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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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9-⑤

 アウルの瞳が揺れる。


「私も行く」

「……っ!? 何を言ってるのかわかってるのか!?」

「わかってるわよ。私も、狩猟大会に参加する」


 マデリンはゆっくり、はっきりと目を逸らさずにアウルに言った。

 これだけは断られるわけにはいかないと、思ったからだ。


「もちろん、マデリン・トルバとしては行けないと思うけど」


 マデリンが行くと行っても、父はあの手この手を使ってそれを阻止するだろう。

 それに対抗するのはあまりにも無意味だ。


「なら、どうするつもりだ?」

「アウルの従者になるのはどう?」


 狩猟大会には数人の従者が追従することが多い。そのうちの一人になれば、常にアウルの側にいられる。

 アウルが目を見開いた。


「そんな危険なこと、許せるわけがないだろ!?」

「アウルよりはぜんぜん危険ではないわ」

「もし、トルバ侯爵にバレたら……」

「怒られるだけよ。少し痛い思いはするかもしれないけど」


 その程度、どうってことはない。

 鞭打たれるのは慣れている。

 アウルは不快そうに眉根を寄せた。マデリンよりもマデリンの怪我を嫌っているようだ。

 マデリンは肩を揺らして笑う。痛い思いをするのはアウルではないのに、どうしてそんな顔をするのだろうか。


「いい? お父様もあの男も私に危害は加えない」


 ルイードと父の狙いは、マデリンを再びルイードの婚約者にすること。

 たとえ、言いつけを破ってマデリンが狩猟大会に現れたとしても、できることは限られている。


「だが、もし私が命を狙われた場合、従者の君も狙われる」

「その時は正体を明かすわ」


 それで完璧に安全かと問われたら、そうではないだろう。けれど、アウルが危険な状態の中、一人だけのほほんと屋敷で待てるほど、マデリンの心臓は強くない。

 少し危険でも、アウルの側で一緒に戦いたかった。

 アウルは小さく息を吐く。


「君が心配だ」

「私はあなたが心配よ」


 あの蛇のような男が何をしようとしているのかわからない今、心配せずにはいられない。


「それにもとは私の戦いよ。私と婚約したことで、あなたは巻き込まれただけ。私はあなたを守る義務があるわ」


 アウルに婚約を提案したのはマデリンだ。

 恋心を隠し、両者の利になると説いて約束した。

 こんなことになったら、あっさり婚約を解消されてもおかしくないと思う。

 マデリンと婚約さえしなければ、アウルは狙われなかったのだ。


「自分の身は自分で守れる」

「そういう驕りが危ないのよ。『うん』と言って、アウル。私は私の居場所を守るために参加したい」

「マデリン……」

「昔ほど狩猟はうまくないけど、私は役に立つはずよ」


 毎日ルート家に通い、昔の勘を取り戻してきた。愛馬との息も合っている。

 そこら辺の男には負けない自信があった。


「……わかった。そうでもしないと、もっと危険なことをしそうだしな」

「よくわかっているじゃない」


 マデリンは目を細めて笑う。

 アウルに許可がもらえなかったら、マデリンは他の方法を考えていただろう。


「従者のふりなんて本当にできるのか?」

「帽子を被れば髪も隠せるし、顔も見えないでしょう?」

「本気なんだな」


 アウルは苦笑をもらす。


「本気よ。アウルを一番近く守るなら、従者が一番でしょう?」


 従者として参加すれば、マデリン・トルバとして参加するよりも近くにいれるのではないだろうか。


「まるで私のほうがお姫様だな」


 アウルは呟くように言った。

 マデリンは否定も肯定もせず、小さく笑う。


(そんなことないわよ。いつも、アウルが私を助けてくれている。だから、今度は私が助けたいの)


 それに、もう二度と失敗したくないのだ。

 五年前、自分の気持ちに素直になれず待っていたら、まったく想像もつかない結果になっていた。

 今回もそうならないとは限らない。

 自分の居場所は自分で守る。手放したくないものは、守らなくてはならない。

 マデリンが人生で学んだことだ。


「私がアウル姫を守ってあげる」

「それは心強い。だが、自分の身を一番に考えてほしい。たとえ……」


 アウルが言い淀む。

 たとえ、のあとが気になった。いや、簡単に想像できる。

 たとえ、アウルが罠に嵌められても。

 たとえ、婚約が解消される事態になっても。

 たとえ、アウルの命が危険に晒されても。

 それだけの言葉を頭に並べて、マデリンは大きなため息をついた。


「馬鹿ねぇ。命が一番大切よ。当たり前じゃない。いい? アウルも、自分を一番大切にしなさい?」

「そうだな。そうしよう」


 アウルはわずかに笑って頷く。

 それでいい。二人の関係は愛し合う恋人ではない。

 利害関係が一致した仲間――友人だ。

 命が危険に晒されるくらいなら、マデリンとの婚約を解消したほうがいい。


「当日に関しての相談はハンナを通してしよう。君は早く帰ったほうがいい」

「そうね。あまり遅いとみんなに迷惑をかけてしまうわ」


 きっと、今ごろマデリンの帰りを待っているだろう。


「帰りはこれを使え」


 アウルは自身の仮面をマデリンに差し出した。

 マデリンは首を傾げる。


「仮面を変えれば、あの男もすぐには気付きにくい」

「そうね。じゃあ、私のはアウルにあげる」


 少し女性的すぎるデザインではあるけれど。


「私が先に出る。外に誰もいなければ、五回ノックをするから、そのあと出てくれ」


 アウルはマデリンの仮面をつけながら立ち上がった。

 真剣な雰囲気も相まって、仮面はあまり似合っていない。


「じゃあ、またな」


 アウルは口角を上げると、扉の取手に手をかけた。


「ねえ、アウル」


 マデリンの声かけにアウルは振り返った。

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