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賢者の孫  作者: 吉岡剛
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約束してもらいました

 シュトロームから、世界の命運を賭けたゲームへの参加を半ば強制的に承諾させられた俺達は、各国の兵士達を数名見張りに残し、それ以外の兵士達はゲートで国へ帰した。


 旧帝都を含む一帯を巨大な塀で囲ってしまったし、シュトロームはこの事態を楽しんでいるように見えることから、壁を破って攻めてくることはないだろうという判断が下されたからだ。


 兵士達を国へ送り返した俺達は、ガランさんや各国の指揮官達と共に、アールスハイドの王都に戻ってきた。


 首脳会議の前に、ひとまずあの現場にいた指揮官達と協議をするためだ。


 もっとも協議と言っても、指定された期限である一ヶ月の間に、どうやって戦力を増強させるかって話なんだろうけど……。


 一ヶ月という、そんな短い間になんとかなるもんなのか?


 そんな絶望的ともいえる状況であるため、会議室に向かって王城の廊下を歩いている皆の表情は、一様に暗かった。


 ……こうなったら、皆からどんな目で見られてもいいから、俺が全力で……。


「すまなかったな、シン」


 どうしようもない状況で、俺が最後の手段を考えていると、オーグから唐突に謝られた。


「なに謝ってんだ?」 

「お前が作った馬車の初乗りを、私達が奪ってしまったことだ」


 ああ、そのことか。


 聞けば相当な緊急事態だったみたいだし、そのことでとやかく言うつもりなんかない。


「そんなことで謝んなよ。緊急事態だったんだから仕方ないだろ。ああ、でも……」

「……なんだ? やはり、何か気になることでもあったか?」


 オーグに謝罪されたが、緊急時にそんなこと言う程狭量じゃないつもりだ。


 でも、一つだけ心残りがあるんだよな。


「いや……初めて皆があの馬車に乗った時の驚く顔が見れなかったのが残念だなあと……」


 そう言ったら、オーグから白い目で見られた。


「……ああ、十分驚いたさ……なんなのだ、あの馬車は? 揺れないのとスピードが出ることは聞いていたが……」

「温度は快適ですし、なんか冷蔵庫もありましたよ?」

「室内も明るかったね!」


 オーグに、サスペンションとパワーアシストのことは教えてたけど、それ以外は思い付くままに作ったからなあ。


 トールがエアコンと冷蔵庫のことを、アリスが照明に気が付いたようだ。


「お前、あの馬車に一体いくつの魔石を使っているのだ?」

「えーっと……いくつだったかな?」

「はあ……売りに出したら、一体どれ程の値が付くのか想像もできんな」


 取り付けた魔石の数を指折り数えていると、オーグが溜め息と共にそんなことを言った。


「安心しろ、売らないから」

「当たり前だ! 既存の馬車業者から仕事を奪わないというから、サスペンションとベアリングを黙認しているというのに、あんな物を売り出したらいくつの業者が倒産するか分からんわ!」

「いや、だから自分用の馬車に付けたんじゃん」

「まったく……お前という奴は……照明と冷蔵庫、それに温度調節か、それ以外は付けてないだろうな?」


 失業者を出す訳にはいかないから自分用の馬車に付けたというのに、オーグから怒られた。


 なぜだ?


