第24話 出立
「ふーっ! 楽しかったですな!」
パーティーが終わり、シルヴァのいかにも満足したというふうな言葉を、レオポルドはそれぞれの部屋へと帰る途中にレオポルドは聞いた。楽しんでくれたようで何よりだ。しかしレオポルドはもっと重要な話をしたかったのだ。
「王都へ向かおうと思う」
レオポルドは突然シルヴァにそういう。
「報告のためですか? では私もお供しましょう」
「ダメだ」
シルヴァが進んでついていくことを申し出るがレオポルドはそれを拒否する。
「何故にございますか?」
シルヴァは拒否されたことを変だとは思わない。レオポルドは断るということは、何かそれなりの理由があると思ったからだ。
「お前の存在は隠しておきたい」
「なるほど……。しかしその目的は?」
「俺は身分の低さから、他の王子からは疎まれているのは知っているか? ここで俺にシルヴァのような有能な将がいると王都の上級貴族や、王に伝わってしまっては、さらに俺は領土侵略を命じられるように、第一皇子エルンストは仕向けてくるだろう。それは何としても避けたいんだよ。もう戦争はこりごりだ。何より今はゴリモティタにおける内政の充実を果たしたい。そちらの方が侵略よりも重要なのは明白だろう。これが理由だ」
「そうですな。では私はここに残り、レオポルドさまの代わりに内政に努めるとしましょう。内政面ではとても敵わないと思いますがね」
レオポルドの答えはシルヴァを納得させるものであった。レオポルドはこれ以上の侵略は避けたかった。この実績があれば少なくともこれからしばらくは、侵略を命じられることはないと考えたのだ。
「よく言うな。明日、フェリスと発とうと思う」
「何故フェリスさまを?」
「相談役の諸侯の娘と王都に報告に向かうのがアインフォーラ王国のしきたりなんだよ。勘違いするんじゃない」
シルヴァはニヤニヤ笑いながらフェリスを連れて行く理由を問うたが、それがまともなものであってため息をついた。
「ではそういうことにしておきましょう。また明日から忙しくなりそうですな」
「ああ、お前も体に気をつけるようにな。お互い頑張るとしよう」
気づけばもうシルヴァの部屋の前に来ていた。
「ええ、ではおやすみなさい」
そう言ってシルヴァは彼の部屋へと入っていった。
レオポルドも自分の部屋へと入る。月が綺麗な日だった。こんなにも心安らいだのはいつぶりだろうか。レオポルドは多忙を極めた中で、月を見る余裕もなかったことに気づく。シルヴァには申し訳ないが、明日からもしばらく王都で楽することができる。だが精神的な余裕はないだろう。他の王子達は王都に在都しているからだ。常に任国にいて、直接統治をするのはレオポルドぐらいだ。他の王子達は部下に現地の実務を任せ切っている。レオポルドはそれが嫌だった。自分が見ているところで、領国が栄えて欲しかったのだ。
「そろそろ寝るか」
明日からの精神的疲弊に備えるためレオポルドは眠りについた。
あくる朝、レオポルドはメイドには聞き覚えのない声に起こされる。
「レオ、起きて。起きてってば」
レオポルドが目を開けると、そこにはメイド服のリンダが立っていた。
「リンダ!? どうしてお前がメイドなんだ?」
レオポルドは起き抜けから驚く。
「実はね、ここで働くことになっちゃった!」
「どうしてだよ!?」
レオポルドは起きてすぐに二回も驚いた。
「私ずっとアルベルトさんのお世話になってたから、そろそろ自立しないとなって思ってさ。働き口を探してたんだけど、レオのメイドが少し不足しているって聞いて、ちょうどいいなって思ってさ。ここで働くことになったの。みんな優しいし、やりがいもあるって言われてさ」
リンダがメイドになった経緯をレオポルドに話す。
「それにレオの近くにいれるし……」
最後に小さな声で付け加えたがレオポルドの耳には届かなかった。
「なんだって?」
「なんでもない! レオのバカ! さあ、もう起きて。今日は王都に行くんでしょう? 早く朝ごはん食べて、出発しないと!」
レオポルドはリンダに急かされ準備をした。
レオポルドが準備を終えて、邸宅から出ると、レオポルドの邸宅前には馬車が用意されていた。そこにはフェリスがいる。はずだったが何故か着飾ったエミリアがいる。レオポルドは予想していた状況と違って、頭が混乱していた。レオポルドはエミリアに尋ねる。
「フェリスは? どうしてお前が?」
「私じゃ不満ってわけ?」
エミリアは、レオポルドのフェリスはどこかを尋ねる質問に機嫌悪そうに答える。
「いや、そういうわけじゃなくて、フェリスに来てもらわなければ……」
しきたりにとらわれるレオポルドにエミリアは痺れを切らす。
「だから! エミリアは昨日のパーティーで遊びすぎて熱で寝込んでるの! その代理をエステバン様に頼まれたってわけ! 悪かったわね、私で!」
レオポルドは事情を理解して、ようやく状況を飲み込んだ。
「そういうことならそう言ってくれよ。お付きを引き受けてくれてありがとう。王都とここの往復の間、安全にするよう努めるよ」
レオポルドの言葉にエミリアは照れて顔を赤らめる。
「よくわかってるじゃない。私のこと、しっかり守ってよね!」
「ああ、任せてくれ」
レオポルドは笑って答えた。




