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 つやつやと輝くジャムと、こんがり焼けたクッキー。わたしはキッチンの片隅で、達成感に浸っていた。


「……おいしい!」


 一口食べて、前回の『慢心の成れの果て』とは比べ物にならないくらい、完成度の高いクッキーだと分かった。レシピ、大事なんだなあ、分かってたことだけど。

 お店のクッキーに比べたら、そりゃあ質は下がるけれど、それでも他人に食べさせられるくらいの出来にはなった。


 翻訳自体は半分読めて半分分からず……みたいな感じではあったが、クッキーのレシピを見つけたことに興奮して、宿題そっちのけで試行錯誤すること三回。

 無事にお茶請けに出せるクッキーを作ることに成功した。


「あら奥様、今度は成功したの?」


 ベルトーニが後ろからわたしの手元を覗く。お昼ご飯を済ませてから厨房にやってきたので、暇を持て余しているようだ。持て余しているというか、時間的に休憩時間だと思うんだけど……わたしの作るもののほうが気になるようだ。


「そうよ! お茶請けのクッキー!」


 勢いで「一口食べてみて!」と言いそうになったが、あわてて口をつぐむ。このクッキーはディルミックの口に入らないが、折角なら一番にお茶をふるまって、その時に出したい。

 ファーストティーはふるまったものの、あれはほとんどノーカンみたいなものだ。ファーストティーはファーストティーで、お茶会とは違うのだ。ほとんどマルルセーヌ人にしか分からない感覚だと思うが。


「ディルミックにあげたら、そのあとでベルトーニにもあげるわね」


 そして是非クッキーを改良していろいろ作ってほしい。

 あの本には他にもお菓子や料理のレシピがいろいろ載っていたが、わたしに再現可能なのはクッキーくらいだろう。


 今日は厨房にあった適当なジャムを借りたが、次作るなら、ちゃんとレシピに沿って、スウィンベリーのジャムにしよう。明後日、ミルリと街に出かけたら、お茶屋さんだけじゃなくて、前にジャムを買ったパン屋さんにも行こうっと。


 そのためには、さっさと宿題を終わらせねばなるまい。次に義叔母様が来るまでには宿題を完璧に仕上げ、お茶会のお誘いの手紙を一緒に書いて貰うのだ。あの義叔母様のことだから、しっかりやることを済ませておけば、相談に乗ってくれるはずだ。

 手紙の文面を他人と考えるのはちょっと恥ずかしいが、まあ、わたしの今の能力じゃあ一人で考えるのは難しいので仕方あるまい。

 もっと学習してから手紙を書くのでもいいかもしれないが、折角こうしてお茶請けを用意する準備が出来たのだから早くお茶会したい。


 わたしはざらざらと皿にクッキーを移す。あとは片付けるだけ、と思っていると、ベルトーニが「アタシが片付けておくわよ」と言ってくれた。


「後は天板を洗って片付けるだけでしょ? まだ熱いし、冷めたらやっておくわよ」


 クッキーが焼ける間、ただ待つのも暇なので、ほとんど片付けは終わっている。それこそ、オーブンと天板の後片付けだけだ。

 わたしはベルトーニの言葉に甘え、宿題を片付けるべく、部屋へと向かった。

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