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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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9-③

 強い力で引き寄せられ、抵抗することはかなわなかった。


「ちょっと!」

「静かに!」


 文句の一つでも言おうとしたとき、大きな手がマデリンの口を塞いだ。


「んんっ!」


 マデリンは全身で抵抗する。しかし、男女の力の差は歴然だ。

 拳で殴りつけても、びくともしない。

 マデリンが噛みつこうとした瞬間、男が自ら仮面を外した。


「落ち着け! 私だ! アウルだ!」


 マデリンは目を見開いた。

 アウルは安堵の表情を見せると、仮面をつけなおす。


「アウル……!? なんでいるの?」

「それは私のセリフだと思うんだが」


 アウルは苦笑を浮かべた。


「それは――……」

「その前に」


 マデリンが口を開いた瞬間、アウルがマエリンの腰を抱く。

 胸が跳ねた。

 仮面越しではあるが、まつ毛の本数まで数えられそうな距離に、心臓は騒がしくなる。


「ちょっ……」


 マデリンが文句を言うよりも早く、パーティー会場に続く扉が開いた。

 赤い髪が揺れる。――ルイードだ。まだマデリンを探しているのだろう。

 マデリンは慌ててアウルの胸に顔を埋めた。

 アウルの心音が聞こえる。

 マデリンのそれと同じくらい速くて、自分の鼓動を聞いているような気分だった。


「何か?」


 アウルが低い声でルイードに尋ねる。

 張り詰めた空気にマデリンはアウルの服を握りしめた。

 早く諦めてほしい。


「女性が一人ここを通らなかっただろうか?」

「さあ? よそ見をする暇などなかったので」

「それは失礼した」


 ルイードは小さく舌打ちをすると、大股で庭園の奥へと進んでいった。

 彼の影がなくなると、アウルは大きなため息をつく。


「はあ……。行ったな。今のうちに別の場所に移動しよう」

「ええ」


 アウルは何事もなかったかのようにマデリンの腕を引いて、パーティー会場の中に入った。

 騒がしかった会場がやけに静かに感じる。

 いや、騒がしさが変わったわけではない。談笑の声もあちらこちらから聞こえるし、ダンスのための演奏も鳴り響いている。

 それ以上に心臓が騒がしいのだ。

 耳のすぐ側で鳴り響いているような、そんな感覚に支配されていた。

 アウルは会場をまっすぐ過ぎ、一つの部屋に入った。

 内側から鍵をかける。

 マデリンはホッと息を吐いた。


「どういうことか、説明してくれるか?」


 仮面を外したアウルが、満面の笑みを見せた。

 一難去ってまた一難。

 マデリンは苦笑を浮かべる。


「仮面舞踏会ならバレないと思ったの」


 マデリンはアウルに倣って仮面を外した。

 カツラを被って髪の色も変えた。家族も見ていないドレスを着た。完璧だったはずだ。

 たった一つの誤算は、アウルが参加していたことだろう。


「よく私だってわかったわね」

「わかるさ」

「ドレスのせいね。ごめんなさい。狩猟大会の日に着るために買ったのに……」


 マデリンは深く頭を下げた。

 勝手に判断をして、申し訳ないことをしたと思う。

 アウルは小さくため息をつくと、マデリンの頭を乱暴に撫でる。


「別にいいさ。でも、相談はしてほしかった」

「昨日、知ったの。だから、連絡を取ることができなかったのよ」

「相変わらずマデリンは猪突猛進だな」


 アウルはカラカラと笑う。

 怒ってはいないようだ。


「ごめんね。待っていろって言われていたのに」

「あれ、見つけたのか?」

「ええ、あんな細工までする必要のない手紙だったわ」

「いいだろう? おもしろいかと思って」


 アウルは照れくさそうに笑いながら、ソファに腰かけた。マデリンも追いかけて隣に座る。

 なんだかこうやって隣にアウルがいるのは久しぶりだ。


「気づかないところだったわ」


 気づかずに、ボーッと日が過ぎていくのを待っていたかもしれない。


「気づいてよかった」


 アウルは目を細める。マデリンはそんな彼の横顔を見上げた。

 ひどく懐かしく感じる。

 こんな顔だっただろうか。

 長い睫毛と通った鼻筋を眺めながら、マデリンは思った。


「怪我はないわ」

「……え?」

「返事。怪我はしてない」

「そうか。よかった」


 アウルが破顔する。

 いつものアウルだ。


「どうしてあの男に近づいたりしたんだ?」

「見ていたの?」

「ああ、恋人みたいにくっついて、肝が冷えた」


 アウルがまっすぐマデリンの目を見て言う。どこか咎めるような瞳に、気まずさを感じる。

 浮気場面を見られてしまったような、そんな感覚だ。

 しかし、マデリンとアウルの関係は利害が一致しただけの友人。

 罪悪感を感じるのは間違っているのだろう。


「情報を聞き出そうと思ったの。多分、あの男は私だって気づいていないわ」

「だからって、あんな危ない真似するな」


 アウルの眉根がギュッと寄る。


「危なくても、必要だと思ったわ。あの男は絶対に何かしでかすもの」

「……ああ。でも、マデリンには危ない目にあってほしくない」


 マデリンは小さく息を吐く。そして、眉尻を下げた。


「私の周りには過保護な人しかいないわね」


 アウルだけではない。侍女もだ。

 彼女もマデリンに対して過保護だった。


「そんなことより、あいつのことよ。あいつ、ナターシャと婚約破棄するつもりみたい」

「婚約破棄? だが、そう簡単な話じゃないだろ?」

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