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 結論から言えば、わたしの要求はあっさり通った。


「ノートくらい、好きに買え」


 寝支度をしながら、ディルミックはなんてことないように言った。


「君の買い物くらいで傾くような家じゃないし、その程度の買い物を許さないくらい僕は狭量な男じゃない。ノートでも茶葉でも、欲しければミル――僕に言え。買われて困るようなものはその都度断る」


 まあ確かに、ノートとか、茶葉とか、そこまで買い込むつもりもない。ノートは、今、勉強を始めたばかりだからペースが早いだけで、ある程度基礎を覚えてしまえばそこまで必要にもならないだろう。ディルミックに手紙が書けて、ある程度の本が読めれば充分なのだから。専門的な知識を勉強するために文字を学んでいるわけでもないし。

 茶葉だって、高級志向のものより、庶民的な、それこそちょっと安い茶葉の方が好きだ。


「ありがとうございます」


 わたしは布団の中から、ベッド横で寝巻を整えるディルミックを見上げながらお礼を言う。

 しかし、なんだ。わたしも慣れたもんだなあ、これ。初夜のときなんか、終わる頃の記憶がハッキリしないし、それからも終わってから疲れてすぐ寝ていたのに、今はある程度会話出来るくらいには、元気が残っている。普通に眠くはあるけど。

 妙な慣れを感じると、気恥ずかしさがある。言うと余計に恥ずかしくなるのは明白なので、絶対に、口が裂けてもディルミックには言わないが。


「しかし、君はドレスだの宝石だの、欲しがらないんだな。平民が大金を使える立場になれば、そうなるのだと思っていたよ」


「ドレスは別に、興味ないですねえ。衣類は所詮消耗品ですし、必要以上に買い込む必要はないかなあと。あ、でも宝石は割と好きですよ」


 わたしがそう言うと、ちょっとディルミックは意外そうな顔をした。宝石好き、というのがわたしらしくなく思えたんだろうか。まあ、理由を聞けば納得するだろうけど。


「宝石はある程度一定の価値で売れますからね。扱いを間違えなければ、中古でも新品に近い金額で売れます。買って手元に置きたいっていうよりあったら安心、って感じですかねえ。宝石はお金になります」


「……なるほど、実に君らしい」


 案の定、ディルミックは納得したような顔をした。

 しかし、そんなことを言い出すとは……さては三人の前妻のうち、誰かがそうだったんだな。

 庶民がお金を持つと、生活水準あげたくなるよねえ。でも、一度生活水準上げてしまうと、下げるのは本当にしんどいけど、今頃どうしているのやら。


「君は本当にお金が好きだな」


 ベッドに入ってきたディルミックが、独り言の様に言う。わたしに投げられた話題なのか、微妙な物言いだったが、わたしはそれを拾い上げる。


「ええ、大好きです。世界で一番、好き」


 お金は人を裏切らない。どれだけあっても困らない。

 わたしにとって、お金は世界で一番信頼出来て、最もそばにあってほしいものだ。

 だから、わたしはお金が好き。

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