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サクラが教えるチートの正しい使い方  作者: 秋道通
第一章 呪殺の王と盲目の剣
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疑惑が教える俺の思い

前日投稿できず申し訳ありませぬ‥‥

 部活が終わった後、どうやって家に帰ってきたのかあまり覚えていない。濡れた肩口に雨が降っていたのかもしれないが、それすらも定かではなく、最近は暗くなった道の中で学校に後ろ髪を引かれながら帰宅するのが常だったので、恐らく今日もそうだったのだろう。ベッドに寝転がったまま働かない頭でぼんやりと考える。


三神にアウターの説明をされた時もそうだが、俺はどこかで今回の出来事に対して楽観視していた部分がある。綾辻から三神の護衛を頼まれた時もそうだ、俺は出来ると考えてそれを引き受けた。

しかし、結果は見ての通り。彼女たちは俺を戦いから遠ざけた。俺はその事実に子供の様に癇癪を起していたのだ。


そうだ、俺は綾辻や三神から拒絶されたからという理由で彼女たちに踏み込むことを躊躇った。いや、そうして理由をあいつらに押し付けたのだ。


だが、原因はそれだけではない。

咲良に告げられた問いが頭の中でリフレインする。


『七瀬くんは今自縄自縛に陥っているように見えますが、一体なにが気がかりなのですか?』


 そう、彼女の言う通りだ。


 本気で接触しようと思えば方法なんていくらでもあった。校門を乗り越えるのにだって大した労力はかからない。ただ、それを俺が選ばなかっただけ。どれだけ言葉を選ぼうと言い訳を重ねようと、結局は選択しなかった俺に原因がある。


 こうして一人になって改めてそれを自覚すると、確かに心当たりがあった。


 それは至極単純な話。死の窮地に立って改めて感じたたった一つの疑問。


「‥‥俺は」



 

 俺は一体、なんだ?




 当たり前のように転生だと思っていた。夢の中で立つ男を当然の如く自身の前世の姿だと信じていた。


 コードが使えることに大した疑問を覚えたことはなかったし、アウターに遭遇した時も、綾辻たちがフォルダーだということを聞いた時も大して驚かなかった。


 それは前世の記憶が自身のものだと信じて疑わなかったからに他ならない。


 しかし、三神の目前で従僕に胸を貫かれた瞬間から、いや綾辻たちからコードとフォルダーについての説明を聞いた時から、ある疑念が胸の中で棘のように刺さり続けていた。


 生まれながらにコードを持つ人間がフォルダーとなる。


 文字は歴史であり、言葉は記憶だ。


 もしもコードそのものが普遍的な概念ではなく人と人の間に継承され続ける固有の事物であった場合、コードは使われ続けた記憶を保持している可能性がある。


 どういうことかと言えば、俺は異世界の人間が生まれ変わった転生者などではなく、生まれた時に偶々持っていたコードによって別人の記憶を見せ続けられただけの高校生かもしれないということだ。


 実際どうかなんて分からない。この問いに答えが見つかることはないだろう。俺は俺が転生者であるという確証も、記憶を植え付けられただけの人間であるという確信も得ることは出来ないのだから。


 だが、事実として俺は全ての記憶を思い出すことが出来ない。


それだけではなく、綾辻たちとの関わりの中で俺はあることに気が付いた。そう、フォルダーにとっての核となるはずのエクストラコードの存在さえ、俺には不確かだったのだ。


少なくとも今扱える〝強化〟のコードは俺の本質となるものではないと、直感が叫んでいる。


自分という人間が立っている感覚を失い、どことも知れぬ中空で霧散していく。


 いや、この際そんなことさえどうでもいいのかもしれない。結局、綾辻に拒絶された時、俺は自分が一般人だということを自覚させられたのだ。力を持っていようが、これまで積み重ねてきたものが、覚悟が彼女たちとは違う。求めてやまなかったはずのその立場は、今の俺が何の努力もしてこなかったという強い劣等感を生んだ。


俺は戦いの日々に全霊を賭す彼女たちを前にそれが浮き彫りになり、自分自身を疑わずにはいられないのだ。


 そんな状態でどの面提げて綾辻たちのところに行くというんだ? 自分がなんなのかも分からなければ、出来る事さえ把握していないけれど首を突っ込ませてくれと言いに行くのだとしたら、それは救い様のない馬鹿野郎だ。


 今の俺は物語の中で神様から都合の良い力を貰って振り回すだけの主人公と変わらない。いや、努力もしてこなければ、ルーツも分からない分それより酷い。


 こんな俺に、人生をかけて戦い続けてきた二人の中に飛び込む資格など、当然ありはしなかった。

 考えてみれば、ただそれだけの話。


「‥‥」


 俺は目を焼く明かりを遮るように、手で目を覆った。


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