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サクラが教えるチートの正しい使い方  作者: 秋道通
第二章 不退の騎士と高飛車な竜
60/80

開戦が教えるエリシアの力

 石像の両側にある巨大なステンドグラスがコードの光を発し、音もなくアウターたちが礼拝堂へと足を地に着ける。


 それは、この神殿において少しの違和感も感じさせない白銀の全身鎧に身を包んだ騎士だった。彼らは一言も発することなく様々な武装を手に俺たちの前へと並び立つ。


 俺はこのアウターを知っている。全ての侵略者を一人残らずこの地において神敵と撃ち滅ぼした騎士の成れの果て。朽ちた肉体は既に塵となり、信仰と忠誠だけが伽藍洞の鎧に力を持たせ剣を取る。


 隣からエリシアの震えた声が聞こえてきた。


「リビングメイル、或いは神殿騎士ってところかしら」


 現代で呼称するなればその辺りが妥当だろうな。俺の知る限りあちらの世界では、戦士の武装が魔物化した場合は総じて『残り火』と称されていた。


 こいつらの厄介なところは木偶と違って生前の技術を部分的にも残している点、そして、


「見ただけじゃどんなコードが使えるか分からねーな。どうするエリシア」


 そう、この手のアウターは素体となった人間によって扱えるコードが違う。神殿を守護する騎士となれば全ての人間がコードを使えて当たり前だろうし、一体一体が相当な手練れとみて間違いない。


