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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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9-⑪

 マデリンはにこやかに笑みを浮かべた。

 その問いは想定内だ。

 この狩猟大会に参加すると決めたときから、アウルたちと相談を重ねてきた。


「殿下に覚えていただき光栄です」

「もちろんだ。体調を崩していると聞いていたが……」

「はい。長いあいだ体調を崩していたのですが、だいぶ調子が戻って参りました。ぜひ、今回の狩猟大会に参加したいと父にお願いしたのですが、心配されてしまいまして……」


 マデリンは眉尻を下げる。

 王太子は納得顔で頷いた。


「親とはそういうものだろう。私もよく父王に心配をかけている」

「はい。ですが、本日は殿下の大切な日。少しでも参加したいと思い、婚約者のアウル様に相談をさせていただきました」

「その気持ち、感謝する。しかも、一人の命を助けたとあってはあまり咎められないな」


 王太子は小さく息を吐いた。

 タイミングを見計らって、アウルがマデリンの隣に並ぶ。そして、マデリンに助け船を出した。


「殿下、マデリン嬢がいなければ、ナターシャ嬢は助けられなかったかもしれません」

「そうか。二人とも、よくやった」

「私たちは当然のことをしたまでです」

「しかし……なぜこの者はナターシャ嬢を狙ったのか」


 王太子は地面に転がる男のもとへと歩いた。王太子の従者たちが慌てて男を拘束する。

 少しでも王太子に危害を加える隙を与えないためだろう。

 男は朦朧とした目で王太子を見つめた。


「この者はルイードの従者だというのは本当か?」

「……はい。アレス家の使用人で間違いありません」


 ルイードが硬い表情で言った。


(全部吐いてくれれば楽なんだけど……)


 男に忠誠心があるのか。そこが問題だ。

 マデリンは静かに男を見つめた。

 王太子は虚ろな目をした男には問う。


「なぜ、ナターシャ嬢を狩場に誘い出し、命を狙った?」


 男の目は王太子をとらえ、そしてまた離れていく。

 悩んでいるようにも、葛藤しているようにも見える。

 いや、ルイードの視線に怯えているのかもしれない。

 素直に言っても、ルイードの名を出さなくても、この男に未来はないのだから。


「今回、幸い被害は出ていない。事実を話せば、温情を与えよう」

「殿下っ!?」


 王太子の言葉に誰よりも早く反応したのは、ルイードだった。


「彼はアレス家の使用人です。アレス家で罰を与えましょう」

「いや、これは私が主催した狩猟大会で起こった。私が裁量すべきだ。そうは思わないか?」


 王太子はみんなに視線を巡らせた。

 貴族たちは深く膝を折り、「そのとおりでございます」と答えるだけだ。

 王太子の見えないところで、ルイードは奥歯を噛み顔を歪めた。


「さて、男。話せ。なにゆえ、私の狩猟大会でこのようなことをしでかした」


 王太子の怒りは男に向けられた。

 この狩猟大会は、王太子にとって大切なものだ。王位継承権第一位の威厳を見せなくてはならないのだから。


(あのとき、アウルを止められて本当によかった)


 マデリンは思い出して震えた手を握りしめる。

 もしも、アウルが引き金を引いていたら、この男ではなくアウルが王太子の怒りをぶつけられていたのだ。

 しばらくの沈黙のあと、男はブルブルと身を震わせたながら口を開いた。


「も、申し上げます。すべては若様の指示でございます」

「何を言っているんだ!?」


 男の告白にルイードが叫んだ。

 すぐさま王太子の従者がルイードを取り押さえる。

 王太子はルイードを一瞥したのち、男に向き直した。


「続けよ」

「ナターシャ様は公爵夫人になるには狭量で、振る舞いもよろしくありません。若様はナターシャ様との婚約を白紙にしたいと考えておいででした」


 男は震える声で、しかしはっきりと言った。

 王太子の温情を期待してのことなのか、それとも諦めてしまったのかはわからない。

 動機はマデリンとアウルが想像していたとおりだった。

 そして、計画も。


「ルート家の若様に罪を着せ、再びマデリン様との婚約をと考えておいででした……。これが、すべてでございます」


 男は深く深く頭を下げ、地に頭をこすりつけた。


「この男の処分は後ほど決める。牢に連れて行け。ルイード、そなたからも詳しく話を聞かなければならないようだ」


 ルイードはわなわなと震え出した。

 ナターシャがルイードの足にすがりつく。


「ルイード様、嘘ですよね? ルイード様が私を……だなんて」


 ナターシャの声は震えていた。

 愛している相手に命を狙われていたと知って、正気でいられるわけがない。

 ルイードはナターシャを蹴ると、叫び声を上げた。


「うううううう……! おまえ達のせいだっ!」


 ルイードは従者の腕の中で暴れる。王太子の従者を蹴り上げ、彼の腰にあった剣を引き抜く。そして、それを振り上げた。


「うああああああああ!」


 その剣はまっすぐマデリンに向かっている。しかし、マデリンは突然のことに動けずにいた。剣を振り下ろすルイード、そんなルイードを止めようとする従者たち。


「マデリンッ」


 名前を叫ばれ、われに返る。

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