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 ――そして決戦の時はきた。

 ドレスが来てからは、さらに時間があっという間に過ぎていった。ディルミックから、一緒にパーティーへ出席してほしい、と言われたときは「まだ二か月ある」と思っていたが、いざ義叔母様に指導してもらう日々を過ごしてみれば、二か月なんてあっという間で、むしろもっと学んでいたかった、というのが本音である。

 義叔母様には、文字を教わる傍らで、他のマナーや常識を教えてくれるよう頼み込んで、許可は貰っているが、今はもう、詰め込む時間はない。


 なにせ、今はもう、王城に向かう馬車の中なのだから。

 カノルーヴァ領から王城のある、グラベイン王国の中心部、王都・グベイルへは、二泊三日の旅路となった。片道でこれなので、結構既に疲れている。とはいえ、これからが本番なのである。


 今日は一日王都で休み、明日が本番のパーティー。そしてまた、帰りも長い道を馬車で帰る。帰路は三泊四日と、長めに時間を取っているけれど。帰る頃には気疲れで二人そろってダウンしているだろうし。

 しかし、たった三時間程度出席するためにこんなにも長い道のりを馬車に揺られないといけないなんて、お貴族様も大変である。


 しかも、わたしがいなければこれ、ディルミック一人で馬車に揺られてたんだろうな……暇すぎない?

 スマホがあるわけでもないし、暇つぶしに本を持ったところで荷物になるだろうから数が限られるだろうし。

 というかそもそも馬車の中で本を読むの、酔わないか? わたしは乗り物酔いするタイプではなかったけれど、馬車の中はそこまで広いわけではないし、換気も気軽に出来ない。ちょっと本を読む気にはならないな。


「ディルミック、あれはなんですか?」


 なので、二人で馬車に揺られてすることと言えば会話くらいしかなく――さっきから、わたしが気になる物を見つけてはディルミックに聞き、彼に答えてもらうという、親子みたいな会話を繰り広げていた。

 いやだって、知らないものがいろいろあったら聞きたくなるんだもん……。


「どれだ? ――ああ、あれは王都の時計塔だな」


「時計塔! こんなところからもう見えるんですか?」


 王都に入るまではあと二時間くらいかかると聞いている。今、わたしたちを運んでくれている馬車の時速がどのくらいかは分からないが、そこまで急いで移動しているわけじゃないとはいえ、二時間くらいの距離は、なかなか長い様に思えた。


「よっぽど大きいんですねえ」


「グベイルの主だった観光施設だからな。美術館が併設されているんだ」


 ちょっと行ってみたいな、と思ったが、まあ、現実的には難しいだろう。わたし一人で王都に遊びに行けるかといったら微妙だし、かといってディルミックは人が多いところは嫌だろうし、そもそも貴族がそう簡単に遊びに行く場所なんだろうか?

 なにより、ディルミックは仮面を付けているから、悪目立ちしそうだ。


 そんなディルミックの仮面だが、今日は他所行ということで、ちょっと凝ったデザインのものである。口元が出ていて、仮面を外さなくても飲食が出来る仕様になっている。外せない会食とかで使う仮面らしい。

 仮面舞踏会とかだったら馴染むのかな、なんて思いながら、わたしは再び窓の外へと視線を向けるのだった。

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