第58話 エレオノーラ救出
「エレオノーラはどこだ?」
レオポルドは敵陣の中、エレオノーラが囚われている場所を探していた。もうかれこれかなりの時間が経ってしまった。
「時間がないんだ! いったいどこにいるんだ?」
レオポルドは焦る。そこらにいる兵から聞いたとしても敵と勘違いされて、厄介なことになるだろう。そもそも、知っているのは上層部だけかもしれない。そう思うと、レオポルドはますますエレオノーラの居場所を割り出す方法を見出せず、焦るのみであった。
レオポルドは走り続けた。
「あれは……?」
レオポルドは何か疑わしい建物を発見した。他はすべてテントや木でできている簡易な建物ばかりなのに、一つだけレンガでできており、妙に作りに手が込んでいるように見えた。
レオポルドは近寄ってみた。しかしここで、この建物は、敵将専用に施設ではないのか、そう言った考えもレオポルドの脳裏に浮かんだ。レオポルドはこれに入るのを少しためらった。しかし、猶予はなかった。
「入るしか!」
レオポルドは意を決して施設の中に、足を踏み入れた。
「進め、敵を蹴散らすんだ!」
一方、ハインリヒは1000の兵を率いて、敵の本拠の制圧の真っ最中だった。10000を誇った敵兵は、レオポルドの謀略により、すでに5000ほどにまで減っていた。それに彼らは疲弊していた。そんな敵兵は、もはや生きるか死ぬかの瀬戸際に立っているスコターディア帝国兵の敵ではなかった。スコターディア帝国兵は次々と敵兵を蹴散らしていった。
「待ってくれ! 降伏する!」
中には勝利を諦め、自らの命を選ぶものも現れた。ハインリヒたちの勝利は確定していた。
しばらくすると、敵本陣はほぼほぼハインリヒの手中にはいった。余裕が出てきたハインリヒはレオポルドの安否を確認する。
「レオポルドはどこにいるんだ!?」
勝利が近づいてくることに歓喜している兵たちを他所に、ハインリヒはまだ安心できていないでいる。
「レオポルドさまはこの本拠のさらに奥に向かわれたと思われます! 部隊1の兵が奥に向かうレオポルドさまを見たと言っております!」
「くっそ……」
ハインリヒは危機を感じていた。さすがのレオポルドでもこの戦局にたった一人でエレオノーラを探すのは至難だと思った。
「おい、あとの事はお前に任せる! 敵兵の殲滅及び、降伏するものの保護を頼んだ!」
そう言い残して、ハインリヒはレオポルドが向かったと思われる敵陣の奥の方へと進んでいった。
「ハインリヒさま、どこへ!?」
「レオポルドを助けに行く!」
ハインリヒはレオポルドの救出へと向かった。
「ここは……?」
レオポルドが足を踏み入れた建物は、なんと囚人の囚われている場所であった。天はやはりレオポルドを見放さなかった。まさに「昇竜飛天」といったところであろうか。運をも持ってしまっている。
「エレオノーラ!」
レオポルドはエレオノーラを必死に探し出す。もう遅いかもしれない。エレオノーラはとっくに他の敵兵によって移送されているかもしれない。そんな不安が頭をよぎった。それでもレオポルドはエレオノーラを探すしかなかった。
レオポルドはエレオノーラを探し続けた。
「ここで最後か……」
最後の囚人部屋を確かめる前に、レオポルドは心の準備をした。ここにいなかったらどうしよう。レオポルドはエレオノーラがいてくれることを祈った。レオポルドは意を決して中を覗いた。しかし祈りは届かなかった。
「エレオノーラ……」
エレオノーラの姿はそこにはなかった。レオポルドは戦意を喪失した。何のためにここまで来たのだろうか。エレオノーラが居なければ、俺が反乱軍の鎮圧をしても意味がないではないか。レオポルドは我かにも非という感じであった。
「レオポルドさん?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。レオポルドは後ろを振り向く。涙で目が霞んで誰かはっきり認識できない。しかしレオポルドはその姿に確かに見覚えがあった。
「エレオノーラ!」
レオポルドはエレオノーラに駆け寄って、抱きつく。
「無事だったのか、よかった! どこにもいなかったから、もう連れて行かれたのかと思っていた!」
「レオポルドさん……」
レオポルドはエレオノーラが助かったことを喜んだ。それにエレオノーラは顔を赤らめていた。エレオノーラは普段おとなしいレオポルドがここまで感情をあらわにすることに驚いてもいた。レオポルドはこれまで、多くの仲間を失ってきた。それを考えれば、レオポルドはもうだれも失いたくなかったのだろう。
「でもどうしてこんなところを歩いているんだ?」
レオポルドはなぜエレオノーラが歩き回っているのかを尋ねた。
「もうここも陥落しそうだから、一人の優しい兵隊さんが逃がしてくれたんです。でもこの騒ぎはきっとレオポルドさんが起こしたと思ったから、ずっとこの建物の中を歩き回って待ってました。そしたら本当に来てくれました!」
エレオノーラの目にも涙が浮かんでいた。しかし、余韻に浸っている暇はなかった。
「とにかくここを出よう。ハインリヒがそろそろこの本拠を完全に制圧していることだろう。追っ手が来たら面倒だ」
レオポルドはエレオノーラの手を引いて出口に向かった。レオポルドの元に敵将が向かってきているとも知らずに……。




