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 昼食後、ディルミックの部屋に伺うと、部屋に入れてもらう。

 ……あれ、扉、なくない?

 わたしはてっきり、私室から寝室に行けるように取り付けられた扉のようなものがあるのだと思っていた。しかし、寝室へ繋がっているのであろう扉と、水回りへと繋がる入口以外、それらしいものはない。


「こっちだ」


 きょろきょろとしているわたしをよそに、ディルミックは彼の高級そうなデスクのすぐ隣にある天井まである本棚の方へと歩く。

 すると、本棚の影に一枚の扉があった。入口からは、本棚に隠れて気が付かなかった。

 ディルミックが扉の鍵を開ける。


「あれ、鍵かかってるんですか?」


「ああ。禁書が何冊かあるからな。僕の部屋に入ろうだとか、僕に許可を取ろうだとか、そういう人間が君以外いるとは思えないが、念のため」


 しれっと禁書とか言わないでくれ。お貴族様の禁書とかなんかヤバそうじゃないか。

 この世界はわたしにとっては異世界みたいなもので、異世界と言えば魔導書のヤバい奴が禁書、みたいなイメージを持ってしまうが、この世界、魔法ないしな。治癒魔法以外、ロストテクノロジーだし。

 わたしの世界のイメージだと、一昔前は政府に都合の悪い物、現代だとえっちすぎるかグロすぎるか、というイメージがある。犯罪を助長しそうなものとか。わたしの勝手なイメージだけど。


「そ、そんなもの持ってて大丈夫なんですか?」


「禁書はあくまで発禁がかかったものだけだ。所持には問題ない。……まあ、僕みたいのが所持していたら、印象がどうなるか、分かるだろう」


 ただでさえ悪い印象を持たれやすいのに、余計に印象が悪くなるということか。だから見られないように隠している、と。


「開けるぞ」


 ぎぎ、と開けられた先には、少しでも本を読む人間ならわくわくする光景が広がっていた。

 壁は天井まである本棚で埋め尽くされ、背の低い本棚が向かい合わせに二組置かれ、入口に近いところには、テーブルとソファが置かれている。


「す、ごい……!」


 まさに本のための部屋。植物紙が既にあり、比較的安価に本が手に入る世界とはいえ、個人でこんなに本を所持しているとは、流石お貴族様である。しかも、これとは別に、本館にも書庫があるらしいのだから恐れ入る。別館でこれだけ凄いのだから、本館はもっと凄いだろう。


「明日から一週間、ここを使うといい。本も、自由に読んでいい。まあ、文字を勉強を始めたばかりの君に読めるような本はないと思うが」


「文字が読めるようになったら、またここにきて本を読んでいいですか?」


「……僕がいるときなら、好きにしろ」


 新たな目標がまた出来てしまったな。ディルミックへの手紙は勿論、ここの本だって読んでみたい。まあ、全部読めるとは限らないけど。


「素敵な部屋を貸してくださってありがとうございます、ディルミック!」


 ここまでしてくれたんだから、しっかり勉強しないとだな。

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