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サクラが教えるチートの正しい使い方  作者: 秋道通
第二章 不退の騎士と高飛車な竜
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不夜燈が教える変態の考え

「‥‥どういうこと、エリシア」


 驚きから立ち直った三神が口を開く。それでもまだ声が震えているのは仕方ないことだ。


 俺自身、今何かを言えば平静としていられる自信はない。


「どういうことかと言われても、見たままという他ないわよ。どうやらこの空間は私たちの知る従来の異界化と違って、昼夜を問わず発生し続け、そしてアウターが出現するのではなく世界そのものが書き換えられている‥‥って感じね。私もよくわかんないけど」

「書き換えって‥‥そんなこと聞いたこともない」


 そう、彼女たちにとっては時間帯関係なく異界化が起きているという他に、世界そのもの様相が変わっているという点こそが驚愕なのだ。


 裏山とてアウターは出現してもその様相は現実世界と変わらず、戦いによって刻まれた戦闘痕は残り続ける。しかし、この場は明らかに世界そのものが現実のものと置き換わっていた。


「アウターが出現するんだから、植物や建物が出現するのもおかしな話じゃないんでしょうけど、何より驚くべきはこの建物よね」


 エリシアはそう言って歩いて行き、半ばから折れた柱に手を沿える。


「これは紛れもなく人工物。これまでアウターが何者かという点は謎に包まれたままだったけど、この異界化した場を調査することで何らかの情報が得られるんじゃない?」

「建物を建てられる程の知能を持つアウターが存在すると?」

「その結論を出すにはまだ情報が足りないわね」


 三神の推論にエリシアは肩を竦めた。


 違う。これはエリシアの言う通り人間の手によって造られたものだ。ただ汚染されたこの場を見るに、神々の戦争によって人の住めぬ地になったことは間違いないだろう。


 だが、それを俺は彼女たちに言うことは出来ない。それは俺のルーツそのものに関わる話だからだ。


「七瀬、なにか気になることでもあった?」


 驚きに固まっていたせいか、三神が俺の顔を覗き込んでくる。


「い、いや。俺も驚いてな」


 本当に、心臓が止まるかと思ったよ。


 こんな場に偶然俺が居合わせるというのだから、本当に事実は小説より奇なりだな。俺の書いた小説よりよっぽど劇的なのだから笑えない。


 俺と三神はエリシアに続いて、恐らく何れかの神を祀ったであろう神殿へと近づく。一歩踏み出すごとに身体に満ちる緊張感が増していった。


 さっきから感じるこの気配はなんだ? アウターが近くに出現したときの寒気とはどこか違う、視界の効かない海の中で巨大な怪物を目前にしたかのような得体の知れない怖気。


 それは木偶を目にした時の純粋な殺意に対する危機感とは違う。正体の分からない恐怖だ。


「これ、中入って大丈夫なのか」


 凄まじく気が進まない。ここまで気が進まないのは姉貴に満面の笑みで部屋に呼ばれた時以来だ。


 しかしエリシアは口元に笑みを浮かべ、俺の感じる不安など屁でもないとばかりに言った。


「当然よ。私たちはそのために来たんだから」


 そして、俺に挑発的な視線を投げかけて来る。


「まさか、日々乃と共に王樹に立ち向かった人間が怖いとは言わないわよね? なんといっても、あの綾辻日々乃が隣に立つことを許したんだから」


 ‥‥なんて女だ。こいつ俺の力が疑わしい云々以前に綾辻に対して対抗意識燃やし過ぎじゃない? どんだけ負けず嫌いなんだよ。というかこいつらの確執に巻き込まれてない、俺?


 興味深そうに神殿の彫刻などを調べていた三神がいつの間にか側に帰って来ていた。


「でも、用心するに越したことはない。情報が少なすぎてどんなアウターが居るかも分からないし」

「手応えのある敵がいるといいけど」

「エリシア、私たちの任務はあくまで調査でしょう。戦わないに越したことはない」

「分かってるわよ。私がこの任務の司令官なんだから。不用意に危険なことをするつもりはないから」

「どうだか」


 エリシアの言葉に肩を竦める三神。本当戦いにならないといいなあ。


「さあ、行くわよ」


 威勢のいい掛け声と共に意気揚々と神殿へと進んでいき、俺と三神はその後について歩いて行く。閉ざされた神殿の扉に手をかけたエリシアが静かに力を込めていくと重いはずの扉が徐々に開いていく。


 そして完全に開かれた扉に入った俺たちの目に飛び込んできたのは新たなる驚愕だった。


「‥‥随分と、綺麗なもんね」

「ああ、どういう状況なんだこれは一体」


 目に映るのは荒廃した外観とは裏腹に綺麗に手入れがされた内装。石造りの広い廊下には赤い絨毯が敷かれ、見た所埃が溜まっている様子もなければ密閉され続けた空気の淀みも感じられない。


 しかしなにより驚くべきは、


「明かりが‥‥ついてる?」


 そう、三神の言う通り、神殿の内部には明かりがひとりでに灯されていたのだ。


 廊下の側面に飾られた松明には柔らかな炎が揺れ、奥へと続く道を照らし出していた。


「これ、ただの炎じゃないみたい」


 松明に近づいたエリシアが腕を伸ばし、炎に手を近づける。判断の仕方が男らしすぎやしないか、それ。


 しかし驚くべきポイントはそこではないらしく、三神も驚愕に目を見開きながらエリシア同様松明へと手を伸ばしていた。なんで二人して手を伸ばす。


「‥‥まさかコードの火が灯っているの?」


 そう、三神の言う通りである。この松明に限らず俺の知っている世界ではコードを刻んだ道具を使うのが一般的で、この松明も『不夜燈』と呼ばれ重宝されていた。普通はランタンのように周囲を囲うもんだが、ここまで炎剥き出しなのは宗教的な理由なのか、どちらにせよ木造建築ならあり得ない話だ。


 しかしそれを知っていても話すことの出来ない俺はピョンピョン跳ねながら不夜燈へと手を伸ばす二人を見ていた。ちょっと可愛いし、後ろからだと好きなだけ脚やその少し上を見ていられるのでとても素晴らしい。


 こうして見ると、明らかに痩せ型なはずの三神も中々どうして‥‥。


「七瀬」


 やっぱり女の子ってそもそも男と肉のつき方がまるで違うんだよな。小説で女の子の描写をするために咲良に頼んだら、なんかしてくれたりしないかな。いや待て、これは完全にエロ漫画の思考なんですけど!


「七瀬」

「ひゃ、ひゃいなんでございましょうか!」


 考えてないよ。俺は下半身を眺めていただけで邪な思いなんて何一つ持ってないよ。本当だよ、七瀬嘘つかない。


「‥‥なんでそんなに慌ててるの?」

「い、いや、本当になんでもない」


 白々しい俺に対し、やけに察しの良い三神は訝し気な目でこちらを見ていたが、どうやら不夜燈への興味が勝ったらしく、不夜燈を指さして言った。


「あれ、もう少し近くで見たいんだけど」

「取り外せってことか?」

「流石にそんなリスクの高いことはしたくないから、ちょっと持ち上げて」


 は? 今なんて言った?


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