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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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1-⑦

 アウルのテントにはいくつも猟銃が置いてある。ここまで用意して、大会に参加しないのは何か意味があるのだろうか。

 マデリンは並べられた猟銃を順繰りに見ていった。


「これはコレクションの中でも気に入っている」


 アウルはマデリンに一丁の猟銃を手渡した。ずっしりと重い。

 しかし、装飾が施されていて高価だとわかる。


「こんな派手なの、狩りには向かないわ」

「でも、オジサンたちには人気がある」

「そう」


 狩りよりも銃に興味がある人はそうなのだろう。

 実用的かどうかよりも美しさを求める。

 マデリンはアウルに薦められるがまま、次々に猟銃を構えた。

 どれも軽すぎるか重すぎる。

 それでも、楽しかった。こうやってアウルと猟銃について話すのはいつぶりだったか。

 友人として、会えば普通に話す。しかし、男と女。互いに婚約者のある身だ。二人は節度を守っていた。


「これが最後だ。最近手に入れた」


 もう終わりかと、がっかりしながら最後の一丁を構えた瞬間、身体中に衝撃が走った。

 しっくりときたのだ。

 まるで長年連れ添った夫婦のように。すべてがマデリンに合わせたかのようだった。

 よくよく見れば、グリップの部分に傷がある。

 この傷には見覚えがあった。まだ狩りを始めたばかりのころ、マデリンがつけてしまった傷によく似ている。

 いや、マデリンがつけた傷だろう。

 これは祖父から譲り受け、両親に捨てられた祖父の形見。


「アウル、これを売って」

「なんだ、気に入ったのか?」

「ええ、いくらでも出すわ」

「いや、いらない。やるよ。結婚祝いだ」


 アウルは目を細めて笑う。

 結婚祝い。

 マデリンはその言葉に鼻で笑った。


「間違いよ」

「なぜだ? そろそろ結婚だろ?」

「いいえ。これから、婚約破棄祝いになるの」


 アウルが呆然とマデリンを見つめた。

 マデリンは銃に弾を込める。そして、アウルのテントを後にした。


 ***


 テントの中から甘い声が響く。


「だめよ。みんな近くにいるのに……」

「だいじょうぶ。みんな山の中だ」

「あなたはいいの?」

「僕はここにいる可愛いウサギを狩らないと……」


 マデリンはテントの前で小さく笑った。

 マデリンはすべてを運命に委ねることにしていた。

 浮気性の婚約者。小さなことでマデリンを鞭打つ父親。そして、ひとりで生きていく勇気のない自分自身。

 どうせつまらない人生だ。

 だから、運命に出会えたら。そう、決めていた。


「ルイード……」


 甘い声がルイードの名を呼ぶ。

 マデリンは勢いよくテントに入った。


「きゃっ!? 誰!?」


 噂の伯爵令嬢が脱げかけのドレスをひっつかんで身体を隠す。

 上半身裸のルイードは振り返った瞬間、目を細めた。


「どうした? マデリン。何か用かな?」

「私、ずっと考えていたのよ。このままでいいのかって」

「何が言いたい?」

「この五年、どれだけ私が目をつぶってきたと思う?」

「君には公爵夫人という栄誉を与えるんだ。これくらい我慢できなければ公爵夫人にはなれない」

「別にね、あなたがどこの女と寝てもいいの。あなたに興味がないから。でも……」


 でも。

 マデリンは猟銃を構えた。


「運命に出会ったから。いいえ、運命が私の元に戻ってきてくれたの」

「い、意味がわからない……! マデリン、やめろ!」


(お祖父様、私は思うの)


 運命っていうのは案外すぐ近くにいるんだって。

 近くにいすぎて、それがマデリンの運命だと気づかなかったのだ。

 祖父とともに何度も店に猟銃を試しに行った日々。

 あのとき、マデリンは自分だけの猟銃がほしかった。祖父のお下がりではなく、自分のために作られた自分だけの猟銃。

 だから、初めて猟銃を構えたその日から寄り添っていてくれたこれが、マデリンの運命だと気づけなかったのだ。

 しかし、五年の時を経て戻って来た。


「今日の大会は一番の大物を仕留めたら、大きなエメラルドが貰えるそうよ」

「そ、そうか……」

「私の婚約者は持って来てくれそうにないから、自分の力で手に入れようと思うの」

「ど、どういう意味だ?」

「人間一人で勝てるかしら?」


 マデリンは冷静に声で呟いた。


「いやっ! やめて! 私はただ彼に誘われただけよ!」

「静かにして。久しぶりだから手元が狂うわ」


 マデリンはためらいもなく引き金を引いた。


 バンッ。


 大きな音がテントを越え、外まで響く。

 弾はルイードと令嬢のあいだを通り、大きなソファに穴を開けた。

 狙いどおりの場所だ。

 令嬢は泡を吹いて倒れた。豊満な胸を露わにして。

 ルイードは失禁している。彼は足をガクガクと震わしながら、マデリンを見つめた。

 一歩近づくと、身体がびくりと跳ねる。


「ごめんなさい。私、猟銃を振り回すほど野蛮なの。どう? 婚約破棄、したくなった?」

「な、なにをしたのか、わ、わかっているのか?」

「私が質問しているのよ。婚約破棄、するのしないの?」

「お、おまえのような野蛮な女、こちらから願い下げだ!」

「そう、よかった。すぐに手続きをお願いね」


 ルイードが何度も頷く。

 すると、銃声を聞きつけた人々がテントに集まって来た。


「何があった!?」


 大勢の声が聞こえる。

 マデリンは大切な猟銃を抱えて、座り込んだ。

 何人もの人がテントの中に入ってくる。そして、全員がその光景を見て立ち尽くした。

 豊満な胸をあられもなく出したまま倒れている伯爵令嬢と、その側にいる半裸のルイード。

 そして、ルイードの婚約者であるマデリンは猟銃を抱えたまま涙を流す。

 誰かが声を駆ける前にマデリンが口を開いた。


「ルイードに大会に参加したいと言おうと思ったら、二人が……。そしたら、驚いてしまって……」


 マデリンはポロポロと涙をこぼし、声を震わせた。

 その一言で誰もが状況を理解しただろう。

 浮気現場を見たマデリンが驚いて起こした事故だと。

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運命が…帰って来た!!(泣)
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