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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第4章
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第38話 対立

「ここがメガロシュ領主邸だ」

レオポルドはエレオノーラに到着を告げた。

「これも嘘じゃないですよね?」

エレオノーラは完全にレオポルドを疑いきっている。

「さすがにこんなことで嘘をつく俺じゃないよ」

「どうだか」

エレオノーラはレオポルドが嘘をついたとわかってから、レオポルドに対する態度はとても辛辣なものになっていた。

領主邸の前ではいつもと同じようにリンダが掃除をしている。リンダもレオポルドの帰還に気づいた。

「レオ!」

リンダが声を上げて、走ってくる。

「レオ、心配したんだよ! 正直死んだんじゃないかって思ってたよ。でもみんなでお祈りしたからかな。生きて帰ってくれたんだね! おかえり!」

リンダは嬉しさのあまり、目に涙をためていた。

「ああ、俺は無事だ。心配をかけたな」

「ところで、初めて見る人だけど?」

リンダはアレクセイとエレオノーラの存在に気づく。

「ああ、報告することがあるんだ。大至急、会議室にシルヴァ、ダリオ、エステバンを集めてくれ。頼んだぞ」

「うん、わかったわ!」

リンダが領主邸の中へと走って行った。

「レオ、私も参加させてもらうわ。いいわよね、ずっと、私たちに心配かけてたんだから、聞く権利ぐらいあるよね?」

フェリスがレオポルドの袖をギュッと握る。

「レオ、俺だって参加させてもらうぜ。俺はもうお前に一生ついていくって決めたんだ。お前の知ることは俺も知りてえよ」

アレクセイもフェリスに続き、参加を懇願した。

「わかった、お前たちも来てくれ」

レオポルドはフェリスの同行を許可した。

黙って聞いていたエレオノーラの頭の中は疑問まみれだった。エルンストとの会話を思い出していた。

「レオポルドは能力はあるが、冷酷で、思いやりもなく、

最悪の人間だ。その上、王の暗殺という自分が権力を得んとしたとも取れる行動をした国家の大罪人だ。おそらく、奴はもう死んだ。だから奴の領地、メガロシュの併合を決めた。そこでだエレオノーラ、君にはその報告を残された家臣にしてほしい。初めてだが、やってくれるな?」

「はい! お任せください!」

エルンストの言葉にエレオノーラは大きな声で返事をした。

そうだ。レオポルドはエルンストの言葉では最低の人間だったのだ。そのはずだった。しかし、出会う人々みんなから尊敬し、心配されているレオポルドを見るとそんな風には見えなかった。エレオノーラの護衛だって、優しく務め上げたのだ。もしもレオポルドがエルンストのいうような人だったならば、とっくにエレオノーラは殺されていたはずなのだ。

