表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラが教えるチートの正しい使い方  作者: 秋道通
第二章 不退の騎士と高飛車な竜
68/80

会話が教えるエリシアの行方

 にしても、意識が覚醒するにつれて分かる、見た所ここはまだ神殿の中だ。


 たぶん食堂かな、並べた椅子に寝かされて三神に膝枕をされているのだろう。


 普通なら、休むにしても神殿から脱出するはずだ。


 それをしていないということは、嫌な予感が頭を過ぎる。


「なあ三神」

「なに?」

「なんでまだ神殿の中にいるんだ?」

「‥‥」


 三神が押し黙った。


 これはあれだ。あまりよろしくない状況が現実味を帯びてくるのが分かる。すぐそこまで迫った不安が肩に手を置いて、耳元にざわめきが届けられた。


 膝枕サイコーとか言って喜んでる場合じゃなかった。


 わざわざこんなところで休んでいるんだから、理由は一つだよな。


「あの後エリシアが神殿の扉を開けようとしたけど開かなくて、強引に突破しようとしても結界みたいなのに防がれた」

「そうか‥‥」

「あまり無理にこじ開けて神殿が消えてもあの騎士が消えるとは限らないし、廊下で後ろから強襲されたら本当に対処出来なくなるから」

「出るのは断念したってことか」

「うん」


 沈痛な面持ちで三神は頷いた。


 まあ簡単に出してくれるとは思わなかったけど、こうなると神殿を破壊して脱出というわけにも行かなくなった。


 だとしたら、この神殿は。


「たぶんだけど」

「なに?」

「この神殿そのものが、あの神殿騎士たちと同じアウターなんじゃないかと思う。うまく言えないけど、そうじゃなきゃこの神殿そのものが維持されているのに説明がつかない」


 俺の断片的な過去の知識と照らし合わせてみても、それが一番納得のいく仮説だろう。アウターとして生きているのなら、不自然に綺麗な部屋も、灯された不夜燈も説明がいく。


 散っていった何十人もの重い意思が積み重なり、この神殿に力を与えている。そんな気がしてならなかった。


「この神殿が、アウター?」

「そういう事例は他にないのか?」

「私は聞いたことないけど‥‥、アウター自体謎が多いから、そういったことがないとは言い切れない」


 三神はそう言うと、思案気な顔つきになった。


 とはいえ、恐らくアウターとして中核となっているのはあの騎士長で間違いないだろう。閉じ込めるための神殿と、倒すための騎士。二つは決して別の個体ではなく、一個のアウターであると考えた方が無難だ。


 にしても、


「そのエリシアはどこにいったんだ? さっきから姿が見えないんだが」


 目が覚めてから、あの特徴的な赤髪がまったく視界に入って来ない。お手洗いかしらね。


 だとしたらデリカシーのない質問をしてしまった。


 一回部室を出る咲良に、「どこ行くんだ?」と聞いたところ、「七瀬くんは少しライトノベルでデリカシーについて勉強した方がいいですね」と言われたけど、反面教師として優秀な主人公たちってどうなんだろ‥‥。


 そんなしょうもない思い出を掘り返していたら、三神がいつの間にかとても複雑な表情になっていた。


「どうしたんだ?」

「‥‥エリシアは、廊下で敵が来ないか見張ってる」

「廊下でって、なんでわざわざ」


 要人警護じゃないんだから、と思ったものの、そうか俺が意識を失っていたせいか。確かに同じ部屋で戦ったら邪魔になる。


「それもあるけど‥‥」


 三神は言い辛そうに続けた。


「多分さっきの神殿騎士との戦いを気に病んでるんだと思う」

「ああ、あの騎士長との戦いか」

「騎士長?」

「いや、あの最後の騎士は多分隊長かなんかだろ? だから騎士長」

「そういうこと」


 納得したと頷く三神。


 それにしても気に病んでる、か。


 確かにあそこで俺は退くべきだと考えたし、その判断は今でも正しかったと思っている。


 けれどあの場において行動選択の権利はエリシアにあり、彼女はそこで戦えると判断したから前に出た。


 結果として斬られそうになったものの、それは所詮結果論だ。もし結果だけで話すのであれば、俺たちはこうして五体満足で撤退に成功しているし、向うの力も見ることが出来た。


 だから後悔するなとは言わないが、そこまで落ち込むようなことじゃないんじゃないか?


