表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラが教えるチートの正しい使い方  作者: 秋道通
第二章 不退の騎士と高飛車な竜
73/80

燐光が教える一瞬の攻防

 剣が床を深く切り裂き、溢れ出した白光が亀裂を残しながら虚空を両断する。吹き飛ばされた空気が渦を巻いて、破片を飛ばしながら嵐の如く音を立てた。


 頭がその事実を認識するよりも先に身体は動いていた。


 真後ろから殴りつけてくる盾を宙返りで避け、着地を狙って振るわれた切り上げを左の七色で受けながら上方に流した。


 ――ハ。


 そしてその流れのまま足を折り、腰を低く、重心は下に。曲げた膝に力を込めて、騎士長の赤い眼を真正面から睨み返した。


 踏み込みと同時に放つのは、大地の重さを剣先に込めた星辰の一撃。


 ――貴様が神と信徒を守る要だというのなら、受けてみせろ神殿騎士の長。


 右手を貫き手に、保たれた均衡は踏み込みによって崩され、溜めこまれた力が怒涛のうねりと化す。


 『落星』。


 踏み込んだ脚を中心に床が割れ、流星の速度で撃ち込んだ突きに、しかし騎士長は反応した。


 落星を遮って割り込むのは二枚の盾。コードの光が散り、〝結界〟の力が十全に発動されるのが分かる。


 神速の一撃を前に即座に反応したのは流石の一言だが、


「嘗めんなっ‥‥!」


 衝突は鮮烈な光の爆発と主に果たされた。


 音の衝撃が一拍遅れて全身を打つ。その向うで七色は黒の光を火花のように散らしながら、〝結界〟ごと一枚目の盾をぶち抜いた。


 しかし二枚目の盾はより強固な壁となって七色を受け止める。


 流石だな。一枚目の盾で稼いだほんのわずかな時間で、これ程にコードを強化するのだから、やはりこの騎士長は相当な手練れだ。


 それでも尚、この七色は止められない。


 騎士長がバスタードソードで斬りかかろうとする気配を感じるが、全てがあまりにも遅い。


 ぶっ飛べ。


 更に奥へと、巨竜の口腔から喉奥を貫かんばかりの刺突は、堅牢な二枚目の盾すらも打ち砕いて直進する。そして、その切っ先が騎士長の腹を正面から捕らえた。


 鳴り響く鈍い音は、礼拝堂そのものが揺れたと錯覚しそうな程だった。


 落星を正面から受けた騎士長の巨体は宙を浮き、砲弾のような速度で地面と水平に飛んでいく。


 朱のマントを前方にはためかせながら、騎士長は床に足を叩きつけ、床石を盛大に散らしてその勢いを殺そうとした。


 王樹の全ての腕さえも吹き飛ばした落星を、片手で撃ち込んだとはいえ、受けて尚健在なのだから呆れる耐久性だ。


 だけど、その隙を逃すわけないだろ。


 俺は落星を打ち込んだ勢いのまま、地を蹴りつけて遠ざかる騎士長へと迫った。


 神像の前で完全に勢いを止めた騎士長は、近づく俺の動きを牽制して、即座に〝極光〟の斬撃を放ってくる。


 それは瞬く間に視界を覆い尽くす光の格子と化し、これまでの俺であれば足を止めざるを得なかっただろう。


 視線が絶え間なく光の格子の動きを捕らえ、背後に居る三神の存在を意識する。


 何が必要で何が不必要な動きなのか、全てが一瞬の中で判断されていった。


 〝強化〟のコードを強く発動し、脚の速度を一切緩めることなく前に出す。


 そして、跳んだ。身体を捻りながら格子の僅かな隙間に身体をねじ込んで前方へと飛び込んでいく。


 勿論、このまま行けば三神が〝極光〟に刻まれるだろう。だから、すれ違い様に両腕の七色を捻転の力で解き放ち、斬った。


 ゾンッ!! と黒の斬撃は何重にも放たれた光の刃を内側から食い破り、儚い粒子へと四散させる。


 鱗粉のように礼拝堂を舞う光の中で幾閃もの黒が獰猛な弧を描き、そのまま旋回する燕の如く騎士長へと向けて飛翔した。


 流れ、渦巻き吹き付けるは、触れるもの全てを斬る死の風、『木枯らし』。


 格子を超えた俺を待っていたのは、更に放たれる白光の斬撃だ。俺はそれらを斬り、躱しながら前に進み、その動きの流れに乗って木枯らしを騎士長へと向けて放つ。


 白と黒とが入り混じり、二枚になった盾が木枯らしを受け止め、七色が白光を切り裂いた。


 そして、神像の見守る下で、俺の身体は騎士長の間合いへと踏み込んだ。


 即座に振るわれるバスタードソードを七色で受け流しながら、更に前へ出る。


 堅牢な二枚の盾を掻い潜り、床を踏み砕いて自身の間合いへとついに迫った。


 ここまで来れば、その長大なバスタードソードは遅い。


 そう判断した瞬間、騎士長にも動きがあった。バスタードソードを両手に短く持ち、半身になって剣先をこちらに向ける。身体を開いた状態から連続で〝極光〟放つのではなく、一撃一撃に圧を乗せた剣。


 その鈍重な身体で俺の技に追いついて来るつもりか。


 こちらはそれに対し、正面ではなく右に逸れ、横から突っ込む形で七色を振るった。


 剣がこれを受け止めればもう片手の七色を振るが、それは盾に阻まれ、お返しとばかりに受けていたはずのバスタードソードが〝極光〟の輝きを放つ。


 至近距離でも躊躇せず撃ってくるのかよ。自爆なんてありえないと、大した自信だな。


 俺はそのカウンターを受けず、騎士長の横を取るため今度は逆に動いた。この至近距離で周囲を回れば、三神に〝極光〟はそうそう飛ばないだろうし、たとえ放たれても十分避けられる距離がある。


 なら、こちらはこの身軽さを使わせてもらうしかない。


 そう考えると同時、盾がこちらの動きを読んでいたように左から殴り掛かって来た。


 俺はそれをあえて避けず、七色で受けながら回転。


 そのままの勢いで回し蹴り。〝強化〟のコードを発動した脚が鎌となって騎士長のわき腹に吸い込まれる。


 ドンッ! と鈍い音と共に、確かにその銀の巨体が揺らいだ。


 それでも体勢を崩し切ることなく振るわれたバスタードソードを、今度こそ避ける。


 そして防御に割って入った盾を右の七色で切り払い、左手の刺突を腹に撃ちこんだ。


 そう、落星の一撃を受け、確かに罅の入った鎧へと。


 指先がそこに届いた瞬間、俺は躊躇いなくその罅から鎧を破砕せしめようと、神速の斬り開き、『火花』を放とうとするが、その前に白銀の籠手がこちらの腕を掴み、止めた。


 直後、俺の側頭部目がけて横合いから何かが迫った。騎士長が順手に握り込んだままの剣の柄尻で、裏拳を振るう要領で殴りつけてきたのだ。


 寸前で右手を割り込ませ騎士長の腕を止め、返しにその広い胸板を蹴り飛ばして強引に後退させる。


 音が幾重にも炸裂し、散ったコードの光が思い出したように消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