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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第4章
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第36話 それぞれの過去

「よし、確かに確認した。通ってもいいぞ」

「ありがとうございます!」

エレオノーラが宿場町を出る際に国書を見せると、難なくレオポルドとアレクセイは検問を突破することができた。二人はエレオノーラに感謝せざるをえない。

「いやぁー、ほんと助かっちまったぜ! ありがとうな、エレオノーラ!」

アレクセイがいつものように元気にエレオノーラに礼を言う。

「こちらこそですよ! アレクセイさんにペドロさん、お二人がいてくれたら心強いですから!」

エレオノーラは何の憂いもないというふうに振る舞う。まだレオポルドのことはバレていない。ここまでくれば、レオポルドのことはずっとペドロの名前で通るだろう。

「あれが最後の検問だったから、もう国書はいらないな」

レオポルドがそう呟くとエレオノーラは大焦りする。

「私のは用済みって事ですか? ちゃんと一緒に来てくれるんじゃないんですか?」

「いやいや、そういう意味じゃないんだ。不安にさせたならすまなかったな」

レオポルドは自分の言葉の足りなさを反省して、慌ててエレオノーラの誤解を解く。

「まあとにかく、山賊が出ない事を祈るまでだな」

レオポルドの今のところの不安はそれだけだった。自分もまだ手負いの身だ。できれば戦闘は避けたいのだろう。

「大丈夫だって! このアレクセイがいる限り、どんな奴が襲ってきても、ほんの数秒で返り討ちだぜ!」

アレクセイはそう豪語するが、レオポルドにはまだ彼の実力がわからない。だから、彼の力を見ることができるという点では、山賊の襲撃を期待していた。

「じゃあアレクセイさん、山賊が襲ってきたらよろしくお願いしますね!」

「おう、任せとけ!」

エレオノーラに頼りにされたアレクセイはなんでも来いという感じで返事をする。

「頼むぞ、アレクセイ」

レオポルドもそう返した。太陽は雲に隠れていた。

「シルヴァ殿、農村の視察には行かれましたかな?」

エステバンはシルヴァとともにとても忙しそうにしている。メガロシュでは、全員が仕事に勤しんでいる。

「ああ、忘れていた! 行ってるのであとは任せました、エステバン様!」

シルヴァは慌てて執務室を飛び出す。

「しかし、こんな激務をレオポルド様はいつも一人でこなしていらっしゃったのですな。全く、尊敬せざるを得ませんな」

ダリオがぽつりとレオポルドがこんなに厳しい仕事をしていることを、今まで気づいていなかったことを明らかにする。

「その通りですな、さすがレオポルド様ですな」

それはエステバンもシルヴァも同じようだ。三人はレオポルドの仕事は管轄外のものであったということもあるとは思うが、慣れない仕事にかなり苦心している。

「お仕事お疲れ様です! 進捗状況はいかかですか?」

扉が開くと、苦労をいたわるため、フェリスとリンダが軽食を持ってきていた。

「いやぁ、こんなにも多くの仕事は三人でかかっても終わらないよ」

「やっぱりレオはすごいってことね」

フェリスとリンダは顔を見合わせて、お互い同じことを思っていることを確認した。

「エミリアはどうしているのかな?」

ダリオがエミリアがいないことを疑問に思って、二人に話しかける。

「エミリアならメイドに混ざって一緒に庭掃除をしていますわ。『私も何かしないとダメだ』って言って、一生懸命働いていますわ」

ダリオは予想外の答えに驚いた。

「あのエミリアが進んで仕事に携わることを申し出たのか!? 人というものは大きなことを経験すると変わるものなのだな」

「でもよかったです」

リンダが呟く。

「レオを見殺しにしたかもしれないって後悔していたエミリアさんがあそこまで立ち直って本当によかったです」

リンダが目に涙をためて喜んでいる。

「そうだな……、安心したよ。それにこんなにも思ってくれる友人を持って、エミリアは本当に幸せ者だ。私からも礼を言わせてもらいたい」

ダリオが二人に頭を下げる。それに慌てる二人。

「私たちはそんなつもりじゃないですよ! ダリオ様に頭を下げられてしまうなんて、恐れ多いです!」

そうこうしているうちに、時間が経ってしまった。

「そろそろ再開しましょうか、このままでは終わりませんゆえな」

休憩を切り上げようとするエステバン。

「そうですな、また辛い戦いが始まりますが、頑張るとしましょうか」

ダリオもそれに応える。

「レオポルド様は必ず帰ってこられます! そう信じて、頑張りましょう!」

リンダが大きな声で激励する。

「じゃあ、私たちはこれで失礼しますね」 

二人は仕事を邪魔しないように部屋を出て行った。

「私はお庭掃除に戻りますね!」

リンダはそう言って、庭にかけて行った。

フェリスは一人になった。この時、いつも彼女は不安になるのだ。

「レオ、大丈夫かな……?」

一番の幼馴染なのだ、心配していないわけがない。レオポルドが暗殺されるかもしれないという情報は、彼女を一番驚かせ、また不安にさせたに違いないのだ。それでも、みんなのやる気を高めるために一人だけ、とても元気に振舞っていた。おかげでみんなは立ち直ったが、彼女はまだ立ち直るどころか、悲しめてもいない。

「レオ、生きてるよね。お願い、無事に帰ってきて……!」

フェリスは初めて、一人になってレオポルドの事をまともに心配することができた。フェリスの願いはレオポルドには届いてるのだろうか。


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