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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第2章
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第21話 戦いの後の平穏

メガロシュは守られた。レオポルドたちは、少しの兵力で、多くのスコターディア軍を撃退、生き残っているものは味方に組み込んだ。これでレオポルド領国の兵力はゴリモティタを手に入れる前に比べて、甚だしく増えた。シルヴァという有能な参謀も現れたことも伴い、軍事力も格段に向上している。

戦争が終わったが、あまりにも早く決着がついてしまった。まだ日は明るい。レオポルドたち出陣組はメガロシュへと帰還する。

「レオポルドさまのおかげでメガロシュは守られたんだ!」

「レオポルドさま万歳!」

口々にレオポルドを讃える領民にレオポルドは笑顔で答える。そばにはシルヴァ、エステバン、ダリオが控えていたが、シルヴァがレオポルドの徳がいかに大きなものかを目にするのは初めてだ。シルヴァはそれに驚く。

「レオポルドさまの人徳は素晴らしいでありましょう?」

ダリオが驚いているシルヴァにそう尋ねる。

「ええ、レオポルドさまは誠の君子にございまするな」

「そうでしょう、しかしこんなに立派になられるとは……」

「本当にその通りですな」

エステバンとダリオの予想外の発言にシルヴァは再び驚いた表情をする。

「初めは何かあったのですか?」

不審に思ってシルヴァは二人に尋ねる。

「レオポルドさまは平民出身の方ですからね」

「なんですと!?」

シルヴァはあからさまに驚く。無理もないだろう。平民が王族になれるなど、普通はありえないからだ。

「レオポルドさまは父上を失われ、そこに居合わせた王によって引き取られたのです。父上は王を守るために亡くなられたので、王は責任を感じられたのでしょう。王は他のご子息と同じようにレオポルドさまを扱われなさいました。そこで私たちが教育係に任じられたのです。初めの頃は、レオポルドさまは読み書きもできない、計算もできない、武術もからっきしだったのですよ。しかし、レオポルドさまは人一倍、いや、人十倍は努力をなさいました。自分のように平民が辛い思いをしなくて済むような世界を作るために……。そのおかげで、今のレオポルドさまと、我々、そして栄えたメガロシュ、明るい領民がいるのですよ」

「そうだったのですか……」

シルヴァはエステバンにこれまでの経緯を語られて、レオポルドの人格の尊さを知った。彼には理想がある、だからこんなにも優れた人物になれたのだ。そう思いながら、領主邸へと戻るレオポルドの後をエステバン、ダリオとともに着いて行った。

「シルヴァどの」

エステバンが不意にシルヴァを呼ぶ。

「なんでしょう?」

突然の呼びかけにシルヴァは何事かと構えた。

「これまでの度重なる無礼、お許し願いたい。私はシルヴァどの侮って、参謀に任じられたことを不満に思っておりました。しかしシルヴァどのは素晴らしい才覚をお見せになられた。これは完全に私の落ち度。申し訳ござらん」

「私もです。初めて会ったことだけを理由にシルヴァどのを判断するとは、私ももっと精進せねばなりませんな。お許しいただきたい」

エステバンがまず自分の非を認め、シルヴァに謝罪すると、ダリオもそれに続いた。シルヴァはそんなことはすっかり忘れていた。

「そんなことですか。気にしていませんゆえ、お二方も気になさらないでください。それならば私もお二方に謝罪せねばなりませんな」

「何故?」

二人はシルヴァに謝ったが、逆にシルヴァにも謝られて、混乱した。ダリオは意味がわからずその理由を問うた。

「私も自分の才能におごっていたのかもしれません。それゆえにお二方を甘く見ておりました。しかしお二方も、先ほどの戦いで見事な戦いっぷりでした。策をたてるなど、差し出がましい真似をしたことをお許し願いたい」

事態を理解したエステバンとダリオは声を上げて笑った。

「ということは、今回はお互い様ということですな?」

「ええ、その通りです」

ここで三人はすっかり打ち解けた。この固い信頼で結ばれた三人がこれからのレオポルドを支えることになるのだ。

「では、改めて宜しく頼みまする。エステバン殿にダリオ殿」

三人は固い握手を交わした。



レオポルドたちが領主邸に帰還すると、リンダが待っていた。

「おかえり! 勝ったんだね! このお家の高台から見てたけどすごかったよ! まさかあんな大軍をやっつけちゃうなんて!」

リンダはレオポルドたちの戦いぶりに非常に興奮していた。

「メガロシュを守りたい一心で戦っただけだ。勝利はこのシルヴァ、エステバン、ダリオがいればそんなに驚くことではない」

レオポルドは興奮しているリンダとは対照的に、冷静に受け答えをしていた。そこに、あの二人がやってきたのだ。レオポルドは戦の余韻もあり、その危機をすっかり忘れていた。

