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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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9-⑨

 マデリンは躊躇いなく引き金を引いた。

 弾はまっすぐアウルの猟銃の先端に当たる。アウルの猟銃は宙を舞った。

 まるで時間がゆっくり流れているように感じる。

 アウルは驚きに目を見開き、ゆっくりとマデリンに視線を向けた。


「マデリン様!?」


 誰よりも早く、従者の一人が驚きの声を上げる。

 それを合図に二人の従者がマデリンに猟銃を向けた。

 マデリンを敵と見なしたのだろう。

 それは一瞬の出来事だった。

 マデリンは心臓を押さえる。手が震えていた。


「マデリン様、何をなさったのかわかっておいでですか!?」


 従者の咎めるような声に返そうと口を開いたとき、近くで銃声が響いた。


 バンッ


「キャーーーーッ!」


 銃声音とともに同時に、女性の悲鳴が響く。

 二人の従者、そして、アウルは声のほうに顔を向けた。――さきほど、アウルが猟銃を向けた場所だ。

 黒い影が縮こまる。


 もう一度、銃声が鳴る。


 バンッ


「キャーーーーーッ!」


 叫び声の様子から、叫び声を上げる女性を狙っているようだ。


(どういうこと!?)


 マデリンは銃を構えながら、銃声のするほうを睨みつける。しかし、人影は見つからない。


(――いた)


 一瞬、太陽に反射してきらりと光った。

 森に擬態するような格好をしているのだろう。

 マデリンは息を殺し、ジッと待った。

 心音が耳の奥に響く。

 しかし、それすらも心を安定させるための音楽に聴こえる。


(いける)


 再びキラリと光った瞬間、マデリンは引き金を引いた。


 バンッ

 バンッ


 二つの銃声がコンマ一秒遅れで響き合う。


「キャーーーーッ!」

「ぐあっ!」


 遅れて女性の声と、低い男の声が響いた。黒の影は地面に小さくなってうずくまったままだ。

 それ以降、銃声は聞こえない。

 マデリンとアウルは顔を見合せる。


「マデリン、助かった」


 アウルは真っ青な顔で言った。

 無理はない。もう少しで人を撃つところだったのだから。

 アウルの腕なら確実に当たっていただろう。


「マデリン様、申し訳ございませんでした」


 二人の従者が深く頭を下げる。


「気にしないで。そうしてもらわないと困るから」


 今の標的はアウルだ。咄嗟のことでも反応しアウルを守ってもらわなくてはならない。

 マデリンは周囲を見回して言った。


「他には誰もいないようね」

「警戒しながら、近づこう。君は女性のほうを」


 アウルの指示にマデリンは頷いた。

 周囲への警戒は怠らず、マデリンとアウルは二組に別れて近づく。

 足音に気づいたのか、うずくまっていた女性はガバリと起き上がる。そして、マデリンの足に縋りついた。


「いやーーーーっ! 助けてっ! 私は人間よっ!」


 顔を上げた女性を見て、マデリンは目を丸くした。――ナターシャだったのだ。

 そして、彼女もマデリンのことがわかったのだろう。目を見開く。

 マデリンは


「あなた……! なんでこんなところにいるのよ!?」


 瞬間、マデリンは思いっきり彼女の頬をはたいた。


 パンッ


 真っ赤に腫れた頬を押さえて、ナターシャはマデリンを睨みつけた。


「馬鹿っ! 私に何をするの!?」

「そんな真っ黒なかっこうで狩場に入るなんて、馬鹿はどっち!?」

「そ、それがなんだって……」

「もう少しでアウルは人を殺すところだったのよ!? あなたは死ぬかもしれなかった。それがどういう意味かわかる?」


 マデリンはなりふり構わずさけんだ。

 狩猟大会だ。事故がまったくないというわけではない。

 しかし、だからと言って人を殺していいわけではなかった。

 そして、事故だからと言って、人を撃った人間の傷がなくなるわけではないのだ。

 ナターシャはマデリンの言葉にブルブルと震える。


「で、でも……。ルイード様がここは誰もいなくて安全だからって……」


 ナターシャは震えた声で言った。


「あの男がここにあなたを呼び出したの?」


 マデリンの問いにナターシャは何度も頷く。


「ルイード様の従者の方が……」


 尻すぼみになっていく言葉に、マデリンは小さくため息をついた。


「こんなところに呼び出されてホイホイついてくるなんて、馬鹿じゃないの?」

「馬鹿って! 失礼ね!」


 ナターシャが吠える。

 しかし、マデリンは気にしなかった。

 本当のことだ。狩猟をしていなくても、狩場がいかに危うい場所かは知っているはず。

「安全だから」を安易に信じること自体が、マデリンには理解できなかった。


「もう正式な婚約者なんだから、こんな危ない場所じゃなくて堂々とイチャイチャすればいいじゃない」

「うるさい! 私のことは放っておいて! ルイード様の従者と合流しないと、ルイード様に迷惑がかかっちゃう」

「従者? 待ち合わせをしていたの?」

「違うわ。さっきまでは一緒にいたのよ。だけど、見失ってしまって……」


 ナターシャは眉尻を下げた。


(つまり、そいつがここまでナターシャを誘導したというわけね)


 マデリンは眉根を寄せる。


「マデリン」


 男のほうに行っていたアウルが戻ってきた。彼についていった従者が一人の男を担いでついてきている。


「アウル」

「さすがマデリン。腕前は落ちていないどころか上がっているな」


 従者がマデリンとナターシャの隣に男を転がす。

 男は小さいうめき声を上げる。

 彼は後ろでに縛られていた。アウルたちがやったのだろう。


「弾は猟銃に命中していたようだ。その猟銃が勢いよく顔に当たって気絶していたらしい」


 アウルはマデリンに猟銃を差し出す。

 弾痕の残る猟銃を見て、ホッと胸を撫で下ろした。

 しかし、気絶した男を見て、ナターシャは叫んだ。


「縄を解きなさい! この人はルイード様の従者よ!」


 這うようにして男のもとに寄ると、どうにか縄を解こうとする。

 アウルの従者が慌ててそれを止めた。


「離して! 私を誰だと思っているの!?」


 ナターシャは叫び声を上げた。

 マデリンとアウルはお互いに顔を見合わせる。

 思っていることは同じだろう。

 マデリンは大きなため息をつくと、ナターシャに顔を寄せて言った。


「状況が理解できていないあなたのために、私が教えてあげるわ」

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― 新着の感想 ―
ルイード、何か企んでるとは思っていましたが、ここまで 悪辣な一石二鳥を狙っていたとは… ナターシャが、巻き込まれたお花畑ちゃんに見えてきたので覚醒できると良いなと思ってしまいました。 どう解決する…
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