お墓参り
季節は移り、学院が夏季休暇に入った。
お転婆すぎて色々と不安だったシャルも、初等学院でヴィアちゃんたち以外の友達も沢山できたようで、毎日楽しそうに今日あったことを教えてくれる。
良い面でも悪い面でも素直な子なので、無理している様子がないのでホッとしている。
シルバーは、楽しみだった魔法を習えることが楽しいようだしアレン君たちとの仲も良好なようで、こちらも毎日の学院生活は楽しそうである。
二人とも、俺の子ということで色々とやっかみとかあるかな? って危惧していたけど、今のところ表立ってそういうことを言ってくる子はいないらしい。
アリーシャちゃんがシャルに突っかかって行ったのは、ヴィアちゃんに対する態度がアリーシャちゃんの許容範囲を超えたからで、ウォルフォード家に対する当てつけではなく、純粋にシャルを叱ったらしい。
ちょっと当たりはキツイ子だけど、こういう子はシャルにとってはありがたいので、変わらずに友達を続けてくれているようでなによりである。
次男のショーンは、魔道具の練習をすると言っていたが、三歳の幼児には難しいらしく、毎日挑戦しては失敗して泣くということを繰り返している。
まあ、魔道玩具が既にあったシャルが五歳くらいでようやく使えるようになったことを思えば、今使えなくてもなにも問題はないんだけどね。
とにかくマジコンカーで遊びたいらしく、飽きずに魔道具の練習を頑張っている。
オーグのところの王子であるノヴァ君もショーンと同じ理由で魔道具の練習をしているのだそうだ。
そんな感じで日々を過ごしていると、あっという間に夏季休暇になったというわけである。
高等魔法学院在学中から、夏になると一度はユリウスの実家であるリッテンハイムリゾートで過ごすことが定番になっており、数日後にはそちらに向かう予定になっている。
そして今日、夏季休暇二日目なのだが、俺たちは今、旧帝国領で現アールスハイド領になっている、旧帝都を訪れている。
目的は……お墓参りだ。
旧帝都は、魔人や魔物たちによって住民が一人残らず惨殺され、俺たちが踏み込んだときには人っ子一人いないゴーストタウンと化していた。
シュトロームや魔人の残党を全て倒し、旧帝都を奪還したあと復興させるにあたって、壊されずに残った建物などはそのまま流用された。
元々の住民であった帝国人たちが皆殺しにされた街は気味が悪いという人もいたけれど、この規模の街を一から作り直すのは、時間的にも物的にも現実的ではない。
なので、無事な建物はそのままに、修復可能な建物は修復し、破壊された建物だけ一から作り直すことにした。
この世界には魔法があるため、土木工事や建築工事は迅速に行われ、今では移住者も多く住み賑わいを見せ始めている。
そして、旧帝城なのだが、ここは俺たちの戦いによって大部分が破壊されてしまったので取り壊され、中央公園として整備された。
中央公園の真ん中には『魔人王戦役最終決戦の地』という記念碑も建っている。
その中央公園の一角に、小さな墓地がある。
シュトロームによる蹂躙で亡くなってしまった旧帝都民たちの慰霊碑や、あのとき俺たちが討伐した魔人たちの合同墓地などがある。
あとは、移民が始まってから亡くなった方の墓地としても利用されている。
その墓地の中のとある墓の前に、俺たち家族が揃って並んでいた。
「さあシルバー、お参りしてあげて」
「うん」
シルバーは頷くと、手に持っていた花束を墓石に供え、手を組んで目を閉じ祈りを捧げた。
俺とシシリーも、このお墓に眠っている人の最期を思い浮かべ、冥福を祈った。
「ねえ、ぱぱ、まま」
「ん?」
「どうしたの? ショーン」
三歳になって色々と物事が理解できるようになったショーンは、最近色んなことに疑問を持つようになった。
「だれ?」
誰、とは、このお墓に眠っている人のことだろう。
今日は誰のお墓参りに来たのかと聞きたいみたいだ。