 三神は純粋な戦闘力はほぼ無いに等しいし、俺も今は七色が発現出来ないから王樹と戦った時程のポテンシャルはない。せめて撤退する時間は稼ぎたいけど、どうするか。


 〝強化〟のコードを発動しながら周囲に現れた神殿騎士を見つめる。木偶と違い神殿騎士は前衛には盾持ちを配置し、紛れもなく隊列を組んで静かに距離を詰めて来る。


 殺意の本能に身を任せて突っ込んでくるアウターも脅威だが、こういった訓練された戦士が強いのは言うまでもない。


 王樹の時も思ったけど、絶対三人で戦うような相手じゃないぞ、これ。ファランクスだよほとんど。


 後ろで三神も身体を固くする気配が伝わってくる。この場合治癒が出来る三神の安全は戦略的にも最優先だ。


 つまりこの場合は俺とエリシアで三神を守りながら、なんとか礼拝堂から脱出あたりが妥当な選択か。


 というか、全然返事が返ってこない。司令官様はなにしてんだ。早いとこ指示を貰わないと、間合いを詰められれば押しつぶされるぞ。


「おいエリ‥‥」


 横を向いた先に、修羅がいた。


 赤髪の少女は燃え立つ闘志を金色の瞳に宿し、犬歯を剥き出しに笑っている。コードの光が揺らぎ、獰猛な視線が神殿騎士を射抜いていた。


 こいつ‥‥。


 声が震えていたのは、恐怖によるものなんかじゃない。強敵を前に抑えきれない武者震いを起こしていたのだ。


 嘘だろ、この状況でどんなメンタルしてんだよ。


 エリシアはこちらを一瞥することもなく言う。


「私が一掃するから。凛太郎は晶葉の護衛を頼むわ」

「は? 一掃ってこの神殿騎士たちをか?」


 正気かよ、あいつら一体一体が生前の精彩を欠くとは言え強靭な戦士だぞ。死の恐れも傷による怯みも一切ない、ある種最も厄介な軍とも言える。


 だがエリシアは俺の疑問を一笑に付した。


「何を狼狽えてるのよ。丁度いい機会だし、私があなたの指導官として選ばれた理由を、その目にしっかり焼き付けておきなさい」


 その言葉には、揺るぎない自身への信頼があった。


 止める間もありはしない。エリシアは悠然とした足取りで俺たちの前に出ると、その身に秘められたコードを解き放つ。


 燐光が二つ結びの赤髪に纏わりつき、まさしく炎の如く彼女の周りを照らし出した。静謐と荘厳の中にあって、エリシアは一人己を見よと鮮烈な存在感を示した。


 直後に起こるのは、コードの発現だ。


 空気を切り裂き光が渦巻く。火花が爆散する勢いでコードの残滓が弾け、彼女のコード・アームをその身に顕現させる。


「‥‥なんだ、あれ」


 視界に飛び込んで来た度し難い光景に俺が言葉を失っていると、後ろに立つ三神がすぐ近くまで来ると、囁いた。


「あれがエリシアのコード・アーム」


 それは翼だった。生物らしい質感は一切なく、どことなく機械的なフォルムをした骨組みの白翼。それが断続的に炎を吹き出し、彼女の波打つ髪を浮かす。


「〝火焔〟と〝竜〟のエクストラコードを組み合わせて作られた、炎を竜の化身と化す翼」


 エリシアが静かに手を上げると、骨組みの白翼が滑らかに開き、神殿騎士を睥睨する。




「その名を『フレアフィール』」




 瞬間、翼が羽ばたき背後にいる俺たちさえ吹き飛ばさん程の暴風が全身を打った。


 轟!! と視界の全てが赤に染まり、フレアフィールから放たれた爆炎が全てを塗り潰す。赤と橙が眩しい光を放って混ざり合い、何か巨大な怪物のように蠢いた。


 髪を焦がす程の熱量を孕んだ熱波に俺は反射的に三神を背に庇い、三神は冷静に結界を俺たちの前方に張る。


 なんて威力のものを屋内でぶっ放してんだ、あいつは! 


 結界が軋み遅れてやってきた爆音が耳から頭を大きく揺らす。大口叩くだけあるなんてレベルじゃない、今の一撃は紛れもなく大多数の人間を問答無用で塵に化す戦術級の攻撃だ。


 これで綾辻に全く勝ててないって、あいつどんだけ怪物なんだよ。こんなん人間が持てる火力じゃないぞ。


 しかし今はそれよりも先に確認することがある。


「どうなった!」


 炎の音にかき消されないために声を張り、前に佇むエリシアに聞く。


 今の爆撃は並のアウターなら抵抗の間もなく消し飛んでいただろう。だが、俺たちが相対していたのは並のものではない。


 前を向いたまま、よく通る声でエリシアが答える。


「まだよ」


 そしてその言葉通り、炎の隙間から白銀が覗き、次の瞬間には全てを振り払う剣の一撃によって炎が散らされた。


 そこには損傷しているものの、背後の全てを守り切った神殿騎士の隊列があった。


「‥‥相当な耐久力だな。前衛は守護系統のコード持ちか」

「私と同じ結界を張れるってこと?」

「見えなかったから詳しいところまでは分からねーけど、たぶん似たようなもんだろ」


 三神の問いに答えながら、俺もコードを発動しながら全身に力を込める。


 神殿騎士とて今の一撃は相当応えたようで、盾を持つ前衛は相当数が溶解している。もはやまともに動くことは叶わないはずだ。


 それが分かっているのか、盾騎士の合間から剣や槍を持った騎士が前に踏み出し、エリシアとの距離を詰める。もし同じ攻撃を放てば、奴らはそれと同時に彼女の身体を切り捨てる気だろう。

 

 冷たい殺意を湛えた刃がエリシアに向けられるが、彼女の後姿に動じた様子はない。


 彼女もまた守り人となるべくして育てられた戦士の一人だ。ついこないだまで一般人であった俺の物差しで測る方がおかしいのかもしれない。ただ見ている俺が不安になる程、エリシアに恐れは見えなかった。


「凛太郎」

「なんだよ」

「二体、後ろで見れるわよね?」


 前に出た神殿騎士の数は全部で六。剣士が四に槍使いが二の構成で、背後にいる比較的薄い鎧を身に纏った連中は弓士かあるいは後援職か。


 どちらにせよ分かることは二つ。彼女はことここに至って退く気など微塵もなく、そして、二人ならまだ軽い。


「問題ない」


 答えると、エリシアが笑った気がした。


「じゃあ決定。晶葉は出来るうる限り凛太郎のサポートをお願い」


 そう言って彼女は前に出た。


 その後ろ姿には自らの勝利を信じて疑わない自信が見て取れる。


「後ろは頼んだわよ」

「そっちこそ死にそうになったら戻って来いよ」

「私に逃走の二文字があると思ってるの?」


 神殿騎士の剣が炎に焼かれた空気を切り裂き、エリシアが笑う。


 拳を構えた俺の前に躍り出たのは二人の神殿騎士だった。


 俺は拳を握り、腰を落として迎え撃つ。


メリークリスマス投稿です!


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