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サクラが教えるチートの正しい使い方  作者: 秋道通
第二章 不退の騎士と高飛車な竜
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エリシアが教える俺の印象

 三神に聞くところによると、遊里・フォード・エリシア、遊里さんは綾辻や三神と同い年の守り人であるらしかった。


 俺は割り当てられたホテルの一室で荷物を取り出しながら先ほどあったことを整理する。ちなみに背後では三神がポフポフとベッドの柔らかさを確認していた。勿論同室というわけではない。


 あの後、結局遊里さんが何故オブジェの上に立って俺たちを待っていたかは一切分からぬまま、彼女は軽やかな動きで下に降り立った。そのまま遊里さんは「タクシーを停めてあるから早く行くわよ」と俺たちを予約してあったらしいホテルへと連れてきたのだった。


 ちなみにだが、オブジェの題名には『踏んでください』と書かれていた。


 色々なことが衝撃的過ぎて、唖然としたまま部屋に案内されたところ、三神が俺の部屋に来て遊里さんについて教えてくれたのである。


 というか、このホテルの部屋も一人ずつ個室で、遊里さんは「とりあえず一週間、取っておいたから」と言っていたが、税金を納める一庶民としては複雑な思いだった。これいくらになるんだろう。


 まあ、気にしても仕方ないか。経費だよね経費。


「ってことはお前と綾辻は遊里さんと幼馴染みたいな関係になるのか」


 俺は着替えながら後ろの三神に言う。


 幼馴染、この言葉に宿された何とも言えぬ味わい深さといったらない。どんな小説だろうが漫画だろうが現実だろうが、幼馴染という単語一つだけで高揚感が湧くものだ。昨今においては負けフラグ呼ばわりされるし、そもそもこの三人は全員同性だけども。


 三神は人のベッドに腰かけ、いつの間にやらそのまま後ろに倒れ込んでいた。‥‥五分後には集合なんだから寝るなよ?


 彼女はそのままの体勢で言う。


「幼馴染といえばそうかもしれないけど、私は途中からだし、そもそもエリシアとは私たちあまり話したことなかったから、仲がいいとも言えない」

「そんなもんなのか?」

「それなりに守り人候補生の人数も多かったからっていうのもあるけど、エリシアはあの性格で、日々乃は天才だったから」

「‥‥ああ、そういうことね」


 見るからに、というか初っ端の自己紹介からしてプライドが天元突破していそうな遊里さんと、天に見初められた才に加え、ストイックに自身を高めることを怠らない綾辻。


 単純な競争相手と言ってしまえばそれだけのことなんだろうが、その苛烈さが目に見えるようだった。


「基本的にはエリシアが突っかかって日々乃に返り討ちに会うだけで険悪な仲って程でもなかったけど、気軽に話せるような仲でもなかった」

「そういう点じゃ、今回綾辻が来てないのが幸いだったな」


 恐らく彼女が来ていれば任務どころではなくなっていただろう。話を聞くに、ちょっと遊里さんが可哀想に思えなくもない。なんならヒビノーズブートキャンプでイビられる俺としては親近感さえ湧く思いだ。


 しかしながら、


「遊里さん、お前に対して嫌な顔はしなかったよな」


 俺は先ほどのインパクトに溢れた邂逅を思い出す。見た目と言動こそ印象的な彼女であったが、危惧していたように三神を邪険にするような人間ではなかった。


 三神は暫く黙ってから、口を開いた。


「‥‥エリシアは実力主義者だけど、下を見下すようなことはしないから。どこまで行っても彼女にとって重要なのは自分と、自分より上の人だけなの」


 だから日々乃には凄い対抗意識剥き出しだけどね、と三神は言う。


「なんというか、ある意味気持ちのいい性格なのかね」

「分かり易いとは思う」

「それは重要な要素だぞ」


 特に女子が何考えているかなんてさっぱり分からんのだし、分かり易いに越したことはない。そういう意味では咲良さんも比較的分かり易い性格をしているので、こんな女性経験零な俺でもなんとか会話が成立する。