俺は、ショーンの横にしゃがみ込み、まだ祈りを捧げているシルバーを見た。
「ここは、シルバーの……お兄ちゃんを産んだお母さんのお墓なんだよ」
「? まま、いるよ?」
ショーンの言葉に、俺とシシリーは苦笑を漏らす。
やはり、まだ生みの親とか育ての親とか、そいうことは理解できなかったか。
どうやって説明しようかと思っていると、シャルが簡潔に行った。
「おにーちゃんには、産んでくれたママと育ててくれたママと、二人ママがいるの」
「まま、ふたり?」
「そう。私たちはママ一人なのに、ズルイよね」
「「ぷっ」」
ママが二人いてズルイって……そんな考えをするとは思いもしなかった。
大抵血の繋がりがない兄妹とかは、その事実が発覚した際よそよそしくなることが多いと思っていた。
しかし、シャルはその事実を知ってもなんら態度を変えなかった。
幼かったからかもしれないが、シャルにとって、血が繋がっているかどうかは関係ないらしい。
シルバーは兄で、それ以上でもそれ以下でもない。
それよりも、シャルにとってママとはシシリーのことで、優しく包容力があっていつも微笑んでいる、なによりも安心できる対象。
初めのころはシャルも意味が分からなかったらしいが、成長するにつれてそんな人が二人もいるシルバーのことが羨ましい、という考えになったらしい。
前向きというかなんというか、こういうシャルの考え方には物凄く助けられる思いがする。
正直、成長していって血の繋がりがない兄妹であることを自覚したら、妙なことになるんじゃないかと危惧していたこともある。
アールスハイド王国の法では、血の繋がりがなければ兄妹でも結婚できるからな。
実際、シルバー大好きなヴィアちゃんは、シャルのことを親友で姉妹のような存在だと公言しているが、シルバーに対してだけはメッチャ警戒している。
家族で四六時中一緒にいるから、いつか家族としての親愛が恋愛に変わるんじゃないかと思っているらしい。
ただ、まあ、シャルの様子を見ている限り、そういう感情になるとは思えないけどなあ。
そうこうしているうちに、シルバーのお参りも終わり、俺たちのもとに戻ってきた。
「お待たせお父さん、お母さん」
「ああ。ちゃんと挨拶したか?」
「うん」
「そう、良かった。じゃあ、どうしましょうか? ちょっと街を見て行きますか?」
「たんけん! 新しい街をたんけんしたい!」
「ぼくも!」
お墓参りも終わり、これから新しい街でも見て行こうかとシシリーが言うと、シャルとショーンが探検に行きたいと飛び跳ねながらアピールしてきた。
「そうだな。それじゃあ、新しい街になにがあるのか、皆で探検しようか」
「うん」
「やった!」
「わーい!」
シルバー、シャル、ショーンの三人の返事により、新しい街の探検……散策が決定した。
「じゃあ、皆迷子にならないように手を繋いでね」
シシリーがそう言うと、シャルがシルバーの右手を、ショーンが左手を持った。
「ええ? ちょっと、僕、手が使えないよ」
「だめ! おにーちゃんはいもーとから手を離しちゃだめなの!」
「おとーとも!」
両手が塞がれて抗議するシルバーに対し、シャルとショーンが全力で手を離すことを拒否した。
やっぱり、この三人にはなんの危惧も無い。
血の繋がりがあろうがなかろうが、お兄ちゃんはお兄ちゃんだし、妹と弟は妹と弟だ。
この関係が変わることはないだろう。
あっさり却下されたシルバーは、苦笑しつつ二人に話しかけた。
「じゃあ、手を離しちゃだめだからね?」
「「うん!」」
シャルとショーンは、元気に返事をすると、シルバーの手を引いて歩き始めた。
「って! ちょっと待て! 言った側から迷子になるようなことをするんじゃない!!」
「あらあら、まあまあ」
慌てて三人のあとを追いかける俺とシシリーの顔には、言葉とは裏腹に笑顔が浮かんでいた。




