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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第5章
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第59話 脱出

レオポルドはエレオノーラと共に施設からの脱出を図っていた。レオポルドはエレオノーラの手を引いて駆けている。

「きゃっ!」

エレオノーラの悲鳴と共にレオポルドの手から、エレオノーラの手がするりと抜け落ちる。レオポルドはエレオノーラの元へ駆け寄る。

「大丈夫か? 少し早かったな、すまない」

レオポルドはエレオノーラの手を持つ。

「いえ、大丈夫です」

エレオノーラの手を持った時、レオポルドは今まで気づいていなかったことに気づいた。そう、彼女の手は以前より細くなっていた。エレオノーラは何も言わなかったが、レオポルドはエレオノーラの身に何があったかを察した。彼女はここにとらわれて、まともな食事も与えられなかったのだろう。それが彼女をここまで痩せ細らせた。レオポルドは自責の念に押しつぶされそうになった。そんな自分にできることは彼女を今度こそ無事に助け出すことだ。レオポルドはそう決意して、再びエレオノーラと駆け出した。

「走れるか?」

「ええ、走れます。早くこんなところから抜け出して、みんなに会いたいです!」

エレオノーラのその無邪気な様子がレオポルドをより一層苦しめた。



「そろそろ出口だな」

レオポルドたちは確実に出口に近づいていた。外に通じる階段はレオポルドたちからあと少しのところにあった。

「やっと苦しい生活もおしまいだな。今度こそ助けてみせるよ」

レオポルドはエレオノーラにそう言葉をかけた。この言葉はレオポルドにとっての精一杯の謝罪を込めた言葉だったのだろう。エレオノーラが笑って応じた。

「はい! 頼りにしてます!」

エレオノーラもレオポルドの言葉に謝罪の念が込められていることに気づいていた。



ただ、まだ安心するのは早かった。


レオポルドたちが向かっている階段から、降ってくる影が見える。その数はおよそ6といったところだろうか。レオポルドとエレオノーラは歩みを止めた。

「嘘だろおい……」

レオポルドの言葉には半ば絶望のようなものがあった。エレオノーラがいて、6人を相手にすることは今のレオポルドには無理であった。



レオポルドが絶望に沈んでいる中、エレオノーラがレオポルドの手を握る。

「レオポルドさん、私はあなたを信じています」

そうだ、俺はエレオノーラを必ず助けると誓ったのだ。こんなところで止まっていることなどできない。例え俺の命を引き換えにしても、エレオノーラは助け出してみせる。レオポルドは心でそう言った。



6人の人影が姿を現わす。レオポルドはそれに構える。もしかしたら仲間かもしれない。レオポルドはかすかな希望を抱いていた。

「この本拠地はもう終わりだ! とにかく、捕虜を移すのだ! 特にあのハインリヒと共にいた女は絶対に逃がすな! あいつはいい交渉材料になるからな!」

レオポルドの希望は何の慈悲もなく、打ち破られた。敵将だった。それに5人の従者と思わしき人物がそばに控えている。

「何だ貴様は!?」

敵将がレオポルドに気づく。

「そんなことより、大変です! 捕虜が誰一人としていません!」

「何だと!?」

側近の一人が捕虜の不在に気づく。

「貴様の仕業か……。さらにはその女まで逃がすつもりか! それだけはさせんぞ!」

敵将はエレオノーラと共にいるレオポルドを捕虜を逃した張本人だとみなした。敵将はおもむろに剣を抜く。

「お待ちください! 私は反乱軍のものです!」

「何?」

レオポルドはとっさの嘘をつく。レオポルドの身なりは敵陣侵入の際と同じく、反乱軍のそれと同じであった。それゆえ、こんなバレバレの嘘も、すぐに否定されずに済んだ。

「私は捕虜の様子が気になり、ここへ参りました。しかし、時はすでに遅く、敵軍の何者かが、この捕虜を全員逃していた後でした。そこにこの女だけがいたのです。そこで私はこの女だけは逃さないと思って、あなた様の元へ連れ申し上げようと思っていた所存にございました」

「ほう……」

レオポルドの嘘は何とか通ったようだ。レオポルドはとにかく一安心した。

「この男、見知らぬ顔でございます。どこかで見たような気はするのですが……」

側近の一人がレオポルドを疑った。まだ危機は乗り越えられていなかった。レオポルドの心は再び荒れだした。

「まあそんなことは今はどうでも良い。名は知らぬが、ご苦労であった。さあ、その女をこちらに引き渡せ」

敵将はレオポルドを味方と勘違いして、命令を下す。

「それは……」

レオポルドはためらう。

「なぜためらう? 早く引き渡せ」

レオポルドがそれに応じないまま、時間が過ぎた。



その時、側近の一人が大声をあげる。

「思い出した!」

レオポルドの心は焦りだした。

「この男、ハインリヒ襲撃の際に、ハインリヒと共にいた男でございます! どこかで見たと思ったが、貴様だったか!」

「何だと?」

レオポルドの素性はバレてしまった。ハインリヒと共にいたところを見たものがいたとは。レオポルドにはもはや打つ手がなかった。レオポルドは申し訳なさそうにエレオノーラを見る。

「大丈夫です」

エレオノーラは笑いながら、レオポルドに声をかけた。レオポルドは再び、自責の念に駆られた。また俺は俺を信じてくれるエレオノーラを助けることができないのか。レオポルドは自分を憎んだ。

「俺を騙すとは、いい度胸だな!」

敵6人が剣を抜く。

「くたばれ!」

レオポルドは諦めた。

「もはやこれまでか……」

敵がレオポルドに襲いかかろうとした時、側近の2人が崩れ落ちた。



「何事だ!?」

敵将が突然の出来事におののく。側近の二人は首元を斬られ、すでに絶命していた。その後ろからは見覚えのある姿があった。

「やれやれ、なんとか間に合ったぜ」

ハインリヒだった。

「貴様、ハインリヒか!」

敵将は急展開に戸惑うことしかできなかった。レオポルドはこの好機を見逃さなかった。レオポルドは剣を抜き、敵将の前にいた二人を斬り殺した。もちろんエレオノーラの配慮は抜け目なかった。

「ひっ!」

敵将は状況は飲み込めずにいたが、自分の身に危機が迫っていることは本能でわかった。ハインリヒはレオポルドが二人を斬っている間に、もう一人の従者を殺していた。

敵将はおののいていたが、レオポルドがエレオノーラを守りすぎるがあまりに、レオポルド自身の守りが薄くなっているのに気づいた。

「うおおおっ!」

敵将は死に物狂いでレオポルドに突っ込んでくる。レオポルドはそれに気づかない。

「レオポルドさん、危ない!」

エレオノーラが声をかけ、レオポルドに危機を伝えた時、すでに遅かった。

「しまった!」

レオポルドは何もできなかった。死すら覚悟した。

「レオポルド、当たると思ったら避けろよ!」

ハインリヒの声がレオポルドに届いた。しかしレオポルドにその意味は理解できなかった。



ハインリヒは左肩に備えてある短剣を右手で抜き、抜いた勢いを利用して、敵将の元へと投げた。



敵将の動きが突如止まり、レオポルドのすぐ前でうつぶせに倒れた。レオポルドは何が起きたのかわからずにいた。うつぶせに倒れた敵将の後頭部にはハインリヒの投げた短剣が突き刺さっていた。敵将は即死だった。

「助かった……」

レオポルドは一安心した。レオポルドとエレオノーラは差し迫った危機を、ハインリヒという救世主のおかげで何とか切り抜けた。レオポルドとハインリヒは笑いながら互いを見つめていた。


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