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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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9-⑥

 そして、首を傾げる。


「いいえ。絶対にあの男の計画は阻止しましょう」

「ああ。もちろんだ」


 アウルは一度頷くと部屋を出ていった。

 残された部屋でマデリンは拳を握った。


(もう、何一つ奪わせないわ)


 それが、トルバ家の――父の意思とは違っても。

 しばらくして、扉が5回叩かれた。


 ***


 髪を高いところでまとめ、帽子の中に入れた。狩猟のときはいつも高いところで一括りにしていたから、慣れている。

 しかし、なぜかいつもよりも心許ない。

 従者用の服は少し肌触りが悪い。

 しかし、動きやすかった。


「本当に行かれるのですね?」


 侍女は潤んだ瞳でマデリンを見上げた。

 マデリンは侍女の頭を撫でる。

 彼女がこれほど心配そうな顔をするのも無理はない。

 今日は狩猟大会だ。

 両親と兄は先ほど出かけていった。

 仮面舞踏会の参加は彼らにはバレずに済んだ。父は最近おとなしくしているマデリンに満足し、「おまえは女らしくおとなしくしていればいい」と言い残し、出かけた。

 後ろ姿に舌を出したことは秘密だ。


「ええ、行ってくるわね。何度も迷惑をかけてごめんなさい」

「いいのです。でも、無理はなさらないでください」

「大丈夫よ。もし、バレたら、みんなで口を揃えて言うのよ?『気づいたらいなかった』って」

「はい」


 マデリンの勝手に使用人たちが叱責されるのは問題だ。

 だから、バレた時は知らぬ存ぜぬを貫いてほしい。

 しばらくして、屋敷の裏門に一台の質素な馬車が到着した。


「行かないと」

「お嬢様、どうかお気をつけて」

「心配性ね。大丈夫よ」


 マデリンは侍女にヒラヒラと手を振ると、馬車へと乗り込んだ。

 馬車にはルート家の使用人が乗っていて、頭を下げる。


「お久しぶりでございます」

「今日は迷惑をかけるわね」

「いえ、主人のために参加していただけると聞いております」

「アウルがそんなことを?」


 マデリンの顔を立ててくれているのだろうか。彼らしいと言えば彼らしい。


「このまま大会の会場に向かい、アウル様と合流予定です。ルート家のテントに入るまでは、私の後ろをついて来てください」

「わかったわ」

「言葉遣いと声の高さにもお気をつけください。どこで誰が聞いているかわかりません」


 使用人の真面目な声色にマデリンは神妙に頷く。そして、低い声で言った。


「わかりました」


 使用人は満足そうに頷くと、淡々とした口調で今日のことを説明していった。


「会場についてからは、絶対に帽子を脱いではなりません」

「はい」

「会話は極力ひかえてください」

「はい」

「会場ではアウル様の身の回りの世話をお願いします。雑用はわれわれが行いますので」

「わかりました」

「どうか、お気をつけて」


使用人は深く頭を下げた。

 馬車が到着し、マデリンは従者として、荷物を持って貴族のあいだを縫っていく。誰もマデリンに興味を示さなかった。

 いつもなら挨拶を交わす令嬢も、視線すら合わせない。まるで空気のようだ。

 それがなんだか新鮮で、マデリンの頬はわずかに緩んだ。

 ルート家のテントに入ると、先に到着していたアウルが使用人たちに指示を出し、荷物を配置していたところだ。


「来たか。思ったよりも早かったな」

「忘れていた荷物をお持ちしました」


 先導していた使用人が足元に荷物を置き、頭を下げる。マデリンも倣って頭を下げた。

 アウルは目を細めて笑うだけだ。


「私たちは馬の準備をしてまいります」

「頼む」


 使用人の言葉にアウルは頷いた。すると、中を準備していた使用人もぞろぞろと彼の後をついていく。

 マデリンが慌てて後ろについていこうとしたとき、先頭に立っていた使用人が立ち止まって振り返った。


「君はアウル様の準備を手伝いなさい」

「は、はい」


 気づけばテントの中にはマデリンとアウルだけだ。

 アウルは猟銃を手に取ると、マデリンに手渡す。


「今日の狩猟は気楽にやろう」

「上位を狙わないのですか?」


 マデリンの問いにアウルは笑った。

 マデリンの慣れない言葉遣いに笑ったのか、それとも頑張って出している低い声に笑ったのか。

 はたまた、マデリンの問いに笑ったのかはわからない。

 アウルは猟銃を確かめながら、なんともないような雰囲気で言う。


「大会はこれが最後ではないからな。今日は腕慣らしといこう」


(アウルが本気を出せば、上位も狙えるのに)


 しかし、今日はどんなことが起こるのかわからない。

 獲物を追っている場合ではないのだろう。


「今日はふだん参加しない貴族たちも参加するだろう」


 マデリンはアウルの言葉に頷いた。

 父もそのうちの一人だからだ。いつもは最初だけ。そしてすぐに休憩所に戻ってきて、似たような貴族たちと会話に耽っている。

 そういう貴族たちが王太子へのアピールで狩場に入るのだ。

 アウルがマデリンの手を取った。

 突然のことにマデリンは目を丸くする。

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よし、どさくさに紛れて父殺ろう。
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