいでやろうかなって思ってるけど。昨日のバズりを無駄にしないように、時間帯は合わせときたいし」

「そうですか」


 片付けを終え、エリシアは手を拭きながらテーブルにつく。


「昨夜、私がダンジョンで言ったことを憶えていますか?」

「どれのことかな? たくさんお話ししたもんねぇ?」

「ちゃんと武器を持ってくるようにと、言いました」

「ああ、それか」


 エリシアの冷ややかな目が、紅茶を飲み干すマルスを見つめる。


「昼の内に武器を調達してください。丸腰で潜るのは自殺行為です」

「え? 武器ならあるじゃん」


 マルスが指差したのは、壁に無造作に立てかけられていた一本の鉄の棒。錆びつき、何の装飾もないそれは、武器というより廃材に近い。

 エリシアは、しばし無言のままそれを見つめた。

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