第40話 再会と助言
レオポルドはダリオの邸宅に到着した。レオポルドは全力で走ってきたので、息を大きく切らしていた。
レオポルドは邸宅の家の扉を何度も叩く。
「エミリア! エミリアはいるか!?」
レオポルドは大声でエミリアに呼びかける。
中から足音が聞こえてくる。エミリアの足音だ。レオポルドは理由はわからないが、即座に察知できた。
「うるさいわねぇ、何度も叩かなくても……」
顔を膨らまして出てきたエミリアは目の前にいる人物を見て、表情を緩める。
「ただいま、エミリア」
レオポルドはいつも通りに帰ってきたかのようにエミリアの告げる。
「レオ? レオだよね!?」
エミリアはレオポルドに抱きつく。
「よかった、本当によかった! もう帰ってこないかと思った時もあったけど、本当に帰ってきてくれた!」
エミリアは普段の強気な態度をすっかり崩して、泣きながらレオポルドに抱きついたまま離れない。
「俺は絶対帰ってくるって言っただろ? それに、エミリアがそのサファイアに祈っててくれたから帰ってこれたんだ」
エミリアは首に肌身離さずサファイアの首飾りをつけていた。
「そうよ、私がずっと祈っててあげてたんだからね! レオの事助けてくださいって、お願いしてたんだから! 感謝しなさいよね!」
エミリアは泣いたまま強気な態度を見せるが、それは心からは思っているようには決して見えなかった。エミリアはレオポルドが無事に帰ってきたことを心から喜んでいる。レオポルドも然りだ。
「俺がいなくてもいい子でいたか?」
レオポルドがエミリアをからかう。
「いい子も何も、いつも通りよ! バカじゃないの?」
エミリアはレオポルドに不機嫌そうに返すが、顔からは喜びが溢れている。
「ダリオから手伝いをしていると聞いたぞ? 俺への償いのつもりか?」
レオポルドはさらにエミリアに意地悪をする。
「そんなことないわよ、みんなが忙しそうだったから、手伝ってあげただけよ!」
エミリアはようやく本調子に戻る。
「これまで絶対に手伝いなんかしなかったお前が、まさか働くなんてな。俺がずっといない方が良かったんじゃないのか?」
レオポルドは冗談でエミリアを馬鹿にするが、それはエミリアには冗談に聞こえなかったようだ。彼女の顔は暗い。
「そんなこと言わないでよ。本当にいなくなっちゃって、このまま会えなくなったらどうしようって本当に考えたんだから」
エミリアが真剣な眼差しをレオポルドに向ける。
「すまん、悲しませるつもりはなかったんだ。許してくれ」
申し訳なさを感じるレオポルドに、エミリアは頷いた。
「そんなことより、レオがいない間の話がたくさんあるのよ! 話してあげるから、私の部屋に来なさい!」
レオポルドはエミリアに手を引かれるまま、部屋に上がった。
「それでね、お父様ったらおかしいのよ!」
エミリアはレオポルドに日常に些細なことを話し続けている。もうかれこれ2時間は話し続けている。レオポルドは笑って聞いていたが、心の中ではエレオノーラに告げられた、メガロシュ併合の話に気を取られ続けていた。
「どうしたのレオ? 私の話つまらないかしら?」
エミリアは表情の暗いレオポルドに気を遣う。
「いや、なんでもないんだ。話をしよう」
「その顔はレオが何か考えている時の顔よ。いいわ、私が話してばっかりだし、今度は私がレオの話を聞いてあげる! 感謝しなさい!」
エミリアは強引にレオポルドから話を引き出そうとする。それにつられて、不満のはけ口を探していたレオポルドは悩みを話し始める。
「実は俺はもうメガロシュを治められないかもしれない」
レオポルドは俯いている。
「えっ!? どうして!?」
エミリアは驚きを隠すことができない。それもそうだろう、レオポルドはメガロシュを治めるのが当然のようなものだったのだから。エミリアは当たり前を覆されてしまったような気がして、驚くしかなかった。
「俺は死んだとエルンストに報告されている。王都では王を暗殺した謀反人だ。死んだとしても領地の没収は免れないということだ」
レオポルドは淡々としている。それがより一層、エミリアに事態の深刻さを伝えているようにも思えた。
「嘘でしょ……」
エミリアはどう反応したらよいかわからなかった。しかしまずはレオポルドのこれからの意向を確認しようと思った。
「それであんたどうするつもりなの?」
「わからない。わからないんだ。俺はここでどうやったら俺の治世でみんながこのメガロシュでまた平和に暮らせるのかがわからない」
レオポルドは自分の拳を固く握りしめて、自分の能力のなさを悔しがる。
「そうなんだ……、私さ、政治のことなんてわからないけど、レオはレオのしたいようにすればいいと思う」
「なんだって?」
レオポルドはエミリアのあまりに無責任な発言に耳を疑う。
「適当に言ってるわけじゃないの。でも、これまでレオはこの国のために尽くしてきたでしょ? もう自分のために頑張ってもいいんじゃないのかな? レオが王様だったらその中でメガロシュやゴリモティタも勝手に栄えていくと思うの」
レオポルドはエミリアはエミリアなりにしっかり考えていることを理解する。近頃面白みを感じていなかったのも事実だ。レオポルド自身も好きにやってもいいんじゃないかと思い出した。
「そうだな、エミリアの言う通りかもしれないな。自分のために考えてみるよ」
「うん、そうしたらいいと思う」
レオポルドは思いもよらぬ人物から助言をもらって、考えを新たにすることができた。その収穫を携えて、レオポルドは夜になりつつある夕焼けの中を領主邸へと向かって歩き出した。