「‥‥結構現実主義的な考え方してるね」

「え、そう? 戦ってたら一々そんなことで凹んでらんないだろ。大体無茶な作戦に部下引き連れて死にに行く馬鹿に比べたらあんくらい」


 と、そこまでいった所で三神の訝し気な表情に我に返った。今何話した、俺?


 ヤバい、まだ寝ぼけてんのか。


「っていう歴史をこないだ学校で習ってな! やっぱ無能な隊長に率いられるくらいなら、ああやって矢面に立ってくれるエリシアは何倍もいいだろ!」

「‥‥世界史も日本史も、ようやく文明が出来はじめたところだけど」

「あーっ、間違った、学校じゃなくてこないだテレビでやってたんだよテレビで!」

「‥‥」


 凄い、視線が痛いです。


 なまじ膝枕されているせいでこの視線から逃れられないとは‥‥。とんだ膝枕の落とし穴である。今度からラノベの主人公は「膝枕はよし、尚嘘を吐いた時は注意」ってちゃんと書いておけよ。


「まあ、別にいいけど」

「お、おお」


 溜息をついた三神に、俺はそう答えることしか出来なかった。


 たぶん三神は俺が嘘を吐いていることなんて気付いていて、それでも前世の記憶があるなんて荒唐無稽な発想には至らず、諦めているのだ。


 ――もう、話しちゃってもいいんじゃないか?


 一瞬、そんな甘美な誘惑が脳裏を過ぎった。


 たぶん三神も綾辻も、あり得ないなんて頭ごなしに否定はしない気がする。それ位には信用されていて、同時に疑念も持たれているだろうし。


 二人に言ったって、すぐ上に知らせたりはしないはずだ。それなら、秘密を打ち上けて協力を仰いでもらった方が‥‥。


 いや、やっぱり駄目だ。


 この間綾辻と一緒に行った研究施設。恐らく全国でコードに関しての研究が進められているんだろう。そんな中で俺が自分の秘密を二人に打ち明けるのは、あいつらに重荷を背負わせることになる。


 大体、まだ自分でも分からないことが多いんだ、わざわざ話すようなことじゃない。


「わり、ありがとな三神」

「? まだ立ち上がらない方が」

「そうも言ってられないだろ。今は落ち着いているけど、あの騎士長がいつ動いて来るか分かんねーんだから」

「それは‥‥」

「それに、凹んでる奴に渇入れに行かねーとな」


 そう言うと、三神は申し訳なさそうに目を伏せた。


「ごめん、本当は私が行くべきなのに」


 自分の能力にもまだ自信を持てない三神にとって、誰かを励ましに行くというのは、難しい。それは俺もそうなんだけど。


 俺には幸いなことに、最も信頼する人が残してくれた力がある。俺が俺の実力を信じれなくても、その力だけは信頼出来た。


 まあ、後は単純に性格の問題だな。ここに綾辻がいれば話は早かったんだが‥‥いや、凹んでる時にあいつの激励なんて聞いたら心が折れるかMに目覚めるかな気がする。いなくてよかった。


「適材適所ってやつだろ」


 俺がこの役目に適しているとは到底思えないけども。


 それでも目の敵にしていた綾辻のパートナーが行くよりはいいだろ。


 俺は最後に全力で三神の太腿の感触を後頭部に感じてから、立ち上がった。


 ‥‥もう少しくらい、寝ててもよかったかもしれない。


 そう思わせるくらい、立ってしまった後の後頭部には寂寥感だけが残されていた。


 さて、冗談はこれくらいにしておいた方がよさそうだ。


「それじゃ、行ってくる」

「私ももう少しこの辺りを調べておく」

「あいよ」


 机の上に丁寧に畳まれていたジャケットを取って袖を通すと、背中の斬られたらしい部分も修復されていた。


 そういえば、前にもこんなことあったな。あん時は綾辻だったっけ。


 そんなことを思い出しながら、俺は食堂の扉を開けて外に出た。身体の状態は思っていたよりも全然いい。三神の治療と、後はヒビノーズブートキャンプが活きたな。不思議と後者に関してはあまり感謝の気持ちが湧いてこないのはなんでだろー。


投稿遅くなってしまい申し訳ございません。

はじめての感想をいただきました! ありがとうございます!

よければブックマーク登録、評価、感想などいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