そう考えると、ますますレオポルドのことがわからなくなった。エレオノーラは何もわからないことに苛立っていた。

「早く案内して!」

エレオノーラは苛立ちのあまり、レオポルドに怒鳴る。

「わかっている。じゃあ、会議室へ向かおうか」

レオポルドはフェリスに掴まれながら、会議室へと歩みを進めた。



「レオポルドさま! よくぞご無事で! このエステバン、必ず生きていらっしゃると思っておりましたぞ!」

会議室を開けると、エステバンがレオポルドに抱きついてくる。

「おい、エステバン、フェリスじゃあるまいし、離れてくれ」

「何をおっしゃりますか! レオポルドさまが生きていらっしゃった! こんなに嬉しいことはございますまい! エステバンさまの気持ち、私にもわかりますぞ!」

ダリオはエステバンを擁護する。レオポルドにとっては生きていることが大したことではないので、大げさに感じられて仕方なかった。そこには当然シルヴァの姿もあった。

「信じておりました」

シルヴァはその一言しか発さなかった。だが、固い絆で結ばれた二人の間に、それ以上の言葉はいらないかった。レオポルドもシルヴァに向かって、黙って頷くだけだった。

「ところで、見ない顔が二人ありますが?」

シルヴァが尋ねる。

「よく聞いてくれた! 俺はアレクセイ=ペトロフスキーだ! レオに仕えることになったから、これからよろしくな!」

アレクセイが大きな声で自己紹介をする。

「そうでしたか、これからよろしくお願いします。私はシルヴァ=トーレスと申します」

シルヴァにとっては同じ新参者なので、大した差別意識ももたなかった。レオポルドが連れてきたのならば信頼出来る。そう思っていた。今回はエステバンとダリオも前のシルヴァの件があったので、レオポルドに深く追求しなかった。軽い自己紹介を二人もする。

「そしてお隣の女性は?」

「ああ、彼女は……」

「エレオノーラ=マイヤーです!」

エレオノーラはレオポルドが紹介を終えるまでに大きな怒りに満ちた声で自己紹介をした。

「元気のいい方ですね。エレオノーラさんも新しい私たちの仲間ですか?」

「違う!」

シルヴァは何の疑問もなくそう尋ねるが、エレオノーラは全力でそれを否定する。辺りの空気が凍りつく。

「私は王都からの使者です。報告に参りました」

エレオノーラはカバンの中からもう一つの国書を取り出す。エレオノーラはそれを読み上げる。

「この度、第4王子、レオポルド=リオス=アインフォーラによるクーデタ、それに伴う彼の死によって、メガロシュ、ゴリモティタは王国領へと編入する。異論は認めない」

エレオノーラの報告は衝撃的だった。

「ふざけるな! レオポルドさまの統治によってこのメガロシュは栄えている。みすみすエルンストの手に渡すことなどできん! それにクーデタを起こしたのはエルンストだ! レオポルドさまではない! レオポルドさまは生きておられる、そんな命令は飲み込めない!」

エステバンが珍しく激昂する。無理もないだろう。レオポルドという長きにわたり仕えてきた信頼出来る主人のもとで、こんな罠に嵌められたことで、理想の世界の実現が遠ざかっていっては我慢ならないだろう。

「そうだ! このメガロシュはレオポルドさまが治めるのが一番良いのだ!」

他の面々も状況を理解し始め、エレオノーラに反論する。ただ、シルヴァは黙ったままだった。それと同じようにエレオノーもは黙ったままだ。彼女はレオポルドがこんなにも信頼されているわけがわからなかった。彼女の心の中は複雑なままだった。

「騒ぐな!」

レオポルドが一喝する。

「こんなこと、すぐにはいそうですかと受け入れられるわけもない。命令と言っても、従えるものじゃない」

確かにレオポルドの発言には一理ある。

「とにかく、エレオノーラにはここに泊まってもらおうじゃないか。体は疲れているはずだ。今日くらいここで休んでいけ」

レオポルドの発言にエレオノーラは全力で反抗する。

「誰があなたの世話になんかなりますか!」

エレオノーラは部屋を出て、帰ろうとする。エレオノーラは早くこのレオポルドという男から離れたかった。レオポルドの事を考えれば考えるほどわけがわからなくなってくる。

「いいのか?」

レオポルドがエレオノーラを呼び止める。

「エレオノーラはエルンストの使者のはずだ。お前には俺の答えを望む望まないに関わらず、エルンストに伝える義務があるんだ。任務放棄を咎められて、罪に問われることなんて、俺は望まないんだ」

エレオノーラは足を止めて、しばらく考える。

「わかりました、お世話になるとしましょう」

「ああ、この領主邸の施設は好きに使ってくれていいからな」

エレオノーラはレオポルドの言葉に驚く。いわばレオポルトにとって、エレオノーラは敵なのだ。それを歩き回らせるなんて、どうかしている。監視をつけてもいいくらいなのに。

「エレオノーラさん、案内しますわ」

フェリスがエレオノーラの案内を買って出る。

「ありがとうございます」

エレオノーラはそう言って、フェリスと部屋を後にした。


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