「レオー!」

そう叫びながら、二人は領主邸から走ってくる。

「まずい!」

そう思ったレオポルド。しかしもう遅かった。レオポルドがそう思った時、二人はレオポルドを捕まえていた。

「さあレオ、この女の人の話を聞かせてもらうわよ?」

「全く、1ヶ月もメガロシュを空けていて、帰ってきたら女を連れてくるなんて、信じられないわ!」

二人がレオポルドを問い詰めるが、レオポルドは「一ヶ月」という言葉に気をとられた。

「一ヶ月……」

そう呟くレオポルド。ここを出発してからすでに一ヶ月が経過していたのだ。ゴリモティタの立て直しに奔走していたため、時間のことなどすっかり忘れていた。

「そうよ、一ヶ月よ!」

エミリアがレオポルドの独り言に反応する。

「すまないな二人とも。ゴリモティタでの仕事が忙しすぎて、帰るのが遅くなって、再会がこんな形になってしまった。顔を見せてやれなくてすまない。心配してくれてたのに、それをすっかり忘れていた」

素直に心から謝るレオポルド。それを見た二人は出鼻をくじかれたような気がして、レオポルドを責めにくくなった。もちろんレオポルドには、その状況を作ってやろうなどという気はないのだが。

「いや、いいんだよ。レオが無事ならそれでいいの」

「ふん、まあ無事に帰ってきてよかったわ!」

二人はそれぞれレオポルドに帰還してきたことに対する、感謝のような気持ちを伝えていた。しかし本題がまだ未解決のままだ。

「それはそれとして、レオ。この女の人のこと、ちゃんと説明してもらうわよ」

「そうよ、これはどういうこと!?」

二人は急にレオポルドを責め出す。

「彼女はリンダ。ゴリモティタで仲良くなった。彼女がメガロシュと俺たちの戦争を見たいというので、一緒に連れてきた」

レオポルドはリンダとどういう関係でなぜここにいるのかを説明したが、納得しない二人の質問攻めが続く。

「どうして仲良くなったのよ!?」

「ゴリモティタ偵察の時に、リンダは領主に道理の通らない理由で父を殺され、囚われの身になったんだ。それを助けたのがきっかけだ」

「そう……」

フェリスとエミリアは二人がやましい関係でないことを確認して、リンダに陳謝した。

「ごめんなさいリンダさん。お父様を亡くされたのに、そんなことも知らずに私たちはあなたに反感を抱いてしまいました。お許しください」

フェリスが謝る。

「いえ! 気にしないでください!」

リンダが謝るフェリスに気を遣う。

「そうだ、俺とリンダは親しい友人なんだ。なあリンダ?」

レオポルドのリンダは友達の一人発言にレオポルドに少なからず好意を抱いているリンダの顔が曇る。

「うんうん、そうだよね。私たち友達よね」

「おい、何怒ってんだよ?」

「なんでもないよ、レオのバカ!」

リンダの気持ちを理解できないレオポルドは訳が分からないというふうにただただ立っている。そこでシルヴァが一言レオポルドに言う。

「レオポルドさま、そんなことでは、大切な女性を失ってしまいますよ。そこだけに関しては、君子ではありませんな」

「まったくその通りです!」

レオポルド以外の全員がその言葉に納得した。わかっていないのはレオポルドだけだ。

「どういうことだよ、シルヴァ」

「自分でお考えになってください」

レオポルドの疑問はシルヴァに一蹴される。周囲では笑い声が起こる。

「ところであなたは……?」

そんな中でエミリアは初めて見るシルヴァに誰かを尋ねる。

「申し遅れました、私、シルヴァ=トーレスと申します。レオポルドさまとはゴリモティタで出会い、レオポルドさまの参謀を務めさせていただいてます」

シルヴァの丁寧であるが、簡潔な自己紹介に女性陣はシルヴァのことをすぐに真摯であると認識した。そこでエミリアとフェリスは提案をする。

「ねえ、せっかくレオが帰ってきたし、リンダさんとも仲良くなれて、そこにいるシルヴァさんとも会うのは初めてだし、親睦を深めるために軽いパーティーを開かない?」

「それはいい考えだ! シルヴァもリンダも参加してくれるよな?」

二人の提案にレオポルドは大賛成する。

「喜んで出席させていただきます。私もフェリスさまやエミリアさまとお話をしたく存じます」

シルヴァはそう答えるが、リンダは何やら遠慮をしているようだ。

「どうしたリンダ?」

レオポルドがリンダに尋ねる。

「私みたいな庶民が参加してもいいのかしら?」

「そんなこと構うもんですか! さあこちらにいらして! ドレスを選んで差し上げますわ!」

「行きましょう、リンダさん!』

「ちょっと!」

フェリスとエミリアに手を引かれるままにリンダは有無を言わさず、連れて行かれた。パーティーの開催はここの全員で行うことになった。


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