 そして、他に付与しているものがないか確認されたけど……。


「……ああ、そういえば……」

「なんだ!? なにを付けた!?」


 色々と思い出していると、今回の目玉というべき物を付与していたことを思い出した。


 すると、それに異常にオーグが食いつく。


「浮遊まほ……」

「おまっ……!」

「着きましたよ、二人とも」


 馬車が轍にはまった時なんかの脱出用に付与した浮遊魔法のことを話そうとしたら、オーグが食い気味に突っ込んできた。


 けど、丁度会議室に着いたところだったので、トールからストップがかかった。


「……仕方がない。シン、そのことについては後程じっくりと話を聞かせて貰うぞ?」

「ええ? 緊急用だぜ?」

「本当か? 後で必ず確認するからな」


 今は追求より、報告と協議の方を優先したんだろうけど、後で必ず確認すると、オーグから怖い目で見られた。


 だから、緊急脱出用だってば。


 今のところは……。


 会議室の前に立っていた兵士さんが、中にいる人達に声をかけ、了承が出たので扉を開ける。


 中にいたのは、ディスおじさんとドミニク軍務局長、それにルーパー魔法師団長だった。


「戻ったかアウグスト。通信兵から先んじて状況報告は受けているが……大変なことになったな」

「はい。一ヶ月後、お互いの存亡を賭けたゲームへ強制参加させられてしまいました。このような事態を回避できず申し訳ありません」


 俺達が報告するまでもなく、すでにディスおじさんに報告は入っていたみたいだ。


 使い始めて大分経つから、アールスハイドは通信機の運用に大分慣れてきてるな。


 ディスおじさんからすでに報告を受けている旨を伝えられると、オーグはこの事態を防げなかったことを詫びた。


「謝罪は無用だ。シュトロームからの一方的な話だったと聞いている。それよりも、この事態をどうするかだが……」


 オーグの謝罪を許したディスおじさんが、今後のことについてどうするべきかと頭を悩ませている。


 恐らく千は超すであろう災害級の魔物に、今までより強い魔人。


 俺達で魔人は対応するとしても、災害級の魔物を放置するわけにもいかない。


 かといって、アールスハイドを始めとする各国の兵士だけで災害級の魔物の群れを相手にするのは……。


「今回、数十体の災害級の魔物相手に、我がアールスハイドの軍勢は全滅しかけました。その数十倍の規模となると……」

「……絶望しか感じられんな……」


 今回の規模ですら全滅しかけたことをオーグが指摘すると、ディスおじさんは絶望という言葉を口にして頭を抱えてしまった。


 大国アールスハイド王の絶望という言葉に、この場に同席している各国の指揮官達も重く口を閉ざしたままだ。


 どうしようもない事態に、会議室に重苦しい空気が流れる。


 そんな絶望的な状況であるならば、やっぱり俺が全力でどうにかしようかと言いかけた時、口を開いた人物がいた。


「恐れ入ります陛下。よろしいでしょうか?」

「なんだ? ドミニク」


 口を開いたのは、ドミニク軍務局長だった。


「はい。事、ここに至っては、最早騎士としての矜持だのなんだのと言っておられません。そこで、ウォルフォード君にお願いしたいことがあるのですが……」

「俺に?」


 軍務局長が俺に頼み? なんだろう。


「ウォルフォード君には、すでにジェットブーツという機動力を大幅に上昇させる魔道具の供与を受けています。さすがにこれ以上魔道具の力に頼るのは、騎士としての矜持に反すると拒んでいたのですが……」

「魔道具? ああ、バイブレーションソードか」


 言い淀んだドミニク局長の言葉を、ディスおじさんが引き継いだ。


 ジェットブーツとバイブレーションソードは、山奥の家にいた頃から使っていたからディスおじさんも知っている。


 っていうか、ナイフ型のものはディスおじさんにも渡してあるし。


「なんですか陛下? バイブレーションソード?」


 二人で納得しているディスおじさんとドミニク局長を見て、ルーパー魔法師団長がなんのことかと尋ねる。


 あれ? ルーパーさんには見せたことなかったっけ?


