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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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10-③

 マデリンの驚きなど構わず、アウルは言葉を続ける。


「マデリン。君に賭けを提案して五年。いろいろなことがあったな」

「ええ」

「私は友人として、君の隣にいることだけが救いだった」

「それって……」


 マデリンは言葉を探した。

 なんと言っていいのかわからなかったのだ。

 アウルは小さく笑う。


「君が婚約をしたとき、君の近くにいる方法を探した。その結果が友達だ。友としてでも、君の側にいたかった」


 マデリンは小さく頷く。そして、アウルの隣に座りなおした。


「君から結婚を提案されたとき、臆病者の私はただそれを受けることしかできなかった」


 アウルがゆっくりと息を吐く。

 マデリンはただ言葉を待った。


「この言葉を言って断られたら、友としても側にいられなくなる。それが怖かったんだ」


 アウルは立ち上がると、マデリンの前でひざまずいた。マデリンの手を取る。

 ほんの少し冷たい指先が触れて、マデリンの鼓動は早歩きになった。


「マデリン。私は君が好きだ。ずっと昔から。だから、結婚をやめるなんて言わないでほしい」

「アウル……」

「君に気持ちがなくても構わない。好きなだけ利用してくれ。だから、私の側にいてほしい」


 アウルはマデリンの手に額を押しつけた。

 わずかに震える手。さらに冷えていく。

 マデリンは唇を嚙み締めた。


「馬鹿ね……」


 なんて馬鹿なのだろう。


「もう、最初から賭けなんて成立していなかったんじゃない」


 マデリンの目から涙があふれた。

 頬を伝ってアウルの手に落ちる。彼は慌てて顔を上げた。


「マデリン?」

「この五年、私の心にはいつも一人しかいなかった」


 ルイードの婚約者として立っているときも、マデリンはいつもアウルの存在を探していた。

 友情なんてものは最初からなかったのだ。

 アウルの瞳が揺れる。


「好きよ、アウル。ずっとずっと好き」


 好きだったから手放すつもりだった。

 これ以上アウルの足手まといにはなりたくなかったから。


「トルバ家はあまりいい状況とは言えない。それでも、いいの?」

「そんなもの。大した問題じゃない。今が底ならあとは上るしかないだろう?」


 自信に満ちた顔にマデリンは小さく笑った。

 アウルは咳払いをすると、真面目な顔でマデリンを見上げる。そして、背筋を伸ばした。


「マデリン。いや、マデリン・トルバ嬢。どうか、私と結婚してほしい」

「プロポーズは二度目ね」

「こっちが本番だ。答えを聞かせてくれないか?」


 手を差し伸べられ、マデリンは唇を嚙み締めた。

 喉の奥まで熱いものがこみ上げてきている。

 今にも涙があふれてしまいそうだ。


「傷物だもの。私がもらってあげないと、相手が見つからないでしょう?」

「ああ、そうだ。責任は取ってもらわないと」


 マデリンはそっとその手に手を重ねる。


「いいわ。責任をとって、結婚してあげる」


 マデリンの返事にアウルは破顔した。

 彼は嬉しさのあまりか、勢いよくマデリンを抱きしめる。


「……っ!」

「ちょっと、怪我してるんだから、気をつけてよ」

「ああ、嬉しくて忘れてた」

「もう……」


 マデリンは眉尻を下げる。

 アウルは傷口をさすりながら、マデリンの隣に座りなおした。


「ところで、賭けはマデリンの勝ちということになるんだが……」

「え、そうね」

「何がほしい?」

「何かくれるの?」

「ああ、もちろん。そのつもりだ」

「そう言われても……」


 五年前に提案されたのは、あってないような賭けだ。マデリンが「友達を辞める!」と言ってしまえば終わりというマデリンに有利なものだった。

 その上、何かを貰うなんて考えてもみなかったのだ。


「欲しいものは全部手に入ってるもの」


 父に奪われたものは、すべてアウルが取り戻してくれた。

 そして、一番欲しかったアウルとの結婚も手に入った。

 他に何か望んだら罰が当たってしまいそうだ。


「一つだけあったわ」


 マデリンは飛び跳ねるように立ち上がる。


「アウルにしかできないことよ」

「なんだ?」


 マデリンは口角を上げた。


「恋人」

「……こい、びと?」

「ええ、私、恋人が欲しかったの」


 友達でも婚約者でもない。恋人だ。

 アウルは目を丸くする。

 しかし、すぐに笑顔になった。アウルはマデリンを追うように立ち上がる。そして、マデリンの腰を抱く。

 まるでダンスをしているときのような距離に、マデリンの心臓は早くなる。


「では、まずは恋人の口づけなどいかがでしょうか?」

「なにそれ? そういうのは黙ってするのが紳士だと思うわ」

「悪い。こういうのは慣れてないんだ。なにせ、一途な男だからさ」


 アウルは小さく笑うとマデリンの頬を撫でる。


「なら、しかたないわね」


 マデリンは笑いながら瞼を落とす。

 唇がゆっくりと重なった。

 長くて短いように感じた五年間を思い出す。


(つらいことはたくさんあったけど、悪くない五年間だったわ)


 夜会の会場で並んで話すだけだった日々も、二人で走った草原も、全部、全部がマデリンにとって大切な思い出だ。

 マデリンはアウルの背中に腕を回した。


 FIN

最後までマデリンとアウルの物語をお読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。

感想などいつも励みになっておりました!


最後に★で応援していただけたら、作者の活力になります。


【宣伝】

別作品になりますが、『狼皇子の継母になった私のもふもふ家族計画』が9月13日ころGAノベルさんから発売になります。

第二章の連載を開始しましたので、是非これを機に読みに来て頂けたら、嬉しいです^^

子育て×もふもふ×契約結婚ものです。

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― 新着の感想 ―
マデリン嬢の父がいう「姉」は、たぶんマデリンのようにきちんと自分を持っていて、祖父に可愛がられていたんだろうなぁ。 そしてそれを見ていたマデリンの父は、妬ましく思っていたんでしょうね。 だから自分の娘…
完結ありがとうございます!最初から最後まで気が強くて頼もしく高潔なマデリンに心が惹かれっぱなしでした。アウルもそっと寄り添うだけでなくちゃんと決めてくれて格好良かった!素敵な話をありがとうございました…
ツンデレは、相手側の理解がないと成り立たない。 は〜、良いツンデレでした(ほっこり)。
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