 女子って会話のどこに地雷が埋まってるのか分からんのよなあ、昔落とし物拾ってあげたら逃げられた挙句に教師に呼び出されて事情聴取されたし。おっとそれは顔が原因でしたね。


「‥‥なんで突然悲しそうな顔してるの?」

「いやなんでもない。少し、放っておいてくれ」


 そんな会話をしつつ、俺と三神はホテルのエントランスへと向かう。三神の服装は既に守り人が着用するジャケットに変わっており、結構新鮮だった。


 かくいう俺自身神坂さんから送られてきたジャケット姿に着替えており、なんだか気が引き締まる思いがする。これまではあくまで部外者でしかなかったのが多少なりとはいえ綾辻達と同じ立場に立っていることを改めて実感した。


「そういえば、なんで三神は普段はそれ着てないんだ?」

「最近まで呪いの影響で身体が重くて仕方なかったから、少しでも軽くて動きやすい服を着てただけ」


 そう言いながら、彼女は自身の着ている服を摘まむ。なんでもこれらの服は防刃、耐衝撃に優れながら、機能性を持ち合わせた最先端戦闘服らしい。ただ守り人が着ること前提に機能が盛り込まれているため、やはり他の服に比べれば重い。


「流石に今日は日々乃との仕事じゃないから着ておかないと」


 と、そこまで三神が口にしたところだった。


「遅いわよ、二人共」


 飛んでくる叱責の声。


 目を向ければ、そこには先ほど同様エントランスの中央で腕を組みながら仁王立ちした遊里さんがこちらを見ていた。いっそここがホテルのエントランスであることを忘れてしまいそうな見事な立ち姿だ。


 なんだろう、恥ずかしくないのかとかはこの際置いておくにしても、そのポーズが好きなんだろうか。


「エリシア、まだ集合時間には少しある」

「何を言ってるのよ、五分前行動が仕事における鉄則じゃない三神晶葉」

「‥‥」


 うわぁ、凄い三神がげんなりした顔をしていらっしゃる。


 どうやら仕事に熱心な遊里さんと、なるべく戦闘時以外は力を抜いていたい三神の相性はさほど良くはないらしい。この人、抜かりない下準備といい、派手な言動以外は至って真面目である。ギャップ萌えを狙っているのかしら。


「というかエリシアはいつの間に司令官の資格取ってたの? てっきり同期だと日々乃しかいないと思っていたけど」


 三神の言葉に、遊里さんの顔が微かにしかめられた。本当に綾辻に対して対抗意識強いんだな。というか、あいつ一人だけチート過ぎやしませんかね。


「確かに私はまだ取得してないわね。今回の任務を達成することが条件だから」


 そこで三神は僅かに驚いた表情をする。


「これがあなたのテストを兼ねていると?」

「そういうことになるわ。あくまでも調査が主体の任務だし、上としても失敗させる気はさほどないようだけど」


 そこで、遊里さんは俺に視線を移す。ネコ科を思わせるアーモンド形の目は金に輝き、煌々とした意志の光を宿して俺を睨み付けた。


「私としてもこの男が王樹を倒したという話は到底信じてないから。上は真偽はどうあれあなたのことを採用したがっているようだけど、この遊里・フォード・エリシアの目は誤魔化せないと思いなさい」