「ルーパーは見たことなかったか? シン君が使っているよく切れる剣があるだろう」

「ああ、はい。あの災害級の魔物や魔人すら簡単に切った剣ですか。あそこまでの切れ味ならば、相当な業物なのでしょうな」

「そうでもないぞ? 私も持っている」


 あの剣が魔道具だと知らないルーパーさんは、相当な業物だと思っているらしい。


 そんなルーパーさんに、ディスおじさんは懐から取り出したバイブレーションソード……じゃなくてバイブレーションナイフを見せる。


「おお、陛下もお持ちでしたか」

「見てみるか?」

「よろしいのですか?」


 そう言いながらディスおじさんからバイブレーションナイフを受け取るルーパーさん。


 恭しく受け取ったルーパーさんは、早速そのナイフを褒めようとするけど、元々安物のナイフに魔法を付与したものだからなあ……褒めるところなんてないだろ。


 国王の持つ物だからさぞ素晴らしいものだろ思ったんだろう、ルーパーさんは必死に褒めようとするけど……。


「これが……ええと、なんというか、その……そう! この光沢が!」


 そんな姿を見てディスおじさんは苦笑しながら真実を告げる。


「元は安物のナイフだからな、無理に褒める必要はないぞ」

「あ、そ、そうでしたか。で、ですが、これがウォルフォード君の持っている剣と同じというのはどういうことですか?」


 どこにでも売っている安物のナイフと、さっき話に出てきた俺の剣がルーパーさんの頭の中で結びつかないみたいだ。


「さっき、ドミニクは魔道具の力に頼るのを良しとしないと言っただろう。魔道具なんだよそれは」

「刃物の魔道具……しかし、ウォルフォード君の剣は特別光ったり熱くなったりした様子は……」


 魔道具であるとの言葉に、余計に混乱していくルーパーさん。


「とにかく、その間に魔力を流してみろ」

「は、はい」


 ディスおじさんに言われるがままにナイフに魔力を流すルーパーさん。


「こ、これは」


 すると、振動しだしたナイフに驚くルーパーさん。


「シン君。何か切るものないかい?」

「これでいい?」

「なぜ丸太を……」


 ディスおじさんの要望に応えて、いつもなぜか異空間収納に入っている丸太を取り出して、疑問を口にするルーパーさんに渡す。


「そのナイフでこの丸太を切ってみろ」

「え? ナイフで丸太を?」

「いいから試してみろ」

「は、はい」


 ナイフで丸太を切れというディスおじさんに戸惑うルーパーさん。


 普通、丸太を切るのはノコギリとか斧だからな。ルーパーさんが戸惑うのも分かる。


 切れる訳がないと思いつつ、国王の命令なので訝りながらもナイフを丸太に当てていくルーパーさん。


 すると……。


「な!? こ、これは!?」

「驚いたか?」

「私も初めて見た時は驚きました」


 今までの口振りから、ドミニク局長もバイブレーションソードのことを知っていたみたいだ。


 クリスねーちゃんあたりから見せてもらってたのかも。


「そのナイフ自体は普通の、どこにでもあるナイフだ。しかし、付与されている魔法が普通じゃない。まあ……どういった理屈かは全く分からんがな」


 まるで、豆腐を切るかのように丸太を切ってしまったナイフを手にして呆然としているルーパーさんと、その光景を見て驚愕している各国の指揮官達。


 そんな彼らを横目に、ドミニク局長が俺を見ながら先程の依頼の続きを話し出した。


「この付与を、我々騎士団の剣にも施してもらいたい」


 そう口にした後、ドミニク局長は少し悲しげな表情をした。


「正直、この剣にだけは頼るまいと思っていたのだがな……最早、そんな小さなプライドに拘っている場合ではないのだ。そんなものに拘っていたら世界が滅んでしまう。どうか……どうか頼む」


 ドミニク局長はそう言うと、机に手をつき深々と頭を下げた。


「ちょっ! やめて下さいドミニク局長!」

「シン君、私からも頼む」

「ディスおじさんまで!?」


 大国アールスハイドの王と軍務局長が揃って頭を下げるという異常事態に、各国の指揮官達は仰天していたけど、何を思ったか彼らも俺に頭を下げてきた。


「ウォルフォード君! この付与を我々の剣にも施してくれ!」

「頼む! この通りだ!」

「シン。付与ってんならハルバードにも出来るんだろう? 頼む! 俺らのハルバードにも付与してくれ!」


 大の大人が、それも各国のトップクラスが俺に頭を下げる光景に、俺は大いに戸惑った。


「分かりました! 分かりましたから、頭を上げて下さい!」

「そうか! なら早速……」

「ああ、でも」

「なんだいシン君。何か気がかりなことでもあるのかい?」


 早速付与をお願いしようとしたディスおじさんを制して、どうしても言っておかなければいけないことを告げる。


「この戦いが終わったら、全て回収するか付与を取り消します。なので、管理の徹底をお願いします。でないと……」

「でないと?」

「……ばあちゃんに殺される……」

「全員聞いたな!! シン君が付与した剣は徹底的に管理しろ!! いいか! 絶対だぞ!!」

『は、はい!』


 俺の言葉を聞いたディスおじさんが、ものすごい形相でドミニク局長や各国の指揮官達に管理の徹底を要求した。


 そのあまりの形相に、皆戸惑いを見せている。


「ウォルフォード君のお婆様というと、導師メリダ様ですよね? 殺されるとは大袈裟な……」


 指揮官の一人が、そんな幻想を口にする。


 ばあちゃんのことを知らないのか?


「お前達は本や舞台でのメリダ師しか知らないだろうが……現実は酷なものなのだよ」


 現実のばあちゃんを知っている中でも、特にディスおじさんはばあちゃんの恐ろしさが身に染みているんだろうなあ。


 少し遠い目をしながら、現実は無情なものだとしみじみと語っている。


 それにしても、俺は本とか舞台の方を知らないけど、そんなに美化されてんのか……。


「とにかく、本物のメリダ師は相当に厳しい御方だ。孫であるシン君の不利益になることには特にな」

「そ、そうなんですかい?」


 ディスおじさんの言葉に、ガランさんがゴクリと息を呑む。


 本や舞台の美化された二人しか知らないと、中々受け入れられないのかもしれない。


 それに、長く爺さんと共に隠居していたばあちゃんの本質を知らなくても無理はない。


 とにかく……。


「本当に管理は徹底してください。殺されるのは大袈裟にしても、どんな折檻を受けるか……」


 想像しただけで背筋が震えた。


「神の御使いと言われるウォルフォード君がそこまで恐れるとは……」

「そんなに恐ろしいのですか?」


 イマイチピンと来ていない皆さんに、具体的に分かりやすい例えをしてやろう。


「じいちゃんが恐れるくらいですね」

「け、賢者様が!?」

「わ、分かりました! 管理の徹底をお約束します!」


 ばあちゃんは魔道具で有名だけど、爺さんの名は、今まで最強の代名詞だった。


 その爺さんが恐れるという言葉は、今までピンと来ていなかった指揮官さん達の心に響いたようだ。


 全員、管理の徹底を約束してくれた。


「そうか、良かった。これでどうにか光が見えてきたな」

「はい陛下。まだ実際のバイブレーションソードに慣れるという作業がありますが、ここには実際にバイブレーションソードを利用しているウォルフォード君がいます。彼にレクチャーを受けながら練習すれば、使いこなせるようになるのも時間の問題でしょう」

「あ、トニーも使ってますよ」

「おお、そうか! それは心強い!」

「もう一人いますよ」


 ようやく解決の糸口が見えたというディスおじさんとドミニクさん。


 俺だけじゃなくてトニーも使えると言ったところ、マリアからもう一人いると声があがった。


 そういえば、もう一人バイブレーションソードをあげた子がいたっけ。


「そういやミランダにもあげたんだっけ」

「ずっと一緒にいたからね。あの子、相当使いこなしてるよ」


 ほう、ならミランダにも手伝ってもらうかな。


 今年度、騎士養成士官学院二年の首席になったっていうし。


 俺の頭の中で、ミランダの訓練強制参加が決定した瞬間だった。


 訓練生ではなく、教官として。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 その頃、アールスハイド騎士養成士官学院では。


「ハックション!」

「どうした? ミランダ。風邪か?」

「……そうかも。ちょっと寒気がするわ」


 シンからバイブレーションソードを譲り受け、その剣で日々魔物討伐に明け暮れるミランダが、原因不明の寒気に襲われていた。

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魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[一言] 「教官」と聞いて,「やりすぎのウォークライ」や「仁義なきファンシー」を思い出しました。
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