 その真っ向からぶつけられた言葉に、俺は多少なりともたじろぐ。懐疑的な目を向けて来る人は多くあれど、ここまで正面から言われたのはこれが初めてだった。


 しかし、この言葉に黙っていられないのが俺の隣にいた。


「エリシア、あなたがどう思おうと、王樹は死んで私の呪いは解けた。その私の目の前で七瀬を侮辱することは許さない」

「私も王樹が倒れたことを疑っているわけではないわよ。ただ、王樹の力を忘れたわけじゃないでしょう、あれに素人が挑んでどうなるかなんて明白じゃない」

「じゃあ日々乃が嘘を吐いていると?」

「戦闘時の記憶が曖昧だなんて多々あること。日々乃が王樹を倒した歓喜のあまり、戦闘時の出来事を好意的に解釈していてもおかしくないと言っているの」

「日々乃は人の動きを見誤ったりしない」


 ‥‥なんだろう。何故か、当事者である俺そっちのけで二人が恐ろしくヒートアップしてしまっている。女子同士の喧嘩って怖い。


 正直な話、俺としては信じてもらおうが信じられなかろうが、どちらでもいいのだ。あの時の戦いにおいて重要だったのは三神と綾辻が無事でいられるかどうかであり、その目標が達成された以上俺の槍働きが評価されるかなど些末事でしかない。


 むしろ過剰に評価されるよりは疑われた方がマシでさえある。結局素人なことは一切否定出来んし。


 というわけなので、俺は三神を制止した。


「もういいよ三神」

「七瀬、でもこれは」

「今回の仕事はそれを判断してもらうためのものだろう? 今ここでそれについて議論しても仕方ないだろ」


 そして、俺は遊里さんを見る。


「遊里さんも王樹との戦いの話とかは話半分に思ってもらって構いません。ただ俺が限定的にでも守り人と共に戦えるかだけ、判断をお願いします」


 これから先、綾辻や三神と共に戦うことを認めてもらえるのか。今回の達成目標はそれだけだ。


 遊里さんはどこか意外そうな表情をしつつ、鋭い視線で俺を見据えて頷いた。


「元よりそのつもりよ。ただし私の評価は決して甘くないからそのつもりでいることね。‥‥それと、遊里さんなんて面倒だから、エリシアでいいわ。敬語もいらないし。代わりに私も凛太郎って呼ぶから」

「え、いいんですか?」


 間違いなく俺よりも立場が上になる人を名前で呼ぶのはどうなんだろう。普通の会社だったらありえないけど。というか、遊里さんの話し方も、それ分類的には丁寧語になるんじゃない? 敬語かどうかは怪しいけど。


 しかし遊里さんは呆気からんと言った。


「戦闘時に一々敬語なんて面倒臭い。同い年みたいだし、公式の場以外は気にすることでもないわよ」

「はあ、じゃ、じゃあエリシアさんで」

「さん付けしてたら意味ないでしょ、馬鹿なの?」

「え、えええエリシア」

「? 何をそんなに緊張してるのよ?」


 いやだって! 考えてみたら俺女の子のことを名前で、しかも呼び捨てで呼ぶなんて幼稚園以来の経験ですよ!


 エリシアは確かに俺に対して懐疑的であるが、竹を割った性格のせいか決して不快な感情を向けられている感じはしない。見た目だって赤髪と金の瞳に目を奪われそうになるけども、造型のハッキリした、綺麗な顔立ちをしているのだ。


 プロポーションも胸こそ性格と正反対で自己主張が薄目である代わりに、スカートから微かに覗く健康的な太腿にはつい視線を向けてしまいそうになる程で、これこそがおみ足と呼ぶに相応しいに違いない。思わず敬語使っちゃうね。


 結局何が言いたいかというと、彼女いない歴イコール年齢の俺にとっては緊張しない方が無理な話である。


「‥‥」


 ああ、心なしか隣の三神から向けられる視線が痛い。


 俺の心中の葛藤など微塵も気付かない様子で、エリシアはまあいいわ、と話を切る。


 そして背後の出口を指さした。


「それじゃあ行くわよ」

「そもそもこれからどこに行くの?」


 三神が半眼で問う。


 そういや聞いてなかったな、それ。一応言われた通りに仕事服を着てきたはいいが、今の時間はまだ十三時を過ぎた頃。現界期になる深夜には遠い。


 普段から綾辻と三神は昼間は仕事してないしな、なにするんだろ。


 エリシアは少し考える素振りを見せ、


「それに関しては説明するよりも見た方が早いから、行けば分かるわよ」

「「‥‥?」」


 俺と三神は顔を見合わせるが、結局どういうことかは分からず歩き始めたエリシアの後に続いた